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4話 食事の時間

 午前中、特に何も起きることなく昼休みになった。

 俺は購買に昼飯を買いに行こうと立ち上がる。とそこに満面の笑みで近づいてくる女の子を見つけてしまった。


 でも目的は俺じゃないかもしれない、そう思って歩き出す。


「どこ行くし!」


 手首を掴まれて今の言葉。

 やっぱり俺だったのか。


「俺あんま慣れてないからさ、人と接するって」

「は?」


 いや、うん、まあ軽く流してくれてよかったんですけね。

 真顔でそんな「何言ってんの、こいつ」って目で見られるのはまじ勘弁。

 どちらにせよ、桐山胡桃(きりやまくるみ)には用があった。丁度いい、と思って少しくらい会話に付き合うか。


「で、なんの用」

「いやいや、昨日美鈴ちゃんと一緒に帰ったんだよね。なんかあったっしょ!」

「なんでお前まで知ってんだよ。……プライベート監視されんのか、俺は」


 しかしだ 桐山がこの話に興味湧くのも仕方ないと言えば、仕方ない。

 昨日の一条とのやり取りを見れば、友達以上の関係というのが窺える。


「で、どうなの」

「もちろん何もねえよ。桐山が期待していることは何もな」

「えー、なにそれ」


 つまらなそうな顔をして言ってるが、桐山の顔は少し綻んでいる。

 その表情を見ていると、これ以上の話は余計な地雷を踏むことになるかもしれない。

 陰キャらしく人の気を遣って息を吐く。


「……桐山、一つ相談があるんだが」

「なになに!」


 身を乗り出し、目をきらきらと輝かせながら聞き返してくる。

 アマゾン川のピラニア並みに食いつきがいいな。


「別に大したことじゃないんだが、小宮秋斗(こみやあきと)って知ってるか」


 朝、初野が指差した席に座った男。それが小宮秋斗だった。

 身長は高く、運動部に所属してる。クラスで一番影響力の高いリア充グループの中心的人物と言ってもいいだろう。


 それはわかる。

 俺が知りたいのはその先だ。


「…………」

「どうした?」


 嬉々として答えてくるかと予想していたが、桐山の反応は鈍い。浮かない顔をして若干、俺から目を逸らす。


「いやー、ちょっと小宮のことはあまり話したくないな」

「なにかあったのか」

「なにかって言うか、告白されて私が振った」


 ぼそりと告げた一言はどんなボクサーのパンチよりも重い。

 予想外の答えに俺は固まってしまう。


「まじで?」

「告白されたの二ヵ月前くらいだけど、そこから今も小宮に避けられてる」


 大丈夫かよ、そんな小物がクラスのリア充トップで。


「そうか、わかった」


 多分、これ以上聞いても小宮のことは何もわからないだろう。

 桐山の表情は完全に冷めていた。

 興味がないんだろう。


「じゃあ、俺は昼食べに行くから」


 話を切り上げて歩き出そうとすると、素早い動きで俺の正面に立った。


「私も行く!」

「なんでだよ」

「だって神来が小宮のこと知りたがってるって、これなんかあるじゃん!」


 よく見る桐山胡桃の表情に戻り、にこりと微笑んだ。

 男はそれされると弱い。



 ◇ ◇ ◇



 食堂に行くと、半年前と特に変わらないラインナップ。

 定番の日替わり定食を買って俺は空いてる席に座る。


「でさ、なんで小宮?」


 ぱくぱくと食べながら桐山は尋ねてくる。

 その隣の席に座る一条は頭の上に疑問符を浮かべた。


「小宮って小宮秋斗さん?」

「美鈴ちゃん、知ってるんだ」

「一年の頃、同じクラスだったよ」


 一条は家から持ってきたお弁当を食べながら答えた。

 

「お前、一条が小宮のこと知ってるから呼んだわけじゃないのか」

「え、いや、だからさ……もうっ、とりあえずさ知れるならなんでもいいじゃん」

 

 それ以外に一条を呼ぶ理由、そうか。

 俺と二人だと変な噂とか流されることを嫌ったのか。……わからなくもない。

 有無を言わせぬ圧力を感じてこくりと頷き答える。


「どうかしたの?」


 一条は不安そうな顔で俺を見つめ、問いかけた。


「もう解決したから心配しないで」

「そっか。えっと何の話だっけ?」

「小宮のこと何か知ってるかなって」


 趣味や特技、生い立ちまで知りたいわけじゃない。どういう性格や学校の立ち位置というのを把握していないとこっちも手を打てない。


 一条は暫し、顎に手を当てて考えた後にパッと何か思いついたように言う。


「いっぱい友達いる、とか」

「なにそれ……」


 桐山が軽く引いたような顔して固まった。


「で、でも興味ない人のこと覚えてなくない?」


 言っちゃったよ……。

 確かに、興味ない人間のこと覚えてない。俺も一年の頃、同じクラスだった人間の印象聞かれてパッと答えられる自信はない。というか、多分無理。


「そういうの俺もあるかもな」

「だよね! 神来くんならそういうと思った」


 仲間を見つけた、と嬉々として言ってくるが俺としてはあんま嬉しくない。


「えーなんか私がおかしいみたいじゃない?」

「じゃあ出席番号一番」

「青木でしょ。覚えてるよ。まず……」


 とそこでフリーズして動かない桐山。


「ほら、出てこないでしょ」

「……ごめん、青木」


 結局、小宮については収穫なし。

 別にここで情報収集しようなんて考えてなかったから問題はない。


「一条さん、なんかごめんね。小宮についてはこっちで勝手に調べるから」

「あ、……うん」


 府に落ちない様子ではあるが、何か察してくれて身を引いてくれた。

 俺は定食を食べ、席を立つ。


「じゃあ、俺は先に教室に戻る」

「ばいばーい」

「またご一緒にお昼食べてもいいですかっ!」

「こちらこそ、またよろしく頼む」


 そう言い残して俺は食器を下げに行く。

 

 情報収集とか周りくどいし、直接話しを聞きに行った方が早いか。……いやでも、調子乗ってるとか思われたら嫌だなぁ。

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お読みいただき有難うございます!<> 平凡と幼馴染……はヤクザの娘!?~あいつ俺のこと好きなんじゃね。いや、やっぱり関わりたくない。でも向こうは俺に迫ってくる。~<> 連載中です!<びーあーる> 気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです
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