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城の真ん中の物見台の更に上に尖塔があり、私はかすかに震える手でその天辺へとよじ登っていた。とても淑女のすることではない。聖女服の下がショートパンツでよかった。そして、たどり着く。
『我が信じたる真なる神よ』
私の周りが光り出す。儀式に必要なものは何もない。
『貴方の御子たる私が望むはこの地の浄化』
声が何重にもなって聞こえる。こうなるとトランス状態になって他の何も分からなくなる、いつもなら。だけれど、今は、魔王様の視線だけは分かった。先程まで、あれほどの威圧感を放っていたのに、いまは静かだ。波のない海みたい。
『どうぞ我が声、わが意志を聞き届けたまえ―――』
全身から光が溢れだす。四方八方へと地平線の果てまで、浄化の光は届くだろう。命を削るように祈る。ただ、祈る。どうか、どうか。
私は光を放ったままゆっくりと浮いていた。
そして天は割れ、光は降り注ぎ、見渡す限り、遠く遠くまで。
『いかがでしょう。我が意志は、聞き届けていただけましたでしょうか』
そう言葉にすると、神の暖かい手が両頬を包むように触れてくれたことが分かった。
『有難うございます』
音としての返事は聞こえないけれど、浄化は成ったのだと、そう理解した。
ゆっくりとからだがおちていく。そのまま尖塔の下、見張り台の地面へ体がおちていこうとしたとき――
「大義であった」
そう、耳元で声が聞こえ。
私はゆっくりと意識を手放した。