理想の帝国、ヴァルチーナ
大陸一の栄華を誇るヴァルチーナ帝国は、およそ理想的な国である。
何代も賢君が続き、国庫は潤い、飢饉の折にも臣民を飢えさせることは少ない。
周辺国を圧倒する軍事力に加えて外交にも優れ、百年に渡り国内を荒らされたことはない。
国内各地方ごとに国立学院が設けられ、平民にも広く学びの門戸が開かれている。
文官・武官ともに難関ではあるが、試験さえ受かれば身分の貴賎なく登用されるため、宮廷には貴族から平民まで有能な人材が揃っている。
その実力主義は他国とは一線を画しており、驚くべきことに女性が政治を担うことすらも認めているのだ。
周辺国ではまだまだ男尊女卑が根強く、女が政治に口を出すなど、力を持てば持つほどに、悪女の謗りを免れないだろう。
しかしヴァルチーナでは、力さえあれば女であっても上を目指せるのだ。
数は少なくとも、宮廷には女性が何人も働いている。
体格差のためにどうしても武官は稀であったが、文官では、部署によっては一割ほどが女性であった。
政府は主に、国庫を管理する財務庁、司法を司る法務庁、内政を預かる内務庁、外交を担当する外務庁から成る。
そのうちの一つ、法務庁には、現在、変わり者ばかりが集まっていた。
ツテもコネも通用せず、縁故採用は即刻法廷行きと噂されるほどの融通のきかなさから、採用されるのは選り抜きのエリートばかり。
司法の独立を謳い、身分の差は頓着せず、法の下に断罪する。
絶大な権力にも、皇帝の威光にも怯まず、ただただ平等に。
特に現在の法務庁の徹底ぶりは突き抜けており、過去に類を見ないほどだ。
そして、徹底した実力主義から、平民と女性官僚の比率が高い部署でもあった。
なにせ、実質上の次席にあたる法務次官が、『平民の女性』だったのだから。
……ほんの、二年前まで。
十年以上前にとある作品に影響されて妄想したお話のメモを見つけたら、書きたい欲が湧き起こったので…… 書きたいシーンを書きたいために書き始めました!そのシーンに辿り着くべく、頑張ります。笑