表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

26

 城のテラスに出ると、夜風が気持ちいい。


「今日はありがとうございました」

「礼を言われるようなことじゃない」

「いいえ!ナタニエルが素敵な魔王様だから、こんなに素敵な結婚式と晩餐を過ごせたんだもの!」

「…そうか」


 彼の笑顔が嬉しい。

 愛おしいと思う。

 ゆっくりと近づいてくるその影、テラスに並べば、赤い目は一番星を越える宝石だ。


「私、きっと、使用人みたいな扱いも、聖女として泣いたり笑ったりしちゃいけない生活も、嫌だったんです。やっとそれがわかったんです。幸せになりたいって、そういう欲望を抱いて、そのときにはもう、幸せだったんです!だから今が夢みたい!」

「夢では困る」


 彼の手が伸びて、私を抱きしめる。

 ナタニエルの体温が、心臓の音が、聞こえる。


「…初夜、ですね」

「そうだな。だが無理しなくていい、お前は――」

「いいんです。ううん、あなたを求めたい」


 ナタニエルが背に回した手に強い力を感じる。


「貴方が、欲しいの」


 私はゆっくりと目を閉じた。唇が、そこに降ってくる。


「それも、欲望か」

「はい、私の」

「その…一線を越えてしまえば聖女としての資格を失う訳ではないのか」

「神の御子は死ぬまで神の御子です。そういうのは関係ない、って天啓が」

「天啓?」

「教会では厳しく律されていたので、神様が心配してくださったんです」

「…そうか」


 彼は私を横抱きにすると、ゆっくりと部屋に戻る。テラスの扉を閉じると、部屋はしんと静まり返った。


「もし私が死んだら、この城の物見台に描いておいた魔法陣に、誰でもいいので淀みが出る度に魔力を通して下さい。そうしたら、城にいるまま、淀みを消し去ることができます。私の研究の成果です」

「…結婚初日に縁起でもない話をするな」

「大丈夫ですよ、老衰で死ぬまで、しっかり行ききるつもりですから!ただ、ちゃんと自分の死んだ後のことも考えないといけません。聖女も世襲制ではないので」

「そうか。…おまえはいつもおかしなやつだったな」

「あーっ笑いましたね!」

「それが俺の惚れた女だと思うとおかしくてな」


 あっというまに頬が熱くなる。ゆっくりとベッドに横たえられた身体に、胸がドキドキする。


「…ナタニエル」

「…ロクサンヌ」


 口づけを繰り返しながら互いの名前を呼ぶ。


「俺の、俺だけの花嫁。…幸せにする」

「もうとっくに、幸せですよ。それに私もナタニエルを幸せにします」

「それこそ、今更だ。俺もお前が側にいるだけで、心から幸せを感じているよ、ロクサンヌ」


 ふたりは想いを通わせたまま、唇に頬笑みを浮かべ、もう一度柔らかく口づけをした。

 そして夜は更けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ