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俺、敗北します。

今回は三人称視点で物語が進みます。あらかじめご了承下さい。



「ふん・・・彼女からバフを貰ってもいいんだぞ?」

「俺は俺だけの力でセインと戦わなければいけないんだよ」




「確かに君は強い。だが、隙だらけで戦い方もまるでなっていない。それでは私には勝てない」

「んなこと分かってんだよ!それでも、ミルのあんな顔みたらやるしかねぇだろ!」



 

「・・・君は何故そこまでして立ち上がる?もういいではないか」

「駄目なんだよ・・・俺は、俺はミルにあんな顔をさせたままじゃ駄目なんだよ!」




「・・・私が出会ってきた戦士達の中で、君が一番強かったよ。それでも、もういい。お終いにしよう」






    †    †    †    †    †


-11話 俺、敗北します。-


「それでは、戦闘開始」


戦いの幕が切って落とされた。


「俺から行くぞ!」

シュウが叫び、セインへと駆ける。

縦、横、斜めと、様々な攻撃パターンでセインへと猛攻する。

「く・・・思っていた以上だったぞ」

「そっちもな!」

シュウの攻撃を全て防ぎ、一旦距離を置くセイン。

「だが甘い!」

今度はセインから攻めに入る。

「ガッ・・・!」

目にも留まらぬ速さで細剣の剣技を披露するセイン。それをすんでの所で回避し続けるシュウ。

しかし、回避も長くは持たない。

太もも、肩、脇腹などに複数切り傷が生まれていく。

「いっ・・・てぇ!」

セインの剣を弾き、顔めがけ剣を振るう。

「っ・・・」

その一撃はセインの頬をかすめ、微かに血が流れる。

「少しはやるようだが、既に切り傷だらけじゃないか」

「・・・ばーか、こっからが本番だっての」

両者離れ、再び剣を交える。

今度はシュウが攻めだ。左右に体を揺さぶりながら、相手の出方、そして隙をうかがう。少しでも相手が体勢を崩せばそこから殴り込む。

「・・・いい戦い方だ。ファントムには有効だろうな。しかし」

さっと動き、気付くと左足に切れ込みが入っている。

「っ・・・!」

「残像だ。誰でも練習すれば出来るようになる」

「聞いてねぇよ・・・!」

正直シュウはかなり劣勢だ。このままだとどう考えても勝ち目はない。

「ふん・・・彼女からバフを貰ってもいいんだぞ?」

「俺は俺だけの力でセインと戦わなければいけないんだよ」

「そうか。なら手加減は必要あるまい。いくぞ」



「このままではシュウさんは確実に負けますよ」

「・・・分かってる」

「バフをかけてあげてはいかがですか?」

「シュウはそれを望んでないの」

「・・・そうですか。知りませんよ」



「てりゃあ!」

「ふん!」

剣と剣がぶつかり合い、派手に火花が舞い散り、何が行われているかは彼らにしか分からないだろう。物凄い速度で交じり合う剣は最早姿すら見えない。残像すら一つの線となっている。


「・・・これ以上は時間の無駄だ。ケリをつける」

「な・・・っ」

突如姿を消したセイン。周りから一切の音が途切れる。


「シュウ!後ろっ!」


ミルがそう言った頃には既に遅かった。剣の柄で腰の脊椎を突かれ、一瞬で身体に痺れが回る。

「ガハッ!」

うつ伏せに身動きがとれなくなる。痛い、痛い、痛い。


「セイン、やりすぎですよ」

「悪い、だが、これで決着だ」

「・・・はい、それでは今ヒールを」

「まだ・・・まだ終わってねぇよ!勝手に負かしてんじゃねぇぞ!」

ふるふると震える全身に力を込め、上体を起こし、それから立ち上がる。

「まだ戦う気なのか。いいだろう。ミル、シュウにバフをかけてあげ」

「や!」

ミルは今までに無いほど叫び、否定の意を露わにした。

「いやっ!かけないの!」

「しかし、このままでは彼が・・・」

クリシュナがセインに変わってミルに語りかける。

「だって・・・」

ミルは顔を上げ、涙ぐんだ顔で

「だってシュウは・・・勝つから・・・っ!」

涙でぐしゃぐしゃになってしまっている彼女の顔。涙を浮かべているのに笑顔でシュウをみる彼女。張り付けたようなわざとらしい笑顔の彼女。ポタポタと地面に落ちる大粒の涙。それに全く合わない満面の笑み。

ミルはシュウが勝つことを信じて疑っていないと、そう顔で伝えた。

「ミル・・・っ。あぁ、勝つよ。勝つさ。女の子に、んな顔させといて負けるなんて、出来るわけねぇよな」

はぁ、とため息し、シュウを細めた目で見るセイン。

「確かに君は強い。だが、隙だらけで戦い方もまるでなっていない。それでは私には勝てない」

「んなこと分かってんだよ!それでも、ミルのあんな顔みたらやるしかねぇだろ!」

「・・・始めるぞ」


それからと言うもの、シュウは防戦一方、と言うよりただ殴られ斬られを耐えているだけだった。それでも時折攻撃を仕掛けるが空気を切り裂くだけで、一つもセインに攻撃など入らない。

セインの攻撃が太ももに入り、斬られた線通り服に血がにじむ。

「・・・っ」

片膝をつく形になるシュウ。

「・・・今、ヒールをかけます」

「いらねぇよ!」

「!!」

普通なら立ち上がることさえ不可能な程にボロボロで血塗れな彼は、何かに突き動かされるように、すっと、そっと、何もなかったかのように、ふらふらと立ち上がる。

「・・・君は何故そこまでして立ち上がる?もういいではないか」

セイン自体も無抵抗の相手を切ることに罪悪感を感じているのだろう。だが、それは仕方ないのだ。

「駄目なんだよ・・・俺は、俺はミルにあんな顔をさせたままじゃだめなんだよ!」

足元もおぼつかないままにセインへと攻撃を仕掛けようとするが、当たるはずなど無い。


「・・・私の出会ってきた戦士達の中で、君が一番強かったよ。それでも、もういい。お終いにしよう」

セインはシュウの所へと歩いていき、

「さようならだ」

そう告げ、柄で首の後ろを突く。


シュウは、そこで力尽き、倒れた。


    †    †    †    †    †


「・・・セイン、お前、分かってるのか」

「・・・すまない」

「すまないじゃないだろ!この状況を見て、すまないで済ませられるほどシュウの戦いは安くないんだよ!こんなの勝負じゃないだろ!一方的なまでの蹂躙だろ!」

「分かっている!・・・それでも試合を放棄する事を彼は望むと思うか!」

「っ・・・、それは・・・」

「・・・シュウさんにはヒールをしておきます。数分もすれば意識も戻るでしょう」

先程からピクリとも動かないシュウ。

「・・・頼む」

「こうなることは予想出来ていたはずだな、セイン。お前、お前よぉ!」

「いいの」

そう言うのはミルだった。

彼女はシュウの頭を畳んだ膝の上に乗せ、不思議なことに怒りも悲しみもせず、ただ、満足そうに穏やかな顔で、また微笑んでいた。

「これで、よかったの。シュウは、分かってたの。ね?シュウ」

シュウの髪の毛を撫でながら、シュウにそう問いかける。

「・・・彼は気を失っています。返事をすることは適わないかと」


「・・・ばーか、おきてるってーの・・・」


「!!」

皆その声を聞いて驚いていたが、一番驚いていたのは

「・・・君は戦った。これほどまでに骨のある男はいなかった。だが、もう、もう休め、休んでいいんだよ・・・。君は、戦ったんだよ!」

セイン、彼だった。

「なぁ・・・、俺は、強くなれるか?」

そんな彼にシュウは突拍子もなく問いかける。その問いにセインは

「当然だ!私の墨付きだ。すぐにでも君は国で名をあげるファントムブレイカーになれる」

と、そう答えた。

「それは、いつの話だ・・・?」

「3年、いや2年もあれば実現は夢じゃ無いさ」

「そうか・・・。なぁ、セイン」

「・・・なんだ?」



「俺に、剣を教えてくれないか?」



「・・・は、はは、ははは、ははははははは!」

そこで突然笑い出すセイン。

「おい、俺はこれでも真面目なんだけどな」

「あぁ、分かってるよ。ただ、面白くてね。君ってやつは、本当に馬鹿なんだな。さっきまで殴り合っていた相手に、戦い方の教えを請うなんてな。試合に勝って勝負に負けるとは、この事だな」

カカカっと声高に笑い飛ばし、心底愉快そうに腹を抱えるセイン。

「・・・何だよ、駄目ならそう言えよ」

「なにをいってるんだ、いいに決まってるだろう?ただ、これでも私は王都の騎士団団長だ。そこらの連中と一緒にされては困る。それでも耐えられるなら教えてやろう」

「当然だろバカが。むしろお前のメニューだと足りないかもな」

「む、言ってくれるじゃないか」 






「・・・頼むぞ、兄弟」

「頼まれたからにはやるしかないな、兄弟!」



そこで二人はきつく手を握り合い、互いを認めた瞬間だった。



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