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かくして私は無一文、というか王子の親衛隊によって会場から直接引きずり出され、粗末な馬車に放り込まれ、食事もなく五日の旅路に出発していた。
あー、神官を誰もパーティーに入れるなって言ってたのってこのためかあ、とか、断食の経験って意外と役にたつな、とか、体育座りしながら考える。パーティーのことを心はとっくに過去のことと割り切っていし、ミリアンが聖女の力を持っているのも嘘ではないのだ。ただ私が太陽だとしたらミリアンは蛍の光位の聖なる力しかないだけで。
悪路をぐんぐん馬車は行く。と共に、私も少しずつ気持ちの整理がついてくる。
家では今頃義母と父がワインで乾杯してるだろう、彼らの愛はただ義妹のためにあった。
神官は大わらわかもしれないけど、蛍の光がなんとかするでしょ。
来賓を迎えていた王と王妃もびっくりするだろうけど、ま、そこも王太子が言いくるめるでしょ。
そして私は、母が儚くなってから初めて、誰にも拘束されず、生きていけるってことでしょ?そこが国をぐるっと囲んで維持していた結界の外、瘴気に満ちた魔王領だったとしても。
そこは伊達に聖女をやってない。瘴気は払うし、魔獣は倒す。
ひゃっほう、やったじゃん。
思わず小さくガッツポーズしてしまった。
御者席にしか人間がいなくてよかった。
ていうか帯剣してるんだよね、御者席の奴。もしも斬りつけられたらどないしよ。
まさかだったよ、結界直前で止まった馬車から降ろされて、腕を縛られたままの私に、二人ですらりと剣を抜き、おぼっちゃま剣術で私に斬りつけてくる。
「ミリアン様を害した偽聖女に天誅を!!」
だーかーらー、やってないってば。
とん、とんとバックステップで避ける。避けられたことがショックなのか、二人とも茫然としてる。
隙、いただきます。
「神よ、バ――迷える子羊に御慈悲を」
いやぶっちゃけ詠唱なしで撃てるんだけどね。天誅とか言われたらこっちも言い返したくなるわけです。
「ライトニング!」
かくして悪は倒されたのだ。いえい。
「聖女が攻撃魔術使えないとか誰が言ったの?」
失神した二人に吐き捨てる。こちとら危険な地帯に単身で乗り込む超攻撃聖女ですよ。淀みから生まれた魔獣と直接対決が日常ですよ。
念のため二人の腕を縛って、そのまま馬車の中に放り込んだ。
そして結界と向き合う。
「これを越える日が来るなんてね」
国を一生懸命守ってきたことの報酬。それがこれ。さあ遠慮なく頂いちゃいましょうか!私は真っ黒な壁に向かって、迷いなく足を踏み入れた。