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ふふん、ボクだったらもっと念入りにやるもんね



 街を出て暫く。俺がエンデマキナの扱いに慣れてきたと判断したのか徐々に速度を上げていき、程なくして基本らしい速度まで到達した。

 なるほど、これは速い。空を駆けることから地形に左右されることもなく、速度が出てしまえば後は空気中の魔力で半自動運転が可能となる。

 惜しむらくは、体中を余さず鎧で覆っているせいで一切風を感じることが出来ないことか。

 前を行くシエラは後ろで結んだ髪が風に靡き涼しげだ。

 まあ、暑さに関しては緑の魔法で鎧内部の環境を操作しているため特に感じてはいないが、この速度で感じる風は惹かれるものがある。


 魔源地帯は辺りに集落のようなものもなく、闇に包まれた世界では到底見つからないような僻地に存在する。

 そこまでひたすら平原が続く訳でもなし、普通の移動手段を使えば向かうだけで数日は掛かるだろう。

 それを半日と掛からずに辿り着くとは、本当怖いなあの天才。


 少しずつ草木が少なくなっていき、妙に尖った岩が目立つようになってきた。

 シエラに従い徐々に高度を下げていき、比較的平らな岩場に着陸する。


「お疲れ様でした、といっても、ここからが本番なんですけどね……あ、収納魔法は使えますか?」

「……」


 エンデマキナから降り、シエラは自身が管理している空間を開くと、それを中に仕舞い込む。

 これは基本的な緑の魔法の中ではそれなりに難易度が高い部類に入るらしい。

 こことは違う空間と繋げるなんて大層なことはしておらず、どちらかといえば想像の中とその物体を同調させることによるものなのだが、そのイメージがし難いとかなんとか。


 これが使えるか使えないかで携帯する荷物は大いに変化する。

 名の知れた冒険者はそれなりの道具を備えておくもので、この魔法は必須科目とも言える。

 収納魔法を再現した魔法道具なんてものもあるが、一種のステータスのようなものだ。冒険者を目指す者はその準備の一環として、覚えておくと良い。

 俺も自分の空間を開き、エンデマキナを収納し、辺りを見渡す。


 ――この辺りは危険が比較的少ないのだろうが、安全地帯とは言い難いか。

 時々異なる性質の魔力がぶつかり合い、何も無いように見える場所から火花が発生したりしている。

 とてもではないが、ここを冒険の前線基地となるキャンプ地とするには危険が多いだろう。


「この辺ではあのくらいの火花程度ですが、少し進むと自然の魔法が発生しています。十分に気を付けてくださいね」


 シエラは別の空間から剣を取り出し、携帯する。

 収納魔法で複数の空間を持てるというのは、かなりこの魔法に熟練している証だ。

 二つ持てれば一目置かれるし三つ以上ともなれば、リトルサンライトを拠点としている冒険者にも十人いるかといったところだろうか。


 俺の場合は四つ。多分、もう少し増やすことも不可能ではないだろうが、そんなに持つものがない。大抵は二つもあれば十分すぎるほどなのだ。

 シエラは……少し前に噂で聞いた時は七つとか言っていた気がする。信憑性は不明だが、それだけ出来てもおかしくはない。

 ちなみに、冒険者として知られている者の中で最多の収納空間を扱うと言われているのは、シエラのかつてのパーティの一人だ。

 魔法の冴えを専門とする、誰もが当たり前に魔法が使える中でなお魔法使いと称される、魔法都市マギノィの異端児、ミナギ。

 シエラと同年代ながら、操る空間数は十を超えると言われている。化け物かよ。


 ところであの剣、聖剣トワイライトだ。使い続けてるのね、それ。

 死にたいから斬られた訳で、トラウマとかにはなっていないし別に構わないが。

 トラウマになってるのは自分に掛けられている蘇生魔法の方である。


「では、ここで見つけた第一ダンジョンに案内します。先程魔物を見つけたのはあのダンジョン付近でしたが、残っていなければ少し周囲を探索することになります」

「……」


 了解した、と頷き、第一ダンジョンに向かう。

 基本的に区域ごとにダンジョンには発見順で番号が付けられていく。

 このデヴィディア魔源地帯では第二ダンジョンが発見されたという報告はないから、まだシエラは第一の攻略に集中しているということだろう。


 視認できるような場所に魔物は見えない。

 辺りで魔力がぶつかり合っている影響か、魔物の気配も察知し辛いが……探知魔法の用意くらいはしておくか。


「ッ、不夜城さん!」


 歩き始めてすぐ、火花よりも強く魔力が弾けた。

 バチバチと連続的に音を鳴らしながら魔力は雷魔法を成立させ、俺に迫ってくる。

 速度に秀でたそれは咄嗟の回避を許さない。シエラが防御に動くものの、問題ないと手で制し、もう片方を雷の側に伸ばす。

 本当に自然的に魔法が構築されるというのは中々興味深いが、魔法としては低級のもの。これくらいならば、迎撃する必要もない。


 手で受け止め、核となっていた部分を握り潰す。

 なるほど、異物に寄ってくる性質になっている訳か。

 ダンジョンは数百年前の先人が作ったとも言われているが、その説が真実なのだとしたら、彼らが用意した防衛機能なのかもしれない。


「う、受け止めるんですか……その鎧、何処かのダンジョンで見つけた宝だったりするんですか?」

「……」


 そういう訳ではないのだが、由来も話せないためそういうことにしておく。

 兜とセットになったこの黒い鎧は、魔力の操作だけで着脱が出来る優れものだ。

 耐久力も大したもので、先のような魔法くらいであれば俺自身が一切力を使わずとも無傷で済む。

 流石に隣で驚いている英雄に叩き切られたらどうなるか知らないけど。


「なるほど……私の鎧は友人のミナギに魔法を掛けてもらったんです。ミナギの魔法で防げなかったものは……結構ありますね。防御に集中すると凄いんですよ? 魔王に破られて暫くは気にしてたみたいですけど、あれからもっと向上心を見せるようになりましたし」


 いや本当にすまない。まったく傷つく必要のなかったプライドだったというのに。

 一応、新調したらしいあの鎧に掛けられた魔法から、今のミナギの技量、そしてシエラへの想いが分かる。

 シエラは友人だと言っていたが、向こうもよほど大切に想っているのだろう。でなければ、これほど厳重に掛けたりはすまい。

 ……やりすぎじゃないか? 何重に掛けてるのこれ? あの天才を想起させるんだけど。



「ふふん、ボクだったらもっと念入りにやるもんね。魔法だけで護りが十分だって思い込んでいるなら甘いって話だよ」



 思考に乱入してこないでほしい。そこまで俺アイツに侵食されてたの?


「っと、お話は後にしましょうか。ダンジョン入口に急ぎましょう」


 幻聴への動揺を隠しつつ、シエラに続き暫く歩く。

 何度か自然の魔法が発動しているが、俺もシエラも、ダメージを負うことはない。

 鎧の防御力のみならず、自身が扱う防御魔法の腕も大したものだ。

 咄嗟のものでもしっかり防ぐことが出来ている。

 やはり俺いらないんじゃないだろうか。念を入れるというのは大事だが、俺を打ち倒すくらいであればそこらの魔物など相手にならないと思うのだが。


「そこが入口です。ですが……見当たりませんね」


 死角になっていた岩の陰に、洞穴が開いていた。

 ここが第一ダンジョンか。内部からは更に濃い魔力が感じられるが、周囲に魔物の姿はない。

 背の高い岩があちこちにある関係で、死角が多いため、徒歩であれば探索にも時間が掛かるだろう。


 仕方ない。手っ取り早く魔法で探知を掛けるとしよう。

 魔力の質を極力変化させ、原型が無いほどにする。

 そうしてから探知魔法を構築し、周囲に展開する。


「あの、辺りの魔力の関係で探知魔法は――この魔力……」


 怖いから何かを察さないでほしい。

 バレていないと自分に言い聞かせ、探知の範囲を広げていく。ダンジョンの魔力が邪魔だ。


 っと、一体見つけた。

 確かに変だな。なんだこの魔力。俺と近いものはあるが、根本的に性質が異なっている。


「へ? 見つけたんですか?」


 魔法を解き、シエラを一瞥してから探知に引っ掛かった方向へと歩いていく。

 さほど離れていないが、目に入りにくい場所だ。

 隠れているのだとすれば、良い場所を選んだと思える。

 向こうの技量によっては探知が察されるが、それで逃げたとしても目につくだろう。


 立ち並んだ岩の陰に隠れていた、ぽっかりと空いた穴。

 そこを覗き込んだ瞬間――


「不夜城さん!」


 穴から素早く空に飛び上がり、高さの有利を取った上で襲い掛かってくる何者か。

 だが甘い、ここに来る途中の魔法より遅いではないか。

 頭を抑え込み、再び穴に投げ込む。

 ――羽の生えた牛の如き魔物だ。だが間違いないな、俺によって生まれた魔物じゃない、自然物だ。


「あれです! 初めて見た種なので、何をするか分かりません、注意してください」


 確かに、俺もあの形状の魔物は見たことがない。

 あの魔力量と力は並のレベルではあるまい。ポピュラーなダンジョンにいれば冒険者殺しとなっていたことだろう。

 魔法は使わないとして――まあ、格闘だけでどうにかなるだろう。

 というかシエラに全部任せるのが一番バレない方法なのだろうが、ここまで付いてきてしまった以上流石に申し訳ない。


「一緒にやりましょう。私が隙を作るので、攻撃をお願いします!」


 あ、はい。じゃあそのように。

 シエラが前に出て、飛び掛かってくる魔物を複数の防御魔法で受け止める。

 その合間に手を突っ込んできたのを、聖剣で迎え撃った。防御と共に動きまで止めてるよこの人。


 と、感心している場合ではない。

 魔物の懐にまで踏み込む。

 魔法が扱えるだけであれば、魔王などとは名乗れない。らしい。

 こればかりはあの天才も専門外であったようで――名乗りを上げたのは自称配下の一人であった。



「恐れながら、今の王が人を逸脱しているのは魔法の冴えのみにございます。お任せください、私が王を誰にも勝る力の持ち主にまで昇華させてみせます」



「集中ですよ、集中。気というものは、魔法以上に心の乱れが致命的になるものです。相手を倒すという気持ちを込め、その一時、相手だけを見続けるのです。今、王の前にいるのは私ですね? そうです、私に全てを向けてください。この一時だけいいので、私だけを……私だけを見てください……!」



 ……うん、思い出したくなかったね。

 アイツもアイツで怖かったんだよなぁ……天才も止めてくれよ、ああいう時。

 いや、思い出はともかくとして、学んだことは決して無駄ではない。

 拳に込めた気を、叩き込むと同時に流し込む。


 体自体は柔らかいな。流した気が皮膚を裂き、肉片を散らしつつ魔物は吹き飛んでいく。

 気を操るというのは魔力とはまた違った技術が必要で、戦いを専門にするならばどちらかに特化することは多い。

 ゆえにこそ、両者を極めてこそ魔王たるらしい。鍛えない選択肢なんて無かった。無かったのだ。


「やっぱり……」


 防御魔法を解除して、何やら微妙な表情でシエラは此方を見上げてくる。

 何、やっぱりって。怖いんだけど。

 気に関してはあの時の戦いでは使っていないし、大丈夫だと思うんだけど。そう記憶していたからこそ今使ったんだけど。

 だからなんの問題もない。ゆえにそのやっぱりは違う何かに気付いたということで――


「……確信を持った上で聞きますけど、貴方、魔王ですよね?」


 ――嘘やん。

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