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そして朝起きると、食事が用意されていた。いつもと違うのは、
「こここここれは…!!」
そう、あの禁断の味、チョコレートケーキ…!!
「魔王様が今日から食事にデザートをつけるようにおっしゃりまして」
「おっしゃいましたか…!!」
魔王様との婚約はすぐに城中に――といっても人数は少ないのだけれど、伝えられた。
私はこの時始めて厨房担当の方とお会いしたのだけれど、彼はゴブリンだった。ジャンさんというそうだ。なんでも流れの料理人をしていたら、偶然行き合ったナタ二エル様にスカウトされたんだそうな。
「あっしの料理を泣くほど喜んでくださったそうで!感激っす!」
「いやいやこちらこそ本当にありがとうございます」
思わず握手してぶんぶん振り回してしまった。
そして皆さんは私たちの婚約を、それはもう喜んでくださった。当人が目を回している間に、城の空気は、収まるべきところに収まった、という感じで、皆さん納得していらっしゃる。こうなると私がおかしいのか!?という気すらしてきた。流されやすい聖女である。
「とりあえず婚約祝いはこれでいいか?」
と魔王様が取りだしたのは真っ赤なルビーの丸い宝石だった。私の拳より大きい。拳より。
「貰えませんが!?!?!?」
腹から声が出た。
すると魔王様はちょっと悲しそうな顔で、
「鉱山でとれた一番大きなものを熟練の職人に加工させたんだがな…」
そ、そんな顔をしないでくださいよぉ。
「あの、こんなに素敵過ぎる者を貰っても手に余るというかですね…正直、価値も分からぬ者でして…こんなに大きな宝石ならもっと、こう、価値の分かる方の元にあったほうがいいと思うんですよ」
「ふむ。…お前がそんなに遠慮をするなら、とりあえず国宝指定してあとは民間に任せるか」
「それがよろしいかと…!!!」
宝石は魔石でもある。これを媒介にして、きっと何かいいことに使ってもらえるはずだ。そう予想した通り、最終的に魔石は持つエルフの研究所で天才により、最新の器具の核になることが決まったらしい。説明が難しすぎてよくわからなかったが、なんちゃらかんちゃらで国全体の土にいい影響が出るとのことで、私は胸をなでおろした。
と思ったら今度は、城下町の宝石店に連れていかれて、VIP用の奥の席へと通され、
「好きなものを選べ」
と言われました諦めませんねナタナエル様!?
もはや逃げることは不可能。私は腹を決めて一番小さな宝石はどれかなと吟味していたが、ふと、ひとつの宝石に目を奪われた。その隙を見逃すナタナエル様ではない。
「これをひとつ」
「ひょあ」
「あといくつでもいいんだぞ。なんだったらこの店の商品全てでもいい」
「店員さんの顔色が赤くなったり青くなったりしてますよナタナエル様…!!」
「そもそもどうしてこれがいいんだ」
選んだのは小粒の赤いネックレスだ。ここに並べられたなかでは目立って華美なものではない。
私が正直に
「えっと、これを見てナタニエル様の目の色を思い出したので…」
といったら、会計から帰るまで手をしっかりと繋がれたままナタナエル様は無言だった。その耳の先が赤かったので、あ、これも似てる、と思ったのだった。