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決意

 次の日の放課後、旭は生徒会室を訪れた。

「奏先輩!ご無沙汰しています。や、すいません。生徒会長って呼んだ方がいいですよね」

「やめてよ、ただの先輩でいいわ。久しぶりね、旭。まずは入学おめでとう。これから3年間頑張ってね」

 旭にやさしく微笑みかけたスタイルのいい美人はこの学校の生徒会会長・冬木奏だ。

 なかなかに立派な生徒会室の机に、一流企業の社長や部長が座っていそうなオフィス用の椅子。

 そこに上品に座る姿が様になっている。 


「まぁ座ってよ」

「はい、ありがとうございます」

 旭が奏にすすめられた席に座る。

 

「先輩。入学式の答辞、超かっこよかったです。」

「そう、ありがとう。結構、緊張してたのよ、私。旭が訪ねてくれて嬉しいわ。どうしたの今日は?って野球部のことよね」

「はい、そうなんです。ちょっと上手くいってなくて・・・・・・」

「聞いているわ。よりによって神谷先生が相手とはねぇ。やりにくいでしょあの人」

 旭の反応を試すように質問する


「ええ。近寄りがたいというか、棘だらけというか。でもなんか分かんないですけど、なんかある気がするんですよね」

 うーん、と旭は首をかしげる。

「何、それ。すごくふわっとした感情ね。まぁ私たちがふがいないばかりに、旭には迷惑をかけているわね」

「いえいえいえ。そんなことないです。たまたま私にまで打順が回ってきたって話です。気にしないでください」

「頼もしいわね。逆転タイムリー、お願いね」

「はい!と言いたいところなんですけど・・・・・・」

「旭にしては歯切れが悪いわね。ところでコーヒーでいい?」

「え。いえ、先輩。私が・・・・・・」


 代わりに行こうと席を立ちあがった旭を手で制すると、奏はそのまま生徒会室の隅にある給湯コーナーへと向かう。

 そして、学校には似合わない高価そうなカップを両手に戻ってくる。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 旭はコーヒーを嗅ぐ。良い香りだ。ことさら緊張していたわけではないが肩の力が抜けホッとした気持ちになる。


「私、野球辞めた代わりにね、1年の時から生徒会活動、全力でしっかりやってきたのよ。だいたいの先生方にも生徒にも私、大変受けがいいわよ。だからきっと旭の力になれるわ。そのために生徒会長になったようなものだからね。何でも相談して」

「先輩ぃー」

 うれし涙がこぼれそうだったが、かろうじて旭は耐えた。


「ところで旭。神谷先生のこと紅音から聞いているわよね?」

「え?いや紅音先輩からほぼ聞いていないです。蒼衣先輩もなんかはぐらかすんですよ。紅音先輩が神谷先生に平手打ちされたとも今日伝聞で知ったくらいで」

「もしかして、なんで叩かれたか知らない?って言うかなんで去年野球部作れなかったかも知らない?」

 旭はこっくりとうなずく。 


「あいつら、ちゃんと説明しとけって言ったのに。今度しばいとくわ。えーとね、去年野球部が作れなかったのは全面的に紅音が悪い。以上。もっとも硬球は危険じゃないかって教頭先生は反対していたけどね」

「そうなんですか」

「軟式なら構わないって話にはなっていたんだけどね。まぁそれじゃ私たちにとって意味ないじゃない?だから副会長だった私が交渉していたんだけど、あのバカがね。そうあのバカがバカなことしちゃってね。色々あって流れちゃったのよ」

「えぇ、そうなんですかぁ・・・・・・。私、教頭が全部悪いくらいにしか聞いていなくて」

 紅音先輩、何してくれてんだ、と正直、旭は思った。 


「じゃあその時に先生に平手打ちを食らったというわけですね」

「え?全然違うわよ。全く関係ないってわけでもないけど、先生、産休の欠員で来たの7月ですもの。全部、紅音が悪い。この件に関しては神谷先生悪くないのよ。むしろ叩いてくれて助かったくらいよ」

「え?そうなんですか」

「まぁその辺の話は紅音本人に聞いて。野球部の件といい一連の騒動の話、思い出すのも嫌だわ」

「はぁ、今度紅音先輩のところに行って来ます。じゃあ神谷先生はいい先生ってことですか?」

「あー、そう言われると困るわね。一応、物静かな先生で通ってはいるんだけど。まぁ生徒には無関心ね。生徒に心を開く気がない教師ランキング、やる気が感じられない教師ランキングの二冠を達成している感じね」

「そんな感じなんですか・・・・・・・」

 旭は絶句した。それならば監督就任にかたくなに拒むのもわからなくもない。


「臨時教員採用の件に含まれていたからだと思うんだけど、一応ちゃんと家庭科部の顧問はしていたらしいわよ。だからなんらかしらの筋を通せばいいと思うけどね。でもそれより私が稟議あげるから監督は別の人採用してもらえるようにお願いしてみましょう、ね?もちろん学校側がすんなりと受けてくれるとは限らないけどね。今年は無理でも来年には上手くいくと思うわよ。今年は同好会でも仕方ないと思うわ」

 奏は悪くない提案でしょ?という表情でやさしく微笑む。


「ありがとうございます。でも・・・・・・」

 旭は奏の提案に、遠慮がちに答えた。

「私、決めたんです。先生に勝負を申し込みます。奏先輩は生徒会長として話しまとめる手伝いをしてくれませんか。そして立会人になって見届けてもらえませんか」

 旭はまっすぐに奏を見つめた。

「もうどうするか決めてたのね。正直、妙手とは思えないけれど・・・・・・。でも、わかったわ。生徒会長として全力でフォローするわ」


 私の後輩どもは頑固者が多くて困るわぁ、全然人の言うこと聞かないし、と奏は思ったが目いっぱいの笑顔で良い先輩を演じるのだった。

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