5話 友の共
教室に戻ると小宮はいつものグループで談笑しながら食事をしていた。
課題をやるふりをしながら話しかける機会を窺っていると、誰か俺の席に近づいて来た。
顔を上げると一人の男と目が合った。
「よっ」
その男は軽快な物言いで、右手を掲げて俺に合図を送る。
「…………」
むくりと体を起こして俺はその男の目を睨むようにして見た。
邪魔しないでくれ、そういう意味を込めてのアイコンタクトだが、そんなもの今日が初対面の奴に通じるはずもない。
そうこうしてるうちにその男が喋り始める。
「俺、七星優雅。よろしく、神来」
チャラチャラとした見た目とワイシャツの着こなし方は正に、俺の対極にいるような存在。
一応、小宮とも仲がいいのかよく一緒にいるところを見かける。
本来なら関わりたくないことこの上ないのだが、現状を鑑みると七星と知り合っておくのは悪いことではない。何か聞き出せるかもしれない。
つまり会話を進めることを選択したわけだが、何を話せばいいのかわからない。男の友達は少ないがいたことある、でもそれは俺と同じ属性持ちの奴。
こんな陽キャと喋ったことなど数えるほどだ。……一応、こっちも自己紹介し返すか悩んでいると七星が口を開く。
「噂には聞いてるよ。事故って半年、入院してたんだってね」
「まあな」
テキトーに返事をすると、七星はうんうんと頷くだけでそれ以上は聞き出さない。どうやら気を遣うことはできるようだ。
勝手な偏見だが、こういう奴はもっとガツガツくるものだと思ってた。
「で、何の用だ」
こんなどうでもいい会話をする為に話しかけたようには見えなかった。十中八九なにかしらの用があって俺に話しかけたはずだ。
その予想通り、七星は真剣な表情へと変えて一言告げる。
「俺に女の子の落とし方を教えて欲しい」
低い声音と神妙な面持ちで彼は言った。
「は?」
俺の思考が完全に一時中断して理解しようと脳を回転させた。
すると、七星が若干照れながら言い訳の言葉を並べる。
「男なんだから、いいだろうが。モテたいと思っても」
「でもなんで俺なんだよ」
俺以外にも適任はいる。
そう正に小宮とかぴったりだろう。
「だって神来、一条と付き合ってるんでしょ」
「付き合ってねえよ。どこからそんな話が」
「まじで!? 一緒に帰ったり、お昼食べたりしてるという話を聞いたが」
どちらも間違ってないが、ひどい誤解だ。
「その噂流すのやめてくれ。一条さんに迷惑掛かるから」
「別に俺が言いふらしてるわけじゃない、あくまで噂だ。んまあ、そんなことどうでもいい。教えてくれ、どんなテクニックを使ったんだ!」
この男は一体、何を誤解しているのか。
確かに俺も復学当初は女の子に話しかけられて舞い上がっていたが現状、彼女を作るに至ってない。
「そんなテクニック、俺が教えて欲しいくらいだよ」
「神来、お前面白いな」
七星は勝手に何かを察してニヤニヤとしている。
「いや、本当だから。強いて言うなら、半年間休んでいたから心配してくれたのかもな」
この俺の言い分に七星は特に何かリアクションを見せることはなく一つ頷いた。
「じゃああの噂は真実なのか」
別に隠しておく必要はない、と思う。
「あー、そうだな」
「うおっ! マジかぁー」
なんかそんなオーバーなリアクションされると腹立つな。
さっきよりも前のめりになりながら七星は会話を続ける。
「それは女の子を落とす方法かもな」
「え?」
「いや、だって女の子を間一髪で助けたわけだろ。絶対その女の子、神来のこと気になるに決まってんじゃん」
確かにそれはある。
でも方法としてはどうなんだ。再現性に圧倒的に欠けているが。
「ちなみに誰だったんだ、その助けた女の子」
「知らない」
「知らない?」
俺も期待していたんだけどな。
一ヶ月、二ヶ月くらいは毎日今日来るんじゃないか、今日はあるだろ、そう思いながらソワソワしていたものだ。
でも、見た目というか雰囲気はあまり反りが合うとは思えなかったが。
「気にならないの?」
もちろん気になりはする。当然だ、でもそれを知ったからどうなるというのか。
流石に半年もすれば待ちくたびれてしまったというものだ。
「七星、お前女が欲しいって言ったよな」
「違う違う。女の子を落とす方法をだな」
「一人紹介できる」
初野の目的を達成するのに小宮である必要はない。この七星だっていいはずだ。
見た目も俺よりはいい。コミュ力もあって陽キャグループに相応しい。
「さすが持つべきは友だな」
「じゃあ、ついてきてくれ」
ここに初野はいない。
桐山に聞いたところ孤立してから初野いつも一人で中庭のベンチで昼食を済ますと言う。
「行くぞ」
「おう!」