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俺、鍛えます。

-12話 俺、鍛えます。-



「痛ってぇな!」

「はは、言っただろう?手加減はしないと」

「分かってるよ、まだまだやれる。もう一回だ」

今はガールヴン火山・中腹の宿に寝泊まりし、毎日セインと剣を合わせている。


セインとの勝負から早くも1ヶ月経とうとしていた。


「シュウさんっ、セインさんっ、お昼持ってきましたよ~」

アイナとミルがプレートに乗せたおにぎりとサンドイッチを抱えながら広場へと足を運ぶ。

「よし、じゃあ休憩としようか」

「はぁ疲れた!クリシュナ、ヒール頼む」

「ただいま」



「そういえばよ、お前ら騎士団なのにずっとこんなところに居ていいのかよ?」

「シュウ、口汚れてる」

ミルがハンカチで口を優しく拭いて、そのハンカチを裏返し机に置く。


サンドイッチやおにぎりを頬張りながら雑談をするのが最近の習慣になっている。ミルも「私も何か手伝いたいの」と仕事を要求していたため、ちょうどいい機会といってアイナから料理を勉強しているようだ。

「あぁ、まだグリズリーを倒していない事にすればいいだけさ」

「うっわぁ、悪だな悪」

「ひどい言い方をしてくれるな、君の剣の手解きをしているからではないか」

「分かってるよ」

「それでも、あと数日もすれば帰らないといけないがな」

「そうなのか」

「長く居すぎては他の騎士団が様子を伺いにきてしまうだろう?そうなれば大惨事だ」

「まぁ・・・そうだな」

あの日から毎日練習しているからか、ミルのバフを受けなくても速さはスピードタイプ並になり、同時に相手の動きが分かるようになっていた。


    †    †    †    †    †


「遅い」

「セヤ!」

「動きが単調だ。それではすぐパターン化してしまう。相手も対策が取れてしまう。左右で少しずつバランスを変えるんだ」


昨日セインと勝負し、完敗した俺は朝からセインと特訓している。

「君は相手の攻撃を避けるだけで隙を作ったと勘違いしているようだが、それは違うぞ」

セインは剣を振り上げ、切りかかろうとする。それを俺は避け・・・

「グハッ!?」

避けた先にセインは蹴りを入れ、吹き飛ばされる。

「君には駆け引きというものが足りていない。あと判断力。そして洞察力。プラス防御」

「ってぇ・・・ほとんど足りてねぇじゃねぇかよ」

「いや?速さ、攻撃速度、瞬発力はある。ただ、それを上手く使いこなせてないだけさ」

「・・・指導頼む」

「ああ」


「なんだってこんな事してるんだよ」

「いいから続けるんだ」

連れてこられたのは木の実の生る木の下で、風でたまに落ちる木の実を地面に落とさずに拾うというものだ。

「いっぺんに落ちてきたらどうするんだよ」

「全て拾うんだ」

「無茶言うなよ・・・」

「じゃあ、止めるかい?」

その目は冗談をいっておらず、やらなければ本当にやめると語っている。

「やるに決まってるだろ。そう決めたからな」

「いい返事だ。ならば続けよう」


「なんだってこんな事してるんだよ」

「いいから続けるんだ」

今俺達がやっているのは

「これ、なんだよ」

「『叩いて被ってじゃんけんぽん!』だ」

叩いて被ってじゃんけんぽん!だった。

「ほら、続けるぞ」

「あ、あぁ・・・」

「「じゃんけんぽん」」

俺がグーでセインがパーだ。

目の前の机の上に置いてあるボウルを被

「ってぇ!」

「ふふん」

セインがおたまで頭をコツン、と叩く。

「・・・もう一回だよ」

「受けて立とう」


「何でもこんな事してるんだよ」

「いいから続けるんだ」

目の前のカードを抜く。

「これはなんだ」

「ババぬきだ」

「なんの訓練だって?」

「ほら、続けるんだ、表情から相手の持っているカードを読みとるんだ・・・それっ。よっし、あっがりー」

ははっと楽しそうに笑う。

「これのどこが訓練だよ!」


    †    †    †    †    †


「あんなのがこんな所で役立つのかよくそ・・・」

「全てに意味があるに決まっているだろう?」

「最初の朝練以外はただの遊びにしか思わなかったけどな!」

そう、木の実拾いと叩いて被ってじゃんけんぽんで咄嗟の判断力を養い、ババぬきで洞察力を養い、朝の対人で基本的な防御を養っていたのだ。そのおかげで。

「ほう、今のを防ぐか。なかなかやるようになったじゃないか」

セインの攻撃を防げるようになっていたのだ。それどころか対等にやり合える程にまで成長していた。

「よし、終わろうか」

「はぁ~、疲れた」

昼ご飯を食べてから少し胃を落ち着かせ、それからまた対人をしていた。

気付けばもう日も傾き、そろそろお腹も減ってきた。

「いや、やはり少し待ってくれ」

そう言うセインの見る方向に目をやると。

「あれってレアファントムの・・・」

「ブラッディ・ホーンラビットだ」

先に居たのは大きさにして横たわったオークほどで、全身真っ黒の毛で覆われ、名前の由来でもある眉間の上からはえたレイピアのような角が特徴のレアファントム、ブラッディ・ホーンラビットだった。

「あいつは基本4人でも討伐は難しい。バフをかけられた盾でも簡単に貫くほど頑丈で鋭いんだ、あの角は」

言いながら剣を抜くセイン。

「少し待っててくれ、今討伐しに・・・」

こちらを見やり、何か考えている様子のセイン。

・・・まぁ、粗方予想はつくよ。

「よしシュウ試験だ。あいつを一人で倒してこい」

「デスヨネー」

言うと思ってました。はいはい行きますよ。

「案外あっさりしているな?」

「そうだろうとは思ってたんだよ」

「まぁ安心するんだ。ガルドグリズリーの半分も強くないさ。それに、万が一何かあってもすぐに駆けつけれる位置には私もいる」

励ましになってないんだよな、それ。ガルドグリズリーと同じくらい強かったら尻尾巻いて逃げるっての。


5メートルほど先にウサギが待ちかまえる。

ウサギって言い方だと弱そうに聞こえるけどあれレアファントムだからな。

互いに睨み合う。そして。

「んっ」

チェーンソーを起動し、地面を蹴りウサギが優位になる立ち位置へとわざと移動する。

普通なら角で一突きされ即座に御臨終だが、そもそも普通じゃない俺にはこの方法が一番やりやすい。

当然の如くウサギはその猛々しい角で突進する。

いつもならかわすところをあえてかわさず待ち続ける。そこで使えるようになった“あの技”を使う。



“さっと動き、気付くと左足に切れ込みが入っている。

「っ・・・!」

「残像だ。誰でも練習すれば出来るようになる」

「聞いてねぇよ・・・!」”



俺との戦闘でセインが実際に使った技、『残像』をウサギ相手に使う。

確実に刺したと思ったのだろうウサギは、そこでアホ面をしている。

「バーカ、こっちだよ」

顔の横に移動した俺はソイツの最大の武器、角を刈り取った。

ウサギだから鳴きはしないのか、悶えてはいるが声を出さない。

武器を失ったウサギはそこでパニックになり、危機的状況だと分かったのち、逃げようと走り出す。が、あんなレアファントム、取り逃がす訳ないだろ。

腰に携えたタガーをウサギに投擲すると、後ろ足に刺さる。そこで動きが止まったウサギ。なんだか可哀想に見えてきたけど、このまま生かしておく方がつらいだろう。チェーンソーでコンボを決めるように縦横無尽にウサギを狩り、黒い霧となって消えた。

「流石シュウ、素晴らしかったよ」

「上から目線やめろアホが」

「ははは、でも、本当に強くなった。無駄な動きも少なくなったし、もうそろそろ、いいかな」

「ん?何がだ?」

セインは悪そうに笑い、言葉にする。

「君の住む街へいったん戻って、誰かにパーティーになろうと誘うんだ」

・・・は?

「何でだよ。俺はミルと二人だけでいいんだよ」

「君は昔、使えない奴として、街から嫌われていたと言ったな」

突拍子もなく聞いてくるセイン。

「・・・あぁ、言ったな。それがなんだってんだ」

「腹は立たなかったか?」

「立ったに決まってるだろ。今でも思い出すと腹立たしいしな」

「そうか。見返したくはないか?」

「質問が多いな。そりゃ見返したいだろうよ。絶対、今は俺の方が強いんだからな。くそ、思い出してきて腹が立ってきたぞ」

「君を覚えてる人は何人くらいいるか分かるか?」

「さぁな、でも、覚えてはいるけど、どんな奴だったかは忘れてるんじゃないか」

「それならば、大丈夫だ」

「何がだよ」


「私に考えがあるんだよ」


    †    †    †    †    †


「てことで、明日メイフィストに行くことになった」

宿屋に戻り、ブラッディ・ホーンラビットを倒したこと、セインと話したことを皆に伝えた。

「セインが何を企んでるかは分からないけど、今までの仕返しが出来るって言うからやってやろうと思った」

「シュウ、犯罪者の供述みたいになってる」

ミルがジト目をする。

「まぁ、とにかく俺を嗤ってきた連中を今度は俺が嗤ってやるって事だろ。なら何でもいい。セインの話に乗ってやるさ」

「シュウ、悪い顔・・・」

「・・・俺だけの為にやるって訳じゃねぇしな」

「・・・?」

俺を嗤ってきた連中は腹が立つしなんならぶっ殺してやりたいほどには憎んでる。だが、もっと腹立つのはミルを嗤ってきた連中だ。そいつらにはミルの強さを目の当たりにさせてギャフンと言わせたい所だ。

「それじゃあ、お休み」

「う、うん・・・?」


ようやく、俺の長年の恨み、晴らす時が来たようです。

セインの考えはまだ知らないが、やってやろうじゃないか。俺の反撃を。


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