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蛮族に囲まれた

興味を持っていただき有難うございます

 きっかけは今を思えば些細なものだった。

多少命懸けだったとも言えるが、本当にもう

今となっては些細だって言える。


金髪おかっぱ男は呟いた


「どうしてこうなった…」


悲しくもその呟きは周囲の声に消し去られた


「「ウンババ ウンババ!!♪」」


 葉で出来た仮面と服を纏い、白い肌に適当に塗りたくられた色付きの泥が汗で肌に泥の川を流して13人の蛮族が躍り狂う。金髪おかっぱ男はその中心で日頃の行いを反省し続ける…。


「「ウンババ!!ウンババ!!♪」」



ウンババは止まらない



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ある晴れた日のこと。その日は特と言って何もなく、強いて言うならば日差しがやや強い日だった。


 平原と森の境界、そこには蓮の葉を何倍にも大きくした様な葉で作った衣服を纏った男が五人潜んでいた。男達の視線の先にはそこそこに繁栄した町が一つ。


 見るからに怪しい奴等が…というか蛮族っぽいのが町を見つめている理由は一つ



穏便に町に入って人並みの食生活を得ること



 せめてその身に纏った葉っぱを蚕に食わせてから計画しろと言いたい。


「んで、どうやって入るか」


「殺人変態泥棒作戦は遠慮したいな」


「最終手段だろうな…」


 男五人の声色、顔立ち、背の高さ、おおよその髪型は全てそっくりだった。これで五つ子だったのならば親御さんはきちんと見分けてあげられたか不安な所だが、それはないのでご安心を。


「まぁ、一応作戦の確認はしておくか」


「嫌な事を凝縮したような作戦だが、背と胃袋には変えられん」


 男達はしかめっ面を合わせて頷き会うと、作戦の随所を確認し始めた。


「えー、第一に城壁に近づいて、本体を殺す。」


 非常に物騒な会話だが彼らの定型文の一つである。


「本体ぃー、痛覚切るの忘れんなよー」


「わぁーってるよ。んで、次は透明化してる内に町に入り込んでお前ら分身を再召喚、裕福そうな所から服をぶん盗る。」


「そんで穏やかで素晴らしい食生活の獲得って訳だな。」


「「ヒャッフー!一ヶ月半ぶりの人間らしい食事だぜー!」」


 潜めば蛮族、餓えれば獣、喋る姿は盗賊が如く。滝にでも打たれながら穏便という言葉を辞書で引けばいいのではないだろうか。


 しかし、一つ言えば仕方のない面もあるのだ。何せ彼らは…いや、ここまで会話を聞いたのならば濁す意味もないだろう。彼は一ヶ月前まで地球の日本で暮らす学生だった。だが、唐突に家でだらだら過ごしていた彼は、スプリングと暖かさのない草のベッドの上に寝かされた。


 直前まで読んでいた漫画はないし、空には昼間だと言うのに爆発したての何かの破片かといった具合の大小様々な星が散らばって空の中心部をポカリと開けていた。


 第一声は「ないわー」、第二声は「連続ログイン途絶えたなコレ」。ログイン回数24日とかいうソーシャルゲームではかなり微妙な連続ログインに未練を見せた辺り、その時の彼には鬼気迫るものが足りなかったと言える。


 結果として彼は一時間の内に三度死んだ。一度目はこの世を呪いながら、二度目は混乱と怒りの中、三度目は諦めと幻想を受け止めつつ。


 そこからはサバイバル生活だった。分身を使い、毒を噛み、化物を殺し、生きるために必要なものを揃え、川を探し、人里を探すために下流へと歩き続けた。十分に森で生きていく力はあった。だが、一月の間彼は人里を探すことを止めなかった。


 何故か…それは


「一生ボッチなんて不名誉過ぎるっ!」


 こんな事をほざいた事が発端である。


 さて、人生で貴重で有限な視線の行き先を下らない事に費やした事実に対しクレームは受け付けないが、誘拐されてめっちゃ殺された挙げ句強制サバイバルさせられたのなら人格や服装の多少の破綻は仕方ないと言えなくもない。


「まてまて、最終手段だって言ってるだろ。他の手段を考えるぞ。」


「問題の基本は服だっけか。金は手持ちの草とか毛皮とか売れば何とかなるだろうし、最悪のところ知識が得られればそれでいい。だが、町で行動するには服がいる」


 彼らは既にこの町の住人が着る服がどんなものか知っている。道らしきものを発見し、そこを通る人間を離れた所から監視していたからだ。見つかることを避け、大分離れた場所から見ていたせいで葉っぱではないという結論しか出なかったが。


「リスクが高くていいなら襲うのが一番手っ取り早い。」


「難易度が高いのが交渉による交換。コミュ力死んでる俺らには絶望的なミッションになる。」


 あーでもない、こーでもないと議論は続く。というか、人と接するという点で毎度躓くのでこのままでは風化するまで終わらない可能性がある。


 神の助けか偶然か、吹いた風は一枚の木葉を蛮族の一人の顔に叩き付けた。それで何かを思い付いたらしい彼は、ニヤリと微笑み自分達に情報を共有した。


「変装してなりきってしまえばいけるのでは?」


 頭を使い過ぎて空っぽになっているだろう他の彼らも同じくニヤリと笑みを浮かべ頷いた。


 察しの言い方なら既にお分かりだろう。数時間後、道の上で大き過ぎる荷物をぜぇぜぇ言いながら運んでいた金髪おかっぱの旅人は、葉の仮面と色付きの泥を塗ったくって「蛮族の変装!」とか言ってる馬鹿の集団(孤独)に道から外れた森の中に拉致された。


 誰か教えてあげて欲しい。それは変装じゃなくて君達にとっては正装だよ、と。


 以下、冒頭へ続く



・・・・・・・・・・・


~30分後~


「ウンババ!(楽しくなってきた)ウンババ!」


「(止め時分からぬ) ウンババ!」


 激しく躍り狂う蛮族、震える金髪キノコ。

ジャングルの秘境にピッタリな光景だが、残念ながら町から数刻離れただけの森の中だ。


 何故こんな光景が30分も続いているのか、金髪キノコはさぞかし恐怖と疑問に苛まれているだろう。


 答えは単純に蛮族ボッチの行動コマンドに自分から話し掛けるというコマンドが存在していないだけなのだが、怯える金髪キノコに分かる筈がない。


 蛮族ボッチも初めは色々と考えていたのだ。荷物を半分持ってやるから服を1セット貸してください、と頼むつもりだった。蛮族がそんな低頭でいいのかと考えたのが致命的だった。


 第一声が「ウンババ」、実に様になっていたのだろう、金髪キノコは喰われる一歩手前の小動物みたいに震えた。


 他の蛮族ボッチ達も自分から話し掛ける勇気は生まれず、ただ「ウンババ」と口にした。そこからは非常にスムーズに場が「ウンババ」に満たされていく。


 「誰か声かけろよ」と蛮族ボッチがウンババと鳴く。そうすると別の蛮族ボッチが「嫌だよ、お前がやれよ」とウンババを返す。


「ウンババ!」(何だと!押し付けんじゃねよ!)


「ウンババ!」(お前も押し付けてんだろうが!)


「ウンババ!」(暴れんじゃねぇぇ!)


「ウンババ!?」(こいつもキレた!?)


 喧嘩を止める動きはウンババの掛け声で昇華し、狂った躍りへと変貌を遂げた。こうして現在へ至る。


「あ、あの…!」


 らちが明かないと悟ったのか、金髪キノコは顔を上げて蛮族ボッチ共へと声を掛ける。


「ウンババ!?」「ウンババ!」「ウンババー?」「ウンババ!(怒り)」「ウンババ…(呆れ)」「「「ウンババ!(笑い)」」」


 まさしく蛮族、蛮族の見本として教科書に載せたのなら誰もが蛮族というものを理解出来ないものだと理解してくれるだろう。


 また、少しの間ウンババは続く。どうやらウンババは何かを決定したらしく金髪キノコを円形に囲った。


「お前は選ばれウンババ!」


「フクフク様の生け贄ウンババ!」


「大人しく予備の服を寄越すんだウンババ!」


「ひぃぃ!?喋った!?」


 話は進んだ、しかし金髪キノコはさらに怯えた。こんな蛮族が言語能力を有しているなど信じたくなかったのだろう。非常に納得がいく反応だ。


 一匹のウンババが金髪キノコの前に立ち、手のひらを下げウンババ立ちに落ち着くように促す。


「…ウンババ。待つのじゃ、ウンババの民よ。生け贄といえど怯えさせては話が始まらん。そこのお主よ、服の予備は持っているか?フクフク様は人が直前まで着ていたような穢れを纏った衣服を好まん。なに、ただとは言わん。見返りを用意しよう。」


 蛮族ボッチの側から要約すると「予備の衣服があれば下さい。お礼はしますので。」となる。コミニケーション能力がここ最近のせいでここまで劣化してしまった彼には哀れみさえ覚えるが、金髪キノコからすると知らない蛮族に生け贄にされそうになっているという恐怖の一場面である。


 金髪キノコは旅人だった。予備の服は二着ある。そこそこ丈夫なものを選んで買ったために、やや値が張っているがこの場を切り抜けられるのなら喜んで差し出そうと考えてはいたが、それで本当に助かる保証は何処にもない。予備の服を差し出して頂いたお礼に貴方の心臓をフクフク様に捧げてあげましょうと、自分を囲む蛮族が言い出すのではないかとすら思っている。


「と、取引をしましょう。予備の服はこちらの袋に入っている。」


 そう言って金髪キノコは袋の口を閉めていた紐を緩め、中の衣服を蛮族ボッチ達へと見せつけた。蛮族ボッチ達は中身が衣服であることに確証を持ち頷いた。


「僕は死にたくない。本当に死にたくない。生きたい。必要ならば、土でも靴でもお望みならば何時間舐めたって構わない。だから、命だけは勘弁してください。あと、痛いのも無理です。」


 それは見事な土下座だった。あまりに完成した姿に感動すら覚える。雨上がりに虹が架かったような違和感のないありふれた美しさがあった。厳しいサバイバルを生き抜いた蛮族ボッチもこれにはたじろぐ。


「なんというウンババ溢れる覚悟…気に入った。私はこいつを気に入ったぞ!歓迎せよ!ウンババとフクフク様に恥じない宴にするのじゃ!」


 ウンババ達の歓喜の声。族長に認められる程の人物ともなれば最上級のもてなしをしなければ一族の恥は免れない。蛮族ボッチ達は金髪キノコの土下座を崩さぬように持ち上げさらに深く森の奥へと運んでいく。


 ウンババ、称えよ

 ウンババ、歌えよ

 ウンババ、負けない、強すぎる

 ウンババ フクフク、ありがたや

 ウンババ、運ぶぞ、土下座の人


 紡がれる歌は力強く、森の空気を切って歩む姿は恐れるものなどないというようだ。きっと彼らはこれからも森の中で逞しく暮らしていくのだろう。


 蛮族ボッチは今日も元気に生きている。







ご愛読ありがとうございました。来週からは「プラナリアに人外転生~自分で切ってたら空を覆い隠した!?~」の連載が開始されます。次回作にもご期待ください。

         蛮族ボッチは森に生きる 完

感想待ってます。

プラナリアではありませんが

増殖していく主人公の物語はまだ

続きますので次話も読んでくださると

書き手としては嬉しい限りです

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