俺、再戦します。後編
-13話 俺、再戦します。
-メイフィスト・闘技場-
「準備は出来てるな?」
「あぁ」
ごろつきとのいざこざが昨日の事。ゴミ扱いされていた奴がガルドグリズリー相手に一人で戦うとあって、闘技場は外まで人が溢れるほど混雑していた。
“さぁ、ガルドグリズリーの登場だ!”
男性のアナウンスが入る。っと、そろそろか。
“そして今回の主役、能力最底辺の男、シュウだ!”
バカにしたように俺を紹介するアナウンス。
「・・・それじゃあ行ってくる」
「シュウ、頑張って。今バフかけるからっ」
ミルからのバフをもらい、グリズリーが出てきたのと真逆の方向から入場する。
互いに睨み合う。
“これにてスタート!”
始まりを告げるゴングの音が鳴り響く。
戦闘開始だ。
† † † † †
「つい口を滑らせてしまった。申し訳ない、シュウ」
あの後足早に現場を去った俺達は、ひとまずの間俺の家に来ていた。
「むしろあれでよかっただろ。無駄に長引かせるより良い手だと思う」
「そう言ってくれて何よりだよ」
安堵するセイン。
「それよりも、俺がグリズリーに勝てるかだが」
「ん?あぁ、必ず勝てるさ。むしろ圧倒するまである」
そう豪語するのはいいが、戦うの俺って事分かって言ってんだろうな?
「シュウ、おなか減ったの」
お腹を抱えながらミルが訴える。
「そうだな、あの強面リーダー達との事で時間をとったからな。久々にアレ、食べるか?」
俺がそう問うと、
「食べるっ」
元気よく目を星にしながら返事をした。
「・・・あれとは・・・?」
「おぉ!これはうまいな!こんな食べ物がこの世にあったとは!」
「大袈裟だあほ。これはただの玉子ベーコンパンだ」
俺が作ったのは今言った通り、母親直伝のうまいパンだ。
「シュウ!お前料理できたんだな!」
「シュウさんっ、すごいっ!」
「えぇ・・・これは、素晴らしいですね・・・!」
セインメンバーズもそんなことを言って食べているが。
「だからこれ料理してねぇんだって・・・」
うまいパンを食べ終え、腹を落ち着かせた後。
「なぁシュウ、お前きっと俺より強い気が・・・」
「あぁ、シュウの伸びは見上げたものだな。はっはっは」
家の裏にあるひらけた土地でセインと模擬戦をしている。武器を使って怪我をしてはグリズリー戦で実力を発揮できないからといって、木の棒を使って殴り合っている。
「あほ、まだまだだよ!」
セインの剣を弾き、右手で肩辺りを切りかかろうとするモーションを起こす。
それにあわせてセインは左へかわそうと足を動かす。
掛かった。
浮いた右足を払い、体勢を崩したところでジャンピング回し蹴り!
「ぬぉっ!」
セインは積まれてあった木製のビール箱へと吹き飛んだ。
「よし、俺の勝ちだ。もうお前に簡単にはやられねぇよ、ばーかっ」
へへっ、と笑ってやる。
「はは、これはやられた。完敗だ。まさか王都マール騎士団の団長である私に勝つとはな」
「な、なぁシュウ、お前・・・。かんっぜんに俺よりも強いじゃねぇかよぉぉぉぉ!」
ガルがお母さんと離れた子供のように泣き叫ぶ。
「ガルは私に勝ったことがないからなぁ、ははは。なぁシュウ、本格的に、私の騎士団に入るつもりはないか?」
っと急なスカウトをされた。本当に突然だな。
セインは強くて、周りも引けを取らないほど強い。・・・なら、答えは一つだよな。
「決まってんだろ」
「では」
「誰が入るかよ」
ふっと笑ってやる。
騎士団に入れば楽なのかもしれない。お金も安定し、国民から慕われ、何よりも誇れるだろう。けど、俺がほしいのは安泰じゃない。
「俺は一人でファントムとやり合って、俺をバカにしてきた奴らを、笑ってきた奴らに見返してやらないといけないんだよ。騎士になったら、確かに認められるかもしれない。でも、それは強さじゃない。騎士というプレートに身を隠しただけじゃ本物とは言わないんだよ。一人でやらなきゃだめなんだよ。一人でやらなきゃ、だめなんだよ」
セインは少しの間固まったが、やがてぶっと吹き出し、腹を抱えながら涙目になる。
「ほんとに君って奴は、面白い人だな。まぁ、君はそう言うと思ってたが、そこまで深く語られると気後れしてしまうよ、あぁ。君と出会えてよかったよ、私は」
終始笑い、笑顔で話したセイン。
「気持ち悪いこと言うなっての!あと、別に語ってなんてねぇし」
まぁとにもかくにも、確実に俺は強くなってるらしい。
† † † † †
開始のゴングと共に俺目掛け猛進するガルドグリズリー。
それと同時に湧き上がる観客。
うぉー!と言う声と同時に「そのまま死ね!」「ゴミが掃除されまーす!」「餌自ら餌付けに行ってるぞー」と、罵声する者、嘲笑する者、俺が負けると信じて疑ってない者の声が耳をつんざくように届く。
俺は動かず向こうからやってくるのを待ち続ける。
「おい、アイツびびって動くことも出来ねぇんじゃね!?」
「それ!実は漏らしてたりして?」
「はっはー!ある、それあるわー!」
未だ俺を蔑視する観客。
グリズリーが10メートルほど先まで迫ってきている。
「あいつ、何で動かないんだ?」
「気絶してるとか・・・か?」
「いや、でも動いてるし・・・」
一転、俺を訝しむ観客。
俺はゆっくり腰に携えてあるチェーンソーを抜き取る。
目の前にグリズリーが来ている。右足を前にだし、俺の頭を刈り取ろうとする。
「・・・遅ぇんだよ」
「なっ・・・?」
「あいつ、どこに消えた」
「まさか逃げ・・・うそ、だろ」
ガルドグリズリーは青い霧となって消えていった。
会場内が静まり返る。
弱いな、コイツ。
「セイン、こいつ本当にガルドグリズリーか?弱すぎんだけど!」
俺はセインへ向けそう発信する。
「君は・・・。はぁ、そうだ、君は実物をみただろ!そいつはガルドグリズリーで間違いないぞ!あと、一突きで倒したらつまらないだろう!もっと楽しませるのが闘技場ってものだろう!」
遠く、入り口付近の長椅子から足を組んでいるセインがこう返す。
「しらねぇよんなもん!ならもっと強いの持って来いよ!このガルドグリズリー絶対子供とか、そういうのだろ!」
「何をいっている!そいつはここの闘技場に来てから誰一人勝てなかったグリズリーだ!強さはお墨付きのはずだぞ!」
「え?まじで?ならいい」
† † † † †
ガルドグリズリーが右足を上げた瞬間、俺は腹の下に潜り込み、空中前転のような姿勢で二回腹を切った、それだけだ。
以前通らなかった刃は、セインとの訓練の間にレベルが相当上がった事と、基本的能力が底上げされ自身の攻撃力が高まった事と、ミルのバフで全能力が途轍もなく上がった事により、それを克服したようだ。
ただ、それだけの事で、ガルドグリズリーは倒せてしまった。手応えが無いのも当然だ。
だから俺は言った。
「セイン、こいつ本当にガルドグリズリーか?弱すぎんだけど!」
次回もまだこの話が続きます。そしてシュウは何かに気付く・・・?