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「欲望ってなんでしょう…」
しっかり眠った後、体を起して、私はそうつぶやいた。
聞きとったクラリスさんは、
「そうですねえ。たとえば、宝石がほしいとかドレスがほしいとか」
「清廉を胸に刻んで生きてきたもので…」
「豪華なご飯食べたいとか」
「上に同じく…」
「旅行に行きたいとか」
「瘴気を浄化しに各地はまわりましたが楽しいとは思いませんでした」
「それこそ、恋をしたいとか!」
「私を欲しがる人がいるとは思えません」
「なんでですか!?ロクサンヌ様、とってもかわいいのに!」
「お世辞なんていいんです…いつも白い木綿の服で祈ったり魔獣と戦ったりで可愛さのかけらもないことなんて…」
「それはそちらのお国の話でしょう?だいたい、神様だって全然清廉じゃない私たちの国を助けてくれたじゃないですか。ちょっとハメを外しましょうよ」
「…が」
「?」
「やりかたがわからないんです。ハメを外すとか、自分の欲望を満たす、とか。そもそも欲望ってなんでしょう?」
最初に戻ってしまった。窓が相手さらさらと風が吹いているのに、心は雨模様だ。
「もし、祖国で欲望を持って生きていたら、私壊れてたと思うんです。だから、封じ込めちゃったのかも。それで、消えちゃったのかもしれません」
私は自分の胸に手を当てる。
「それに恋なんて私を死刑にしたものですからね。したいとも、思えませんよ」
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「というわけで」
クラリスさんは突然私を洗いだし、マッサージしてくれて、髪を可愛くハーフアップに結って、若草色のワンピースを着せて、薄化粧を施し、イヤリングとネックレスをつけて、そこには黒髪紫目の知らん人がいた。
「これ私ですか!?」
「うーんもうちょっとお肉が欲しいところですね」
「これ私ですか!?別人じゃないですか!?」
「ご本人ですよ~」
仕上げに可愛い靴まで履かせてくれて、ドアを開けると魔王様が黒縁めがねの姿でたっていて、
「デートに行ってらっしゃい~」
そうして私たちは崖の下に突き落とされたのでした。
「着地どうします!?私は大丈夫で…ひゃあっ」
気づいたら横抱きにされておりました。そしてふわりとやわらかな着地。
「こ、ここは…」
「城下町だ。文字どおりな」
魔王様は私を降ろすと、子供にするように私のワンピースをパンパンとはたく。
そして前を向き、
「行くぞ」
完全に予想外のデートの始まりでした。