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春の女王と冬の女王

作者: お花

初書きです。

宜しくお願いします。




むかしむかし、あるところに、

春の女王と冬の女王がおりました。

春の女王は春を。冬の女王は冬を。

各々の季節を操っていました。

けれど、ある時、冬の女王はずっと冬にしてしまいました。

春の女王が好かれているのを羨ましく思ったのです。

春の女王は嫌でした。追い出すなんて事はしたくありませんでした。

しかし、民の声により、冬の女王を追い出しました。

春の女王は春を操るだけ。冬を操る事は出来ませんでした。

春の女王は己が命と引き換えに、この地方に春と冬が回るようにしました。

遠い、遠い、昔の話です。

ーアトラティア地方に伝わる季節循環神話



此処は、アトラティア地方のうちの一つの小国、アミル。緑色の美しい草原が生える、自然溢れる国。其処に、1人の嫌われ者の若者が居た。

「エインったらまた歩いてる。皆に嫌われている事が分からんのかねぇ?」

「親もいない奴だよ。気にするこたぁないさ。」

周りの嘲笑と軽蔑。エインーーーエインクリーは村の嫌われ者だった。しかしそれは大人だけのもので。

「エインクリー!おはよう!」

「おはよう、ラズリ。お母さんの言うことはちゃんと聞けているか?」

ラズリと呼ばれた齢 4歳頃の幼い男の子にエインクリーは声をかけた。

「うん!ねぇお兄ちゃん!お仕事終わったら一緒に遊ぼう!」

「あ!ラズリばっかりずるいよ!マラカも一緒に遊ぶ!」

マラカと言った齢13歳ほどの少女はぶぅ、と頬を膨らませた。エインクリーはにこり笑う。

「そうだね。ちゃあんと2人が畑仕事を手伝ったら一緒に遊ぼうか。」

エインクリーの周りには2人だけでなく、もう年齢がバラバラの少年少女が居た。エインクリーはその子供達に別れを告げる。持っていた麻袋をもう1度担ぎ直して、呼ばれている村の会合へと向かう。エインクリーは20歳程の青年で、髪型はばしばし。何故なら村の連中に適当に髪を切られたからだ。それでも肩までも無い。そして服は、何とか隣町で手に入れた青い服。腰には護身用の剣が差さっていた。

「失礼します。」

エインクリーはガチャりと村長の家のドアを開けた。目の前には村長しかいない。

「エインクリーか。ほら、その麻袋置いてけ。」

エインクリーは何も言わず麻袋を置いた。その中には1ヶ月は余裕で暮らせる額が入っている。そしてエインクリーは村長を見据えた。村長は煙草をふかしながら話す。

「エインクリーよ。お前は村の奴らに虐められていても良いのか?」

村長はこちらを向いた。エインクリーは微笑んでこう言った。

「僕はこれ以上何も望まないですよ。」

それに、とエインクリーは付け足した。

「今、現に、僕は虐められているのでね。」

エインクリーは村長に背を向け、煙草臭くなった家を後にした。そのまま自分の家に帰る。

「今日は疲れてしまったな…まだ1時だと言うのに…。」

エインクリーは春を目前に控えた畑を窓からぼんやりと覗いた。朝、畑仕事を少し済ませて村長の家に行った。唯それだけなのに。

「はぁ……。もう、早いけど…お風呂に入って寝てしまおうかな……。」

エインクリーはお風呂の用意を始めた。上がったあと、慌てて家の鍵を閉める。すっかり忘れていたようだ。適当に夕飯を済まし、ベッドに入る。木の天井が良く見えた。

「おやすみなさい……。」

エインクリーはまだ知らなかった。この先に自分の命運が変わる事など。



翌日。

かたこと、と窓がなる。空は暗い。エインクリーは不審に思ってベッドから起き上がった。そしてエインクリーは呆然とした。外は猛吹雪。もう四月だ。なのにこの吹雪は一体。エインクリーは家の物置から先日直したばかりの防寒着を引っ張り出した。それを着て外に出る。それでも酷く寒かった。

「こういう時は……。村の人たちは会合に向かうよね。」

少しふらつく足取りの中、エインクリーは村長の家に向かった。着いてガチャりとドアを開ける。其処にはエインクリーの登場を望まない目があった。村長が上座に座っている。

「エインクリー!」

子供達が叫ぶ。そして大人達がそれを窘めた。何でも大人達は、エインクリーが孤児だったという事が気に食わぬらしい。そして排除したがっている。という事は、この場所で皆が取るべき行動は一つ。ある男が叫んだ。

「そうだ!エインクリーに行かせろ!あんな危ない所はアレで十分だ!」

村長が答えた。

「そうじゃな。そうしよう。」

エインクリーは全く意味が分からないという顔をしていた。村長が説明を始める。

「この四月の猛吹雪を占ったところ、冬の女王が起こしているものだと分かった。」

「……冬の女王?」

エインクリーが尋ねる。

「神話は知っておるじゃろう?追い出された事に対する復讐じゃ。それをお前には止めて欲しい。」

何ともまぁ無茶苦茶な話だ。しかし此処でやらなければ、何をされるか分からない。

「わかりました。今日、出発しますね。」

うむ、と村長が言った。そしてくるりと村長に背を向けた。家に戻り犬ぞりを引っ張り出した。まさに今出発するところだった。

「エインクリー!エインクリー!」

子供達の声。

「エインクリー!何処に行くの!?行かなくても良いんだよ!」

エインクリーは優しく答えた。

「大丈夫さ。絶対に帰ってくる。だから心配しないで。」

子供達に適当に言うと、犬ぞりを動かした。頬に雪が当たる。冷たくてたまらない。冬の女王が居る王城は氷の城で出来ており、美しいが近づくと魔法で殺されてしまうと噂だ。犬ぞりを動かしているうちに、時期に着いた。しかし魔法の気配も全くない。エインクリーは恐る恐る大きな氷の扉を開けた。かちゃん、と音がする。目の前には螺旋階段があった。そこを歩く。螺旋階段を歩く度に、足元の氷がかちん、かちん、と心地の良いリズムを奏でる。そして、螺旋階段の頂上に到達した。

「あの、誰か居ませんか……?」

其処は玉座の間だった。雪と氷で出来た玉座に白い毛皮が掛かっており、その脇には雪の結晶でできた杖がある。エインクリーの後ろでがちゃん、と音がした。

「な、何でここに人が居んのよ!」

エインクリーが後ろを振り向くと、同い年と思われる少女が居た。民族衣装に身をまとい、白と赤の基調のエプロン。髪の毛は蜂蜜色で、目は萌黄色だった。腰まであろう髪の毛を三つ編みにしている。手に持っていた水入りバケツを落としていた。

「どうやって入ってきたの!?魔法で死ぬんじゃないの!?」

「全く何も起きなかったけど…。」

エインクリーは唖然とした。これが冬の女王なのか?少女は気を取り直して言った。

「まぁ、人が来たならちょっとくらい女王気取りしますか。」

少女は玉座に座るとエインクリーを見据えた。そしてエインクリーは言った。

「あの、冬の魔法を解いて欲しいんです。もう春間近だから、冬の間の食料も無くて…。」

しかし少女はしゅんとした。そして語り始めた。

「……私は魔法は使えないわ。だから何でこんなに猛吹雪なのか知らない。」

「じゃあこの吹雪はどうやって止めたら良いんだ!?」

「落ち着いて。『ラヒミア・クリスタル』という最後の春の女王、ラヒミア女王の魂の欠片が封じ込まれているクリスタルがあるわ。それを使えばこの猛吹雪も消えるはず。」

エインクリーは少し考えた。そしてこう言った。

「わかった。その『ラヒミア・クリスタル』は何処にあるんだ?」

少女は言った。

「其処のアルビニア山にあるわよ。頂上にね。其処に取れるものなら取ってきなさいな。」

少女はエインクリーを見下す。エインクリー問う。

「取れるものなら取ってこいとはどういう事だ?」

「ラヒミア女王の護衛としてゴーレムがいるの。それを倒せるかしらという話だわ。もし倒せたら此処まで戻ってらっしゃないな。春の台座に『ラヒミア・クリスタル』を置いたらきっと春が来るわ。」

エインクリーは少女を見据えた。そして最後にこう問うた。

「君の名前は何て言うんだ?」

「…今更?私はリズリア・クリアッチーナ。貴方は?」

「僕はエインクリー・グリアディーネン。エインでいい。」

「私はリズでいいわ。」

そしてリズは最後にこう言った。玉座から立ち上がって、目を細めてエインクリーを見据える。

「貴方ほっておけないわ。一緒について行ってあげる。」



アルビニア山。

びゅう、びゅう、と猛吹雪。アルビニア山の入口の洞窟の奥まで入っても、まだ猛吹雪が吹いていた。リズはカタカタと寒さで震える。リズの持っているカンテラが洞窟内を照らす。

「………此処よ。」

目の前には巨大な土壁。エインクリーは聞いた。

「此処って……。目の前は土だけど…。」

エインクリーはぼんやりと前を見た。するとリズの咳払いが聞こえる。そして美しい歌が聞こえた。

「春の女王と冬の女王。

遣わしたのは巡る巡る季節。

秤の均衡を保つ力を、人は求めぬ。」

そして巨大な土壁は一気に色付いた。そして土壁は金作りの扉となり、左には冬の女王、右には春の女王が居た。どちらも美しい女性で、春の女王は珊瑚色のドレスに春の杖。冬の女王は青白磁色のドレスに雪の杖を持って、お互いを見据えていた。その周りには沢山の精霊が2人を取り囲んでいる。エインクリーは問うた。

「凄いね……。これ、君が出せるの?」

「ええ。私は冬の女王の末裔。この歌を先祖代々受け継いできたわ。」

そしてリズは少し下を向いて、そしてエインクリーにねぇ、と言った。

「…ゴーレムの人の心を凍てつかせる魔法には気を付けて。………あと、貴方が帰ってきて下さったら、私と友達になって欲しいわ。」

エインクリーは驚いてリズを見る。

「…友達?君と?」

「…嫌だったかしら?」

エインクリーは微笑んで答える。

「どうして?僕は今まで友達なんて居なかった。だから、その、宜しく。絶対に帰ってくるからね。」

リズの顔に花が咲く。

「そう、良かったわ。私は邪魔にならない様に此処に居る。…必ず帰ってきて。」

エインクリーはこくん、と頷くと、大きな扉を押した。案外軽く、そして吹雪が走る。目の前には氷で出来た橋。高さは30m程の渓谷を、エインクリーは進みはじめた。そして、奥にある氷で出来た扉を開く。その奥には青いゴーレムが居た。直ぐに目を覚まし、エインクリーを見る。エインクリーに巨大な拳を打つ。何とか避けて奥にあるクリスタルの場所まで走る。そして大量の魔法を浴びせなれながら走った。この相手に勝てるわけがない。

「あった!これだ!」

奥の小さな洞窟には淡い珊瑚色の結晶があった。30cm程の物だ。引き返そうとした時だった。もう数m程の距離にゴーレムが居る。洞窟の奥に穴があった。風が吹いてる。

「行くしかいない…!」

一気に穴をくぐり抜けると、直ぐに地面に着いた。そして暫く歩いた所だった。突き当たる。そしてエインクリーは上を向いた。上の石が不自然に浮いている。エインクリーはそこまで登ると、岩をどけた。

「きゃあ!な、何よ!……って貴方?」

リズの悲鳴が聞こえた。そしてエインクリーは結晶を抱えながら言った。

「戻ろう。もう」

疲れた、と言いかけた所だった。胸に痛みが走る。胸には雪の結晶が沢山着いていた。そしてその部分はどんどん増えていっている。リズは焦燥した。

「…氷の心の魔法を食らったのね。もう今日しか…。ダメだわ。取り敢えずその結晶を台座まで持って行きましょう。」

リズとエインクリーは氷の城に着いた。そしてリズはエインクリーを担ぎながら玉座の間に着く。リズはエインクリーを柱に座らせると、奥にあるクリスタルの台座に『ラヒミア・クリスタル』を置いた。しかし一向に反応がない。そしてエインクリーに向かって言った。

「エイン。これ、本当に『ラヒミア・クリスタル』なんでしょうね。」

「な、んで、僕が、嘘つかな、きゃ、いけない、んだよ。」

「だって反応が無いもの。って、貴方!」

エインクリーの体はもう殆ど氷掛けていた。リズは急いでエインクリーの傍に近寄る。

「エイン!しっかりして!まだ死んじゃ駄目よ!」

エインクリーはリズを優しく見詰めながら言った。

「リズ…。君とはお友達にはなれなかったけど……。君ならこの冬を終わらせる…。僕は信じてるよ…。」

そして、エインクリーは息絶えた。リズが目を見開く。

「エイン?エイン!しっかりしなさいよ!エインクリー!!」

少女は泣きました。

いつの間にか少年の事を好きになっている事に今、気付いたのです。

その涙はクリスタルを動かしました。

全ての物が溶け、氷の城だけが白く残りました。

少年の心に居着いた氷も、溶けました。

そして少女と少年は何時までも幸せに過ごしました。

何時までも、何時までも、幸せに過ごしました……。



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