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どんどん運ばれてくるスイーツは私が今までの人生で見たことも聞いたこともないものだった。それを、シャミナード様はそれを一口ずつ食べていく。そして、コーヒーを贅沢だなあと思いながら飲んでいた私の前に三皿とも並べた。
「俺は食べ終わった。お前が食べろ」
「はいい!?」
「さあ食べろ。見張っているからな」
「なんでですか!?」
「いいか、それは余りだ。食事の余りは?」
「も、もったいないし、絶対だめです」
「じゃあお前が食べるしかないな。俺はもう食べない」
この魔王様真顔でおっしゃいましてよ!?
ごくり。こんな嗜好品、今まで食べたこともない。それが目の前に並べられているのだ。
フォークでそっと切れ端をすくう。そして舌の上に恐る恐るのせる。
「~~~~~~~~」
そこには幸せが広がっていた。世の中にはこんなにおいしいものがあるのか、と悶絶してしまう。とんでもないパンチ力だ。言い表す言葉が思い浮かばない。舌の上でとろける食感、幸せな感触。すごいなあ、世の中にはこんなものが存在してるんだ。
シャミナード様は無言で他の二皿も押しやってくる。待って下さい脳の処理が追い付いていないんです。どうしてこんなに恐ろしいものが発禁にならずにおおっぴらに売られているんだろう?信じられない!
私はもう半分泣きながら三皿を完食した。シャミナード様がそっとハンカチを差し出してくれたので本当に泣いていたのかもしれない。会計し――私が無一文なのでシャミナード様が払ってくれた――余りの衝撃にぼーっとしていると、気遣ってくれたのか、公園のベンチに連れていかれた。そこで座ると、少しだけ落ち着く。
「美味かっただろう」
「禁断の味がしました…」
「それはよかった」
「あなたは悪魔ですか…?」
「悪魔ではないが魔王ではあるな」
公園ではエルフやドワーフの子供たちが遊んでいる。楽しそうにボール遊びをする姿を見ると、嬉しさとともに、胸に小さな痛みが走る。私には無かった小さな頃の思い出。
少しの間、静かに過ごす。
世界が少し遠くなって、ここはもう、あの家でも神殿でもないんだと、染みいるように感じた。
魔王様がそっと、私の膝に手をやる。私は静かに耳を傾ける姿勢になる。
「今後の話だが」
「あ、はい(瘴気だまりの話かな?)」
「婚約するか」
「はい?」