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ミライトハート  作者: 鮮やかに焦がれる無彩色
1/1

残雪と疑心。落ちた桜は、再度舞う。

「この辺りも、歩きやすくなったのう」

昇り始めた朝日に照らされ、残雪がまぶしく光る。

ぬかるみが少し残った地を踏みしめ老人は歩いていく。

あたりの山々に目を移すと、桜の花びらは落ち新芽が伸びつつあるようであった。


(あと一刻ほど歩いたら終わるかのう)

老人は習慣になっている朝の散歩をそろそろ終えようとすると、

山道に壊れた小さな馬車がみえた。

近づくにつれあたりには血痕が見え、わずかに血の匂いもしている。

よく見ると女性ものの衣類がぼろぼろになって落ちていた。

そばには馬の大きな骨と、

それに比べると小さなバラバラになったわずかに肉のついた骨がある。


老人は警戒しつつ馬車に近寄って中を確認する。

中にはぼろぼろの大きな木箱が一つと、

食料が入っていたであろう壊れた小さな木箱が5個ほど見られる。

大きな木箱からは不潔を感じさせる強い臭いがしてきた。

中を確認すると、驚くことに一人の少女が眠っていた。

少女を木箱から出し、馬車の荷台に寝せる。

その箱の中には、眠りを深くさせる薬草が入っていた。


「これ、生きておるか」

老人は持っている杖で少女の体をつつくと、少女は呻き瞼が開く。

体を起こしあたりを見渡すと

「,,,お母さんは?」

と一言、震えた声でつぶやく。

「詳しくはわからぬ。,,,じゃがおそらくは,,,死んでしまったのじゃろうな」

老人は少し濁そうとも考えたが、感じたことははっきりと伝えた。

少女は目を開き信じられないといった表情で、よろめきながら走って周りを確認

する。

あたりに母親はおらず、代わりにぼろぼろの服と骨があるのを見つけると、

「っつ!,,,,,,うわあぁぁぁぁぁん」

母親に起こったことを想像し青ざめ、膝を立て崩れ落ち周りも気にせず泣いた。

 しばらく見守っていると少女は倒れてしまった。老人は駆け寄ると

涙を流しながら寝息を立てている。

「,,,ふむ。困った。ひとまず置いていくわけにもいかんし、連れて帰るかのう」

老人は少女を軽く肩に担ぐと、帰路へとついた。




30分ほどすると山頂付近に小さな山小屋のようなものが見えてきた。

さらに近づくと、料理をしているであろういい匂いがしてくる。

ガチャ

出迎えたのは先ほどまで朝食を作っていたであろう女性であった。


「おかえりなさい,,,師匠、なんですかその女の子は?」

驚く女性は持っていたお玉を落として尋ねる。

「おお、夜灯ただいま。この子は拾ったのじゃ」

さも当然かのように師匠と言われた老人は話す。

「⁉,,,誘拐ですか?」

あきれた様子で、夜灯と言われた女性は頭に手をついている。

師匠は何も話さず笑顔のまま夜灯の様子をうかがっていた。

「何考えてるんです?」

そういって師匠の顔をグイっと覗き込む。

覗き込む顔は笑っているが、声が全然笑っていなかった。

「ほっほっ、いや夜灯は優秀だなと思ってな」

「褒めてもごまかせませんよ。しっかり説明してくださいね」

「,,,はい」

師匠はこれまでの経緯を話した。


「なるほど。騎士団に引き渡しましょう」

「ええええ。いやじゃ、いやじゃあ」

夜灯は両手を振りながら駄々をこねるような師匠を見て、

何だこの爺といった目を向ける。

「余生くらいかわいい子と暮らしたいんじゃあ」

「悪かったですね。可愛げがなくて」

師匠の口から本音の様なものが出ると、夜灯は顔を傾けすねた様子で話す。

「なんじゃ、嫉妬しておるのか?」

すっと師匠がこちらの顔を軽く覗いて、にやけながら話す。

「はあ,,,呆れてるだけですよ。まあいいです。この子もかわいそうなので、

しばらくは面倒を見ましょう」

「最初からそう言えばよいのに、そう邪険にするでないよ」

師匠がそういうと夜灯はさらに顔をゆがめて、いやそうな顔をする。

はぁ、とため息をつくと

「まあ、なんでもいいです。とりあえず僕の部屋に連れてきますよ」

夜灯は師匠から少女を預かり、両手に抱え自室へと連れて行った。

「あれ、わしの朝食は,,,?」

一人残された師匠は手を伸ばし、悲しげな表情でぽつりとつぶやく。

夜灯と少女が部屋に入っていくのを見届けると

(それにしても、これからあの子の人生はどうなるかのう)

ひげを触りどこか寂しそうな様子で居間に向かった


「さて、いったん横にするかな」

そういい夜灯は少女を横にしようとして、少女にふと目を移すと

少女と目が合った。

「うわっ」

夜灯は驚き、危うく少女を落としそうになった。

少女は手足をばたつかせ腕の中で暴れる。

いったんおろすとすぐに部屋の隅に走って行き夜灯をにらむ。

「こんにちは。僕は夜灯っていうの。君はなんていうのかな?」

「,,,」

夜灯は笑顔で少女に話しかけるも、無言でにらんでいる。

しかし、その表情は怯えと少し困惑が混ざっている様子だった。

「ああ、僕は師匠と一緒に暮らしてるんだ。

君をここまで連れてきたおじいさんが、僕の師匠なんだよ」

「,,,」

少女は何も答えない。

(んー困ったなあ。何も話してくれない)

「名前。わからない」

夜灯はどうしようかと困っていると、少女はか細い震えた声でそう言った。

「わからない⁉,,,師匠は母親がいるって言っていたが」

「わかんない。なんにも,,,わかんない!」

大きな声でわからないと叫ぶとしくしくと泣き始めた。

(そっか)

夜灯は何か合点がいき少女を見守る。しばらくして少女が落ち着くと声をかける。

「,,,だったら、君を助けてくれた師匠に名前を付けてもらうといいよ」

「師匠?」

涙で赤くなった目をこちらに向けながらそう言う。

「そう。実は僕も師匠に拾われたんだ。君と一緒だね。その時に名前をもらったんだよ」

「っ!そうなの⁉」

「うん。まあまず君の体をきれいにして、それから温かい食事をしよう」

少女が少し心を開いたようで夜灯も少し安心した。

「ああ、それと僕の名前はヤトって呼んでくれればいいよ」

「うん!わかったヤト」

少女は先ほどよりは暗い様子はなく、明るい返事をした。




「それでわしに名前を決めろと?」

「はい。可愛い名前をお願いしますよ」

スープを飲みほした師匠は、あえて可愛い名前といった夜灯を見る。

「まったく根に持つなあ。いやなら名前を変えてもよいといったのに」

「僕のことはいいので考えておいてください。僕たちは川に行ってきますので。」

そういって師匠の食器をかたずけて籠にいれ、夜灯は少女の手を引き

川に行くため準備をして出かけて行った。

師匠は座りながら夜灯とともに川に向かっていく少女を、

窓の外から眺め考え始めた。


木々の合間からこぼれる日差しを少女とともに浴びながら、

少し歩き十数分ほど歩くと、小さく清らかな川辺にたどり着いた。

川の深さは浅く、水が少し滞留している個所と、ゆるやかに流れている

個所があった。

「ごめんね、少し下のほうで体を洗っててもらえる?

僕は食器と服を洗ってるから」

「うん」

少女は返事をするがその場から動こうとしない。

下をうつむき、汚れた自分の服をつかんでいた。

「,,,?どうしたの?」

夜灯は少女に近づき聞くと

「ヤト,,,一緒にして」

と少女に服をつかまれる。夜灯は少し考えはっとした様子で

「そうだね。僕も一緒にするからやろう!」

「うん!」

今度は元気に返事をする。

(この子は一人にされることに強く不安があるようだね)

夜灯はそんなことを思いながら、いつの間にか少女を守ろうとしている

自分に気づいた。

「ヤト」

「ん、なあに」

しばらくして体を洗い終わった少女に聞かれる。

「なんで師匠と一緒にいるの?」

それは少女の単純な疑問であった。

「それはね,,,なんでだっけな。忘れちゃった。」

「もう!気になったのに!」

少女はほほを膨らませ不満そうに言う。

体を洗い、洗い物も終わったので手をつないで家に戻る。

その足取りは行きよりも軽かった。


「ただいま戻りました。どうです師匠、考えられましたか。可愛い名前」

「おかえり。あんまりしつこいと嫌いになってしまうぞ。まあいい、決まったぞ」

師匠は夜灯のほうを顔をしかめながら言い、夜灯は肩を竦める。

「本当⁉やったぁ!」

「おおぉ。おぬしは本当にかわいいのお」

そう言い、少女の頭をなでると少女は笑顔で笑った。

(孫バカのじいさん,,,)

夜灯がそんなことを思っていると師匠は言った。

「日桜じゃ。おぬしの名前は日桜。日の様な強さと桜の様な柔らげな印象、

儚さを孕む成長。おぬしにはそんなものを感じたのでな」

「ひおう?それが名前?」

「そうじゃ。日に桜、併せて日桜じゃ。」

「ふーん。いい名前ですね。それじゃ日桜。

明日は一緒に周りを見て回らない?」

「うん!」

元気に返事をして、翌朝、日桜は夜灯とともに出かけて行った。


朝は終わり、日が沈みまた新たな日が昇っていった。昨日の日にかかっていた雲はなくなり、まぶしい日が昇っている。

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