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復活

「桜・・・・・・、霧島先輩」

 そう呟くと旭はやって来た二人を見つめる。


「旭、待たせて済まなかった。その・・・・・・」

 桜は堂々とマウンドまでやって来た先程と打って変わってうつむきながら旭に話しかける。

「もし差し支えなかったらマウンド譲ってもらえないか」


「遅いよ」

 旭が桜に告げる。

「本当に何グダグダしてたんだよ」

 旭は桜の胸元をグローブをはめた左腕で小突く。

 そして、鈴と夏樹に向かって言う。

「鈴ちゃん、夏樹ちゃん。これがうちのエースだ。二人から見たらこのうすのろ野郎と思うかもしれないけれどこの勝負、こいつに託していいかな」


「いや、別にそんな風に思っていないけど。まぁ旭ちゃんが良いなら私は構わないよ」

 鈴が一つ大きく息を吐き、そう告げる。途中参加者にマウンドを譲る複雑な気持ちとホッとした気持ち、両方が入り混じった吐息だ。

「ええ、私も旭ちゃんの思う通りで構いませんよ」

 夏樹も微笑んで了承する。


「ちゃんと抑えられるんだろうね?」

 鈴が桜を見据えて言う。


「任せてくれ。必ず抑える。策はある」

「分かった」

 桜の真剣な眼差しに納得し鈴はうなずく。


 それを見て、旭は桜に自分のグローブを外し、預ける。

「いいグローブだな。旭はちゃんと野球していたんだな」

 桜はそういいながら、感触を確かめながらグローブをはめる。


「先輩はグローブいらないっすよね。素手でいいっすよね」

 竜子をからかうように桜が言う。

「いやいや、私はまだ試合に参加するとは・・・・・・」

 竜子の言葉を桜は遮る。

「先輩。私は覚悟を決めましたよ。姉貴の代わりに甲子園に行くことにしました。逃げて回り道しましたけどね、旭と一緒なら大丈夫。先輩はどうします。姉貴の想いに付き合っちゃもらえませんかね」

 

 まだ試合に加わるか決心がつかないのか竜子が呻く。

「先輩、お願いします」

 旭が竜子の手を握り懇願する。


「わかった。ボールを受けさせてもらうよ」

 桜の言葉と、旭のまっすぐな視線に竜子は、ついに応えることにした。

「先輩、ありがとうございます。夏樹ちゃん、グローブ貸してもらっていいかな」

 旭の頼みを受けて夏樹がグローブを取りに行く。


 旭は桜の首に腕を回し、顔を寄せ言う。

「はっきり言って私、野球舐めてた。浅いとこで舐めてた。男を相手にするのは想像以上に難しい。神谷先生は相当手強いよ」

「ああ、見ていたよ。ありゃなんだ、野球経験者か?」

「そうは見えないけどね。プロの選手です、とかだったら少しは気が楽なんだけど」

「まぁそりゃないな。高校野球ってのはあれより上がごろごろいるって事だろうな」

「そう言うことだね。ここで勝って早く野球部作らないと話にならない、頼む」

 そういうと、旭は桜にボールを渡し腕を離す。


 桜は受け取ったボールを、上に弾くとグローブをはめた左腕で薙ぎ払うように獲る。

 そして、旭に向かって力強く宣言するのだった。


「任せろ、何とかするさ」 


 夏樹が竜子にグローブを渡すと、旭たちはマウンドから去る。

 マウンドに残された二人はサインを確認する。

「じゃあ」

 と言って竜子がホームに向かおうとする時、桜が言う。

「先輩・・・・・・、私、どうしたんすかね。右手の震え止まらないんですけど」

 桜は必死に右腕を押さえつけている。 

「まぁ投げるの二年ぶりくらいか。しょうがないだろ」

 竜子が、それがどうした?という態で答える。


「先輩だってボール受けるの二年ぶりでしょ。緊張とかしないんすか」

「私は有咲のボール受けるだけだったからな。どうせ有咲が抑えるからって思っていたから私は緊張したことないな」

 そういうと、桜の背中をグローブで強く何度もはたく。

「痛っ!何すんすか」

「え、まだ震え止まんないのか、桜は繊細だな」

 そう言うと、竜子は桜の背を再び強く叩く。

「変なとこで姉妹で似るなよ。震え止まったか」

 

「姉妹で?姉貴も緊張なんてしていたんですか」

 桜の疑問に、竜子は快活に笑いながら答える。

「いつもそうだったよ。だから試合開始前に私、有咲の背中叩いてたろ」

「ああ。そうだったんすか。いつも姉貴のことなんでガツガツ叩いてんだろあのゴリラ、ちったぁ加減しろよって思ってました」

 それを聞いて竜子は桜の横っ面を軽くはたくとホームベースへと向かっていった。


 いつも完璧で手の届かない存在と思っていた姉が、試合前に緊張していたことを知り桜は気を楽にするのだった。


 「よぉーし、しまっていこー!」

 定位置に付いた竜子が、体格通りの大きな声で叫ぶ。

 知ってはいたが、その声のデカさに桜は心底「うるせぇ」と思いつつ、完全に緊張が解けたことを実感するのだった。

 

「そりゃ、姉貴が頼りにするわな」

 そう独り言つと、桜は左足でマウンドを慣らすと、大きく振りかぶると第一球を投げ込むのだった。


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