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不屈

「旭ちゃん、どうだった」

 旭が神谷との話を終え教室に戻ってきたところに丁度部員勧誘を終えた鈴と夏樹がやってきた。

 旭が、もそもそと手をクロスしてペケ作ると鈴はやっぱりかぁという顔をした。 

 さっきの涙からは若干立ち直ったようだ。

「やっぱり監督は別を当たるしかないんじゃないかねぇ」

「いや、あの人を監督にするよ」

 きっぱりと旭は言い切った。

「もうちょっと時間をちょうだい。なんとかするから、ね」


「まぁ旭ちゃんがそう言うなら仕方ないけど。そう言うからには少しは進展があったの?」

 いやぁ、さっぱり・・・・・・・という感じで旭は目を背ける。


「わかった。私は・・・・・・夏樹ちゃんもだけど旭ちゃんと一緒に野球するために静岡から出てきたんだからね。そのことは忘れないでね」

 強く念を押す。

 少々きつめの態度に夏樹が割って入る。

「まぁまぁ鈴ちゃん。旭ちゃん、いつも勝負強いから何とかなりますよ」

 夏樹は優しく微笑みながら鈴の頭をなでなでする。


「そりゃ私だって旭ちゃん信頼してるけどさ。でも、あいつ評判悪いよ。姉貴がいる奴に聞いたんだけど去年、全校集会で生徒平手打ちしたってさ」

「え?それ神谷先生なんだ」

 旭はまずいなぁと言う表情をする。

「紅音先輩が揉めたの神谷先生なんだ・・・・・・。詳しくは教えてくれてないけど去年の野球部作れなかったのそれが原因かも」

「それってすぐ野球部に入ってくれるって言ってた先輩でしょ?なんかまずくない」

 旭と鈴は表情を曇らせ、沈黙した。


 新条紅音は旭の一つ上のリトルリーグ時代の先輩だ。去年雪城女子に入学して野球部を作る手はずだったが、駄目だったと聞いている。

 去年、東京に旭が遊びに来た時にその事は聞いてはいたが、話をそらされ詳しくは教えてもらえなかった。


「まぁそれはそれとして、部員勧誘はどうだった、二人とも」

 沈黙が続く間を嫌った旭は話を変えた。

「全然駄目ですねぇ。皆さんもう入る部活決めているようで」

 夏樹が寂しげに答える。

「そうだよ!もう皆、部活決めちゃってるし。運動神経良さそうなは全滅。ヤバイってば、もー」

 鈴も小さい体に似合わない大きな声で答える。


「そっか、まぁそりゃ仕方ないか」

 旭は机に突っ伏す。


「でさ、本当は最初にこの話したかったんだけど」

 鈴が話始める。

「朝倉って娘に声かけたらさ、旭頑張ってる?って言われたよ。今、監督探してるよって言ったら応援してるって言っといてって言われたよ」

「鈴、桜に会ったんだ。彼女のことは話してなかったね、ごめん」

「あの娘、野球経験者?だったら誘おうよ」


「ごめん。桜、もう野球辞めたんだ。だから無理」

「えーなんで、怪我とかしちゃったの」

「死んじゃった有咲(ありさ)先輩の妹なんだ。中学二年までは姉さんの分まで頑張るって野球やってたんだけどね。有咲先輩の幻想追っていくのがもうしんどいって。桜もいいピッチャーだったんだけどね」

 しんみりと旭が答える。

「だったら、一緒にもう一度野球やろうって・・・・・・」

 鈴の言葉に旭が被せる。

「ごめん。そっとしておいてあげて。めちゃくちゃ悩んだうえでの決断なの私、知ってるからさ。誘えないよ」

「わかった・・・・・・手を引くよ」

「ありがとう。聞き分けのいい鈴好きよ、私」

 旭は手を伸ばすと、鈴のお団子頭を撫で始める。

「バカ。な、なでなでするな、な、な、もー」

「フフッ。鈴ちゃんは照れ屋さんなんだからぁ。私も大好きですよ」

 夏樹も負けじとなでなでタイムを開始した。


「少しは緊迫感を持て!二人とも!」

 鈴は顔を赤らめながら・・・・・・切れた。


「いつまでも二人に心配かけられないからね。監督問題はすぐにケリをつけるよ」

 旭が真面目な顔で二人を見据える。

「いや、実際問題この際同好会の方向で別の先生に掛け持ちしてもらうのありじゃない?神谷先生ってなんつうか、ちょっとおかしいし」

 鈴が妥協策を提案する。

「うーん。来週まで時間ちょうだい、そこで終わりにするから」

「なんで旭ちゃん、あの先生に執着すんのさ。なんにも進展してないじゃん。現状の態度と言い、出てきたエピソードといいろくなもんじゃないよ」

「なんだろうね。フルタイムのちゃんとした監督が欲しいのかな。いや違うかな。なんだろうね、おかしいね」

 旭は自分でもはっきりしないなぁと思いつつ鈴に答える。


「もしかして旭ちゃん。あいつ好みのタイプなの!」 

 鈴が声を荒げる。

「いやいや、旭ちゃんあいつだけはダメ。何、旭ちゃんダメ男好きなの?ちょっと夏樹ちゃんもしっかり恋愛指導しといてよ。旭ちゃん、こういうの疎いんだからさ」

「えー私のせい?まぁたしかに旭ちゃんは男性選び、すっごく下手そうですよねぇ」

 二人とも憐れむ表情で旭を見る。 


「二人とも、違うから。私そういうの全く分かんないから。知ってるでしょ。心配いらないって」

「まぁ確かに、野球以外興味ないもんね」

「そうですよね。野球バカ一代ですもんね」

 鈴も夏樹も納得してくれたようだ。


「まぁ、その態度も態度で納得いかないけど」

ちょっと、プンプンした表情で旭は言う。


「まぁ任せといて。私には頼りになる先輩がたくさんいるから。期待してて」

 神谷の前での涙からはもう立ち直った笑顔で、朗らかに旭は宣言した。

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