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逆境

「旭ちゃん、どうするべ?」

 同じ野球部の、小柄な少女・丹波鈴に言われて旭は少々答えに窮した。

 まぁ正確に言うと野球同好会ですらまだないが。

 最悪の気分で高校生活初日を終えた旭たちは、チェーンのコーヒーショップにいた。

 主婦を中心に、そこそこの客入りといったところだろうか。


 鈴は行儀悪く、座るものがいないのをいいことに反対側の座席に足を伸ばし

タピオカミルクティをつまらなそうにすすっていた。

「他の先生は全員、部活の顧問しているってことは結局あいつに頼むしかないって事でしょ?けっこう、絶望だよね」


「でも神谷先生、去年まで家庭科部の顧問していたっていうし、ちょっとはほんのちょっぴしはチャンスあるんじゃないですか」

 旭の向かいに座る背の高い少女、川崎夏樹が言葉をおどおどと続ける。


 旭は隣に座る鈴へ、ぼんやりと視線を向けた。

「うん、どうしようか」

 肩まで長く伸ばした髪を指先でくるくると絡めとりながら、ぼんやりと答えた。


 目の前のアイスコーヒーにようやくけだるそうに手を付けた、なかなかの美少女は・・・

「明日!明日!いくよぉ!」

 と突然大声を出して、右手のアイスコーヒーを高く掲げたのだった。

 その声に驚いた鈴は、ミルクティをちょっとだけ噴き出した。

「落ち込んでるの、旭ちゃんらしくないなぁと思っていたけどさ・・・突然、店内で叫ぶのやめよう、ね」


「あ、ごめんごめん。世の中上手くいかないなと思っていたけど・・・私、燃えてきたよ!」

 旭は、隣に座る鈴の頭の二つのお団子を撫でながら

「あきらめないよ私。明日から全開で行くよ」

 そう頼もしく宣言したのであった。


「さすが逆境プリンセス!」

 パチパチと手を叩き、喜ぶ夏樹。

「盛り上がるのは良いけど、部員だってまだ三人しかいないんだからね。

早く手を打たないと他の部活は今日、活動紹介終わっているんだからね」

 盛り上がってきた二人を鈴はたしなめるのだった。


「ああは言ったけど実際どうしようか」

自分の部屋のベッドにあおむけになりながら、旭は悩んでいた。

「さっきのは、いつもの空元気なんだよねぇ・・・・・・・」


 旭は、今は雪城学園の寮に住んでいる。

 両親の転勤で静岡にいたが、この高校にどうしても入学しなければいけない用があったのだ。

 それは、野球部の創部であった。

 そして本当の目標は「甲子園出場」だ。

 出場の機会さえもらえれば、春でも夏でも構わない。

 何としてでも甲子園に出場したい。

 もちろん現在、女子に門戸が開かれているわけではない。

 予選参加への妙案も、そして勝ちぬく手段も今の旭にはない。

 何としてでも甲子園に出場したい。そのためには「野球部創部」それだけはすぐに実現しなければならない。

 別に旭は女子野球界の将来を考えているわけではない。

 ただ、出来れば自分が高校球児の間に何とかしたいと考えている。

 とにかく少しでも早く動かなければいけない、それだけはわかっているので旭は少々焦っているのだ。


 本来ならば一昨年に野球部は創部されていたはずだった。

 ある事情があり、それは叶わなかった。

 それでも昨年には創部されているはずではあったのだが、先輩が教頭と揉めてそれが出来なかったと聞いている。

 それを考えれば、何の弊害もなく担任の白石緑先生が野球部の監督候補として神谷を紹介してくれたというのは、ホッとしていい事なんだろうと思う。

 正直なところ、学校側から「野球部創部など認められない」と強く反対されることも考えていた。

 昨年のトラブルの詳細は知らないが、どうやら今は野球部創部の敷居は低いといえば低い。

 部員はすでに三人いる。数人の先輩を入部させたあとに自分と同じ新入生を勧誘すればいいだけだ。

 要は神谷以外の監督を見つければ野球部創部などあっという間なのだ。


 担任の白石は、硬式野球部を作りたいと相談した際に旭にアドバイスをしてくれた。

「監督は掛け持ちの教師ではなく専属の方がいいだろうな」

 旭は贅沢は言えませんよと言ったが、白石は続けてこう言った。

「理由は第一に学校側、特に教頭は硬式野球部創設に強く反対はしないだろうがいい顔はしないだろうな。

 あのおっさん、いや教頭先生は女子があまり激しいスポーツやるのあまりよく思っていないんだよ。

 良くは知らないけど硬式ということならばきっと怪我も多いんだろ?

 掛け持ちによる不在時の管理ミスなどで部の体制が整う前に廃部の隙は作らないに越したことはない」

 ここまで言うと、白石は旭を少しそばに寄らせて少し声を潜めた。

「そして理由の二つ目として、なんでか知らんが神谷先生が教頭のお気に入りだからだ」

 入学初日で多忙であろうに真剣な表情で話してくれた白石に旭は「この人が監督やってくれればな」と思うのだった。


 そんなことをベッドの上で思い出しなら、旭は監督をどうするか考えていた。

「白石先生の言うことが本当なら監督が出来るのは唯一、どこの顧問もしていない神谷先生しかいないんだよな・・・・・・・」

 今日の神谷の冷めた言葉と態度を思い出すが、どうするかの結論はもう出ていた。

「神谷先生に監督になってもらうしかない以上、何とか話し合いの時間貰って条件面での折り合いを目指すしかないな。

拘束時間とかがネックなのかなぁ?それなら土日練習なし、平日2時間の練習で・・・・・・。

って、そんなんで手を打つわけにもいかないしな。とりあえず、何とか話し合いの場を作ってもらうようにお願いしてみよう」


 難しい事柄があってちょっとめげても、旭は頑張る娘なのだ。

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