俺、救われます。後編
-俺、救われます。後編-
「『スピア・オブ・ゲイボルグ』!」
その言葉と共に、俺に噛みつこうとするグリズリーの遥か上空から、風を切り裂き、眩い光と共に何かがグリズリーを一閃した。
「ガァァァァ!」
俺のほんの数センチ前で動きが止まったグリズリーの目は血走り、歯は剥き出しでこちらを睨みつけている。
「セヤッ!」
男の声が聞こえ、グリズリーの頭を刈り落とす。
事情が飲み込めぬまま戦いは終わり、黒い霧となってグリズリーは消えていった。
「大丈夫かい?クリシュナ、彼にヒールを」
「承知」
髪の長い、端整な顔立ちをしたイケメンが横たわる俺の隣でしゃがみ込む。
「ミ・・・ル・・・」
「ああいや、まだ話さなくていい」
体が黄緑に光り、徐々に身体が軽くなっていくのが分かる。
「あ、ありが・・・とう」
「どういたしまして。立てるかい?」
彼が手を差し出す。
「あ、あぁ」
† † † † †
「私の名前はセイン。王都で騎士をしている者だ」
傷が落ち着き、動き回れるほどには体力が回復した頃、俺とミルを助けてくれた青年と、その一行と共に火山中腹まで歩いている。
「私はクリシュナ。セインのお供をしている」
「俺はガル!コイツの相棒さ!」
「私はアイナっていいますっ。えと、支援魔法をつかいますっ」
と、自己紹介をしてくれる一行。
クリシュナはすらっと背が高く、髪の毛は程良く長い。
ガルは背は低いががたいがよく、ドワーフに似ている。
アイナは幼げで、背が低い。髪の毛は長いのか長くないのか、結んでいるためよく分からない。
「俺は・・・シュウだ。そして、こっちのケモミミがミルだ」
次いで俺も自己紹介をする。
「よろしくシュウ。ところで、その武器は?」
と言ってセインがチェーンソーを指差す。
「あぁ、これはユニークウェポンなんだ。レベルはまだ22なんだが、重宝してるよ」
「なるほどね、初めてみた形状だったから気になったんだよ。あぁ、私の武器もユニークウェポンでね、ほら、さっきの槍があっただろう?あれは、コイツのスキルさ」
そういって柄が紫、刃が青白く銀色の光を纏った片手剣を差し出す。
「凄いスキルだな・・・。それにしても、ユニークウェポンってのは常に光を帯びているもんなのか?」
「いや?光を帯びているユニークウェポンは少ない。それ故に光の帯びていないユニークウェポンは『にせもの』とされている」
身振り手振りを使い説明してくれる。
「その、光の意味はなんなんだ?」
「そうだな・・・。カッコイイ、とかかな?」
「な・・・」
絶句も絶句。マジ絶句ですわ。
「あぁ悪い、本当の所、意味なんてないんだと思うよ」
ははっ、と笑い、首を傾げてみるセイン。
「そ、そうなのか」
そういえば、といってセインが切り出す。
「君の武器にもスキルがあっただろう?」
「あぁ。ただ、レベルが50を越えないと発動しないらしいんだ」
「それは・・・興味深いな。いったいどんなスキルを隠しているのやら」
「分からないが、強いことを期待してるよ」
「きっと強いだろうな・・・。きっとね」
それから雑談し、会話がなくなってきた頃、少し歩いたところで。
「それじゃあ本題だ」
セインはさきほどまでの明るい印象を無くし、低いトーンで、こちらを威圧的に睨む。
「さっき君達はガルドグリズリーに襲われていた様だが」
「ん、あぁ」
「仲間はどうした?」
その言葉を発した後、より一層圧を強めるセイン。
「仲間は・・・俺と、ミルの二人だけなんだ」
「何?」
セインの眼には訝しみと怒り、そしてどこか期待しているような感情が見えた。
「俺はミルと二人だけで冒険をしてる」
「ふざけているわけではないな?」
「あぁ」
そして、少し何かを考えた後、
「・・・分かった。理由を話してみてくれないか」
「・・・という訳で二人の方が都合がいいんだ」
「なるほど・・・。酷い人間も居たものだな」
セインには俺の能力の話、ミルの能力の話、そして、その能力の所為で受けてきた扱いなどについて語った。
「しかし、よくその能力でここまできたものだ。素直に感心するよ」
「まぁ、この武器が、この能力が、そしてミルがいたからここまでこれたんだ。今となってはこの能力に感謝しているよ」
今の感情を率直に言葉にした俺に
「だが、これだといつか綻ぶ。二人揃って死ぬだろう」
そう告げた。
「確かに君の能力、そして彼女の能力が組み合わされば強い。しかし、絶対的な壁がある」
そう断言され、むっとする。
「お、俺だってそれくらいは分かってる。だから、安全マージンをとって」
「その結果が、これか?」
そういってヒールはかけてもらったものの、未だ傷が残る体を差す。
「あ、いや、今回はイレギュラーがあっただけだ。いつもならこんな簡単にやられたりは」
「ふざけるなよ」
そこでセインは怒鳴る。
「いいか。今回は私達の所にグリズリーが出たとの情報が入り王都から出向いた矢先に起きた事件だった。だから君達を守れた。だがこれこそイレギュラーだ!ファントムと戦うのは常に命がけだ。いつレアファントムが現れ、いつ危険指定ファントムが現れるかなど分からないんだ!そして君たちは今、危険指定ファントムであるガルドグリズリーに襲われていたんだ!もう少し私達の到着が遅れていればお前達は確実死んでいた!ファントムブレイカーの仕事を甘くみるな!人の命を軽くみるな!」
そこで言葉を止め、唾を飲み込み、何かを心に決めたように頷く。
「安全マージンだと?ふざけるな。・・・分かった。それなら今から私と勝負しろ」
剣を俺に向け、睨みつけるセイン。
「お、おい待てセイン!お前は王都マール騎士団の団長なんだぞ!わかってるのか!?戦闘訓練も受けていないファントムブレイカー相手に勝負なんて、結果は分かってるだろ!」
ガルがセインを止めに入るが、やる気のセインは既に戦闘準備に入っている。
「止めてくれるなガル。返事をするのは彼だ。彼が横に首を振ればこの戦いは破棄しよう。だが、その場合、ファントムブレイカーをやめてもらう」
「そもそも戦う理由なんてないだろ!?確かにシュウ達の配慮は足りていなかった!それでもそこまでする必要なんて」
「わかった、やるよ」
「シュウっ!?」
縦に首を振った俺にミルは動揺する。
「だ、ダメっ!シュウ、ほんとに死んじゃうっ」
「やらなかったら仕事を失うんだ。結果的に死ぬのも同義だろ」
「安心してくれ。殺しはしないし、傷を負ったらクリシュナにヒールをかけさせる」
「俺がやられるみたいな言い草だけど、俺だって一応は戦ってきたんだ。そう簡単にはやられない。あと俺は武器がチェーンソーだが、生憎替えを持ってないんだ。剣を合わせることすらかなわないぞ」
「・・・分かった。やる気なんだな。おいシュウ、俺の剣を使え」
ガルが二本のショーテルナイフを手渡す。
「あとセイン!お前も普通の剣で戦えよ!」
「分かっている。ガル、細剣をくれ」
「ほらよっ」
「シュウ、準備はいいか」
「あぁ。いつでもこい」
二人は睨み合い、互いの出方をうかがう。
「セイン、先に言っておく。悪かった。今回は俺の判断ミスだ。反省する。確かにファントムブレイカーは命がけで、いつ死ぬか分からない職業だってことは一人だった頃痛いくらいわかってたはずだったのにな。すまない」
「私こそ頭に血が上り、我を忘れたことを詫びよう。だがしかしシュウ、貴様は少しばかり自分の力を過信しすぎている所がある。それを、根本的に叩き直してやる」
両者共に謝罪をし、そして戦闘体型に入る。
「それでは、戦闘開始」
クリシュナが放った言葉で、戦いの幕が切って落とされた。