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「魔王様、お連れいたしました」
謁見の間だ。ここもまた、祖国より品がよく美しい。よほどの職人がいるのだろう、ドワーフかな、エルフかな。
私はかつて伯爵家令嬢だったころの記憶を無理やり引きずり出し、カーテシーをした。汗が止まらない。可能なら泣いてしまいたい。それほどの恐怖を、相手に感じていた。これは全力の私でも勝てないや、そう思わせる男が玉座に座っていた。
烏の濡れ羽のような黒い髪に覗きこめば吸い込まれそうな美の結晶の赤い瞳、これ以上なく整った鼻梁、この世の美というものの粋を集めた男。それが魔王だった。
黒い軍服のような服装をしている。存在感が私を押しつぶす。どうしてこんなところにいるんだろう。どうしてこんなことになっているんだろう。でも決めたんだ、だから立つんだ。
「発言をお許しいただけますでしょうか」
魔王様はほんの少しだけ視線を動かした。あぁいままで、私は視界に入ってすらいなかったのだと、それでわかる。圧が、全身を押しつぶす。微かに喉が啼いた。膝が震える。だけれど私は目を合わす。
「許す」
「この国全土を浄化させていただきたいのです。そのために、この城の尖塔に登らせて下さい」
「…………どう思う、ロドリグ」
緑髪メガネが緊張に緊張を重ねた声で言う。
「聞くに堪えない戯言かと」
「では娘」
「はい」
「お前は何を賭ける?」
「…なにかを賭ければ、聞くに堪えない戯言も、聞いていただけると言う事でございますね?」
「そうだ」
「魔王様!」
緑髪メガネが制止しようとするところに重ねるように
「では命を」
「身勝手で自己中心的な偽善のために?」
「はい」
なんだきちんと話をしてくれるんだな。意識とびそうだけど。
「では逆に、成功した暁には何を望む」
「そうですね…睡眠と、食事を」
緑髪メガネが意味分からないと言う顔をしている。
「十日何も食べていないもので」
私は笑った。
魔王様は、なぜかひどく気分を害されたようで、酷く不愉快そうに、
「では尖塔へ行け」
そう言った。