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一週間はあっという間だった。
湖畔の別荘には誰も近づかなかったから、私たち二人きりの一週間。
窓を開け放って涼しい風の中でただお喋りをした。他愛ない、いつでもできるような話を、ふたりきりで。
それから一緒にテラスで本を読んだり、ハンモックを引っ張り出してきて私がうっかり昼寝してナタニエルが寝顔をじっと見ていたと知って赤面したり、料理は魔術で材料から出てくるので思わず拍手してしまったり。もちろん料理はとっても美味しかった。
前から思っていたけれど、人間が使う魔術とナタニエルが使う魔術って全然違う。起源が違うのかな。それとも単純に歴史の長さの違い?
「ナタニエルっていくつなの?」
「まだ魔王としては若いな。250…くらいか」
人間とまるでちがう寿命。そもそも亜人は寿命が長いけど、きっとその中でも魔王は特別に長いんだ。
「じゃあ、私の方がずっと先に死んじゃうね」
「そうでもないぞ」
「え?」
「魔王と婚姻せしものは、魔王と生を共にするために、寿命も延びる。共に生きるために」
そんな便利な機能がついているのか。歴代魔王はきっと深く妃を愛でたんだろう。
「今日は何をする?」
ナタニエルに尋ねると、
「ピクニックに行こうか」
「本当?このあたり、散策してみたかったんだ」
「ランチはボックスに詰めてある」
「贅沢だなあ、魔王様特製のランチボックス」
私たちはずっと笑顔でいた気がする。存分に気を休めて、心から互いだけを感じ合って。不思議だった。私の人生にこんな時間が来るなんて。湖の側にシートをひいて、ナタニエルのランチを堪能した。それは心から美味しいランチだった。
最後の夜は同じベッドで眠った。
じりじりと枕を持って迫ってくるナタニエルと、じわじわと逃げ場を失っていく私。最後には二人して笑ってしまって、それから私のベッドにご招待した。
後ろから抱き締められて、体温を直に感じて、それはとても恥ずかしいけれど、とても嬉しいことだった。だから少しだけ泣けてきて、その涙を、ナタニエルが拭ってくれた。だから私は安心して眠ることができた。
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遠見の魔術を使える魔王はわざと言わなかった。
彼女の祖国などとうにないことを。
聖女は魔獣の討伐を嫌がり城で贅沢三昧、父王を毒で殺し王となった王太子は見事な愚王となり果て、瘴気だまりにより各地に被害が出たため民衆が耐えきれなくなりクーデターが起き、その隙をついて隣国が丸ごと支配し国は地図から消えたことを。王も、ろくな仕事もしなかった聖女も、聖女の生家も、その行方は悲惨なものだったことも。そんなことは、魔王の婚約者となった彼女には、もう一切関係ないことだと。