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体を洗われ、マッサージされ、コルセットを締められ、ドレスを着せられ、ナタニエル様の瞳の色に合わせた赤のドレスを身にまとい、クラリスさんか合図をすると、そこには正装を身にまとったナタニエル様がいらっしゃいました。
基本を黒で締め、クラバットピンが紫なのは私の瞳に合わせてくれたのかしら。
「きれい…」
「きれいだ…」
私たちは同時に口を開き、同時に赤面した。
ナタニエル様は赤面したまま、以前宝飾店で買った赤いネックレスをわたしにつけてくれる。そして同じデザインの、赤いイヤリングも。
「用意しておいてよかった」
あまりの贅沢さと優しさにふらりと倒れかけた私をそっとエスコートしてれる。ひえ、しっかりしないと。今日のナタニエル様のパートナーは私なのだから。
背中からエールを送ってくれるクラリスさんの声を聞きながら、私たちは城の中をしずしずと歩き、大広間へとたどり着いた。
楽団もない、他の貴族もいない、花とガラス天井から差し込む月光だけが私たちを照らす。ナタニエル様が、見よう見まねとわかる仕草で、私に手を差し伸べてくれる。
「どうか踊ってくれますか」
私は微笑んでこう返事をします。
「喜んで」
腰に手が回され、互いに赤面したまま、片手を天高く上げ、大広間をくるくると回ります。足音と互いの瞳。熱を持って、優しく、静かに。楽団も喧騒もないのに、なんて素敵なダンスパーティーだろう。考えてくださったクラリスさんには感謝しかない。
「私どこかおかしくは、ありせんか?」
「さあ?お前の瞳ばかりみていてわからない」
くるりとターン。私の顔はいまきっと真っ赤だ。
「ドレスは――俺の瞳と揃いだな」
耳元でそう囁かれると、体まで熱を持ちます。転びかけて、ナタニエル様の胸に飛び込んでしまった。本物の舞踏会ではとんだ醜態だろう。でも今日は、ふたりきり。
「ナタニエル様…」
声だけでこの気持ちが伝わればいいのに。ナタニエル様は私をぎゅっと抱きしめた後、軽々と、抱きあげ横抱きにする。
「お前が頬を染めている姿は、どんな花よりも、どんな甘い果実よりも、芳醇だ」
照れくさくて、ナタニエル様の方に顔をうずめると、
「もっと見せてくれ」
そう耳元でささやかれるので、そっと、顔を上げると、すぐ近くにナタニエル様の顔がある。
「恥ずかしいです…」
「なにが恥ずかしい?」
「あなたに見られていることが…」
「…お前は」
「?」
「俺を喜ばせる天才だな」
そう言って、とても嬉しそうに笑ってみせるから、私も顔を赤くしながら、同じように笑うのだった。