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「告白されて倒れるのは前代未聞だろうな」

「申し訳ありません…」


 数分後に目を覚ました私を再び椅子に座らせながら、魔王様は溜息をついた。そして、くしゃりと笑う。


「いや、それくらい俺の気持ちを全力で受け止めてくれたことが嬉しいさ」


 あぁ。いつのまにか、最初は無表情だったこの人の笑顔を、困り顔を、優しい顔を、見慣れるほどに側にいたのだ。そんなことに今更気づくなんて。


「ナタニエル…あの、あの…」

「なんだ?ロクサンヌ」


 なんて優しい声で私の名前を呼ぶのだろう。

 愛しさが溢れて、少し、いやとても、ずうずうしくなってしまう。


「キスをしてくれませんか…」


 言葉を発し終わる前に。額に、頬に、顎に、そしてゆっくりと唇に。柔らかで温かな感触が触れる。


「ひょあ…」


 私は目を回しかけながら、なんとか耐えて、嬉しさに頬をバラ色に染めながら、


「ありがとう、愛してくれて」


 そう、心からつぶやいた。


「私に心をくれてありがとう。欲望を、喜びを、悲しみを、くれてありがとう…」

「そんな可愛いことを言うな。男はな、狼なんだぞ」


 ぐわー、と、両手で襲うポーズをとった後、彼は背筋を伸ばして、


「こちらこそありがとう。お前の全てを愛しいと、護りたいと、そんな存在をくれてありがとう」


 私の薬指の指輪をそっと撫で、


「ここにもう一つ、指輪を贈りたい。結婚してくれるか」


 なんて素敵なプロポーズだろう。


「はい、結婚します。貴方が好きです」


 そして2人、ぎゅうっと抱き合った。

 子供みたいにふたり愛を確かめ合った。

 そして城中に手を繋いで報告して回り、指輪職人を城に招き入れ、互いの瞳の色を互いに身につけられる最高の指輪を作ると奮起する指輪職人に頼み、そして最速で完成してくれたそれを、クラリスが用意してくれた婚礼衣装で、使用人だけが見守る中で、祭壇で互いの指にはめた。

 そして、国中に結婚の報せを出した。


 国は瘴気が払われたとき以来のお祭り騒ぎとなり、特需で沸き、住民は子供から老人まで種族も関係なく皆が喜んだ。


 そしてそんな国のお祭り騒ぎをよそに、城では婚約の時と同様に、城の中でだけ出来る豪華な料理を、今日は使用人たちも一緒に食べてささやかなお祝いをしていた。


「披露宴は本当にいいのか?」

「祭壇で指輪をはめたので十分ですよ」

「そんなことありませんわ、あぁせっかくロクサンヌ様を着飾るチャンスが…!!」


 クラリスは悲しそうにお肉をもぐもぐ食べている。


「ごめんねクラリス。でも、本当に幸せで、これ以上はお腹がいっぱいなの」

「儂としても残念ではございますが、奥様のおっしゃること、いたしかたありません。クラリス殿、今夜は飲み明かしましょう」

「ええぜひ、ジェルマン様!」

「あっしは今夜の料理に全力を出すぐらいしか出来やしませんでしたが、いかがでしょうかね?」

「とっても美味しいわ、さすがはジャンね!」

「へへ、奥様に褒められると頑張った甲斐があるってもんですわ!」

「おいジャン、俺の妻に粉をかけるんじゃないぞ」

「そんな気はないですよ、おふたりの熱々は熱した鉄板よりよーくわかっとります」

「つつつつ妻って…!!」

「妻を妻と呼んで何が悪い?」

「いいいいいえあの、とっても嬉しいんです…!!嬉しくて倒れそうで」

「その時は支えるから安心しろ」

「はひいいいい」

「いやあしかし魔王様も所帯をもたれてよかった。魔王は世襲制ではありませんが、奥方がおられると治世が長く続くとはよくいいますしね」

「とかいってロドリグ様はちょっと寂しいんじゃないんですか?魔王様の側近は俺だけだ!って顔してたじゃないですか」

「側近と奥方は違いますから」

「すましちゃって、このこの~」

「クラリス殿、もう酔われてますか?」


 こんなふうに楽しい晩餐が開催され、夜は更けていくのでした。


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