表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

3

 瘴気の濃度が尋常じゃない。

 当たり前だ、歴代の聖女が継続して浄化してきた結界内と違って、ここには浄化する機構がない。

 私は自分の周りだけを守るように小さな結界を張り、まっすぐ歩いて行く。こんなんもう、領全体が瘴気だまりみたいなもんじゃないか。

 住民はいるんだろうか?いるとして、どうやって生き残っているんだろう。よほど強靭な力を持っているのかもしれない。瘴気の中にいると、人も動物もおかしくなる。ということは、私は住民に攻撃される可能性も考えていかないと――って、お?


 噂をすれば、何やら建築物のようなものが見えてきた。瘴気でかすんでるけど。そしてそこから、二足歩行の、小型のドラゴンのような生き物が出てくる。ドラゴンの亜種かな?ということはここは、亜人が普通なのかもしれない。というか人間はこの瘴気に飲まれたら普通に死ぬから多分ここは亜人の住む地域なのだ。

 私は注意深く、彼、或いは彼女を観察する。とてもいらいらした様子で、時折肌を血が出るまでかきむしっている。遠くで鳥の喧嘩のような声が聞こえる、彼?彼女?も唸り声を上げる。その声と喧嘩の声が似ているので、多分、同族の喧嘩なのだろう。

 瘴気の症状だ。精神不安定、身体異常、他者との衝突、無意味な威嚇行動や叫んだりなど。

 私は思った。この瘴気の濃さで、これだけ耐えられるのは、すごいと。いっそ感動といっていい。ものすごい理性だ。人間なら普通に殺し合って町が全滅しているところを、ここでは少なくとも喧嘩で済んでいる気配がするし、家屋があるということは生活が成り立っているということだ。それか、よほどすごい長がいるのかな?

 そのとき、ドラゴン亜種らしきその生物がこちらを振り返った。

 その目はまっすぐ私という異物を認識している。

 そして


「ニンゲン…」


 そう、言った。


 それとともに彼は跳ぶ。私に向かって、脚力で一直線に。明らかな憎悪をこめて。

 物理防壁を展開する。

 防壁に阻まれた彼?はそれをひっかきながら叫ぶ。


「ワレワレヲ、コノ、キリ、ニ、トジコメオッテ…!!」

「おっけーなるほどそりゃ私たち人間が多分悪い予感がするななんとなくな!?」


 亜人という存在を悪しざまに書いている歴史書は探せばいくらでもある。そして完全に住む地域を分けたのだと言うのがたしか二千年くらい前なのだ。ということはこの瘴気は二千年物、ヴィンテージにも程がある!

 住む地域を分けたとは書いてあっても、どう分けたとは書いていない。つまり人間は多分亜人を自分たちの国から追い出し、結界を張り、入れないようにした!どうだろう迷探偵ロクサンヌの推理は!

 しかしこちとら瘴気の専門家。


「ちょっとまってね!」


 彼?が唸り声を上げながら防壁を引っ掻いている今その時、同時に浄化するなんてお手の者。それも二千年物なんておかしなものはもう、聖女として神を信じる心を以て、すぱっとなんとかしちゃおうじゃないか!


『浄化!!!!!』


 身も蓋もない言葉一つで、霧が消し飛んでいく。ざらついた視界はけし飛びそれは天変にて青空を成しこの地を照らす。


「は…?」


 私に食いかかっていた彼?は目を見張った。ついでに血の出ている腕も治しておく。

 そして、二千年ぶりの青空を前に、私は晴れやかに言った。


「こんにちは、私は聖女ロクサンヌ!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ