13
夜、夕食をいただいて、さあ寝るぞとなった時に突然ドアが開き、そこには魔王様が立っていた。
「えっどうされましとぅあ!?」
そして突然私の腕に腕輪をつけて去って行った。金の細い鎖に、赤い宝石が一粒、小さくついている。ささやかで美しい逸品なんだけど私にはもったいないと思うし、なのにこれ、外れない。怖い。
クラリスさんも退室した後だったので、こわごわと部屋のドアを開け、ふと下の階を見るといつか見た執事服。
「ジ、ジェルマンさーん…?」
呼んでみたら、とんと足音がして、気づけば目の前にいらっしゃいました。健脚!!人のこと言えないけど!!
「どうかなさいましたかな、聖女様」
「いえ、あのとき以来ですね。あの雷撃は効きましたよ…」
「いやいや、儂も受け流されるとは思っておりませんでした」
こわいなこのおじいちゃん。じゃなくて。
「いま、魔王様が部屋にいらっしゃって」
「ほう」
「この腕輪をはめて出ていかれたのですが、これ、外れなくてですね。何なのかなって…」
ジェルマンさんはじっとその腕輪を見た後、
「魔王様の魔力と術式がこめられておりますな」
といった。
「ちなみに効能としましては、魔王様が側にいない限りこの城から出られなくなります。また、腕輪の持ち主に危機が迫った場合、魔王様にすぐさま居場所を報せ、城が戦闘態勢に入ります」
怖い言葉しか聞こえてこなかったんだが…。
「つまりロクサンヌ様の身の安全を最優先としたお護りですな」
「お護りってこういう怖い奴じゃないと思うんですけどね!?」
「なにをおっしゃいます。いまやロクサンヌ様は国賓、これくらいの扱いは当然と思ってください」
「そ、そんなこといわれても…」
「魔王様は心配なされているのですよ。貴方の欲のなさに」
欲の、なさ。
そんなこと初めて言われた。使用人みたいに扱われてた時も、神殿に奉仕していたときも。私の持ち物はほんの小さくて、最終的には無一文の服だけで死刑で、そんなふうな生活が普通だったから。
欲なんて持った方が辛いじゃないか。
ジェルマンさんは私の肩を優しく叩き、
「貴方様の仕事はお見事でした。我らは感謝しております。あとはどうか、ただ休んで、欲が、願いが、自分の内側からあふれるように療養されればよい。老骨に言えることはそれだけですな」
そしてすっと、私を部屋に案内してくれた。
「お休みなさいロクサンヌ様」
ドアが閉まった後、私はそっと、腕輪に触れた。