さよならを貴方に
愛していました
まさか自分がそんな事を言うなんて思ってもいなかった。
昨日から今日が続く様に、今日から明日に続いて……ずっと、ずっと、続いていくと思っていた。
それなのに……
何があったのかを理解する事が出来ないまま、別れの時がやってきた。
沢山の花と泣き声と戸惑いと、眠っている貴方を隠す棺。
慰めの言葉が雨の様に降ってくる。
けれど、撥水加工でもされているのか、心にその言葉の雨は全く沁みず、滑り落ちていく。
どんな慰めの言葉も、優しさも、彼じゃ無いと意味がない。
悲しむ時間が欲しくて……彼を想う時間が欲しくて、夜空の下で一人佇む。
思い出せる全てを思い出して、思い出せないモノに気づいて……もうどうやっても会う事も、話す事も出来ないという現実に、思い出せない悲しみと忘れてしまうかもしれない恐怖に声を上げて泣いた。
これがどうして悪夢じゃないのだろうと、何度も何度も泣きながら叫んだ。
涙が枯れるなんて嘘だと思いながら、こうしていれば、見兼ねて彼が起きてくるんじゃないかと期待して……でも、そんな訳がない。
これは誰かが作った物語じゃない。
私の人生で、現実で……ハッピーエンドなんて約束されていない。
愛していました。いいえ、愛しています。
白んだ空に呟いて、優しい貴方を困らせない様に涙を拭いた。
息を大きく吸い込んで「愛しています」の代わりに貴方に言う。
「さようなら」