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君を連れて  作者: 水無月水月
3人目
12/13

空中都市

 ため息、ため息で合ってる。これはため息だ。

 どうしようもなく憂鬱な気分だ。あいつ以外のために時間を割くだなんて、時間があるわけではないのだがどうしようもなく重なってしまい、断れなくなってしまった。

 前回の町と違ってこっそり忍び込んで目的を終わらしてトンズラとはいかないらしく、下手すればもっと大掛かり──街を落とすことになりかねない。

「上手いこと言いますね。確かに落としてしまうのが一番楽です」

 当の原因、一番の中心人物がこれだから尚更イラつく。

 ある意味で、今までで一番追い詰められているかもしれない。

 誰かを手にかけることが当たり前のような生活で、容赦するような心なんて置いてきて、だから今まで通りにする予定で誘拐してきたが(情なんてそんなもので動いてない)境遇が重なって見えてしまって殺すことなんて出来なくなった。

 隠密行動の基本としては口を封じるべきなんだろうがもうそれも無理だろう。

 隣を見ると彼女がずっと本を読んでいる。……読めるのだろうか? 俺はここ数年で日常会話くらいならできるようにはなったのだが、文字は読めない。教育とは素晴らしいものだと実感する。

 ここ数日、俺達は作戦会議(のような物)をしているのだがその間ずっと本を読んでいる。

 ──まるで子どものようだ。眠る時は小さく体を丸めて、目が覚めると親を探すように俺を探し、ずっと俺の隣にいる。

 何か食べるようにはなったのだが、代謝は止まっているようで、というか食べたものは普通のは違うサイクルで分解されているみたいで汗もかかないしトイレにも行かない。そもそも食べると言っても口元まで持って行けば反射のように食べるというだけで自分から食物に興味を示したことは無い。

 最近で彼女の中でなにかが起こったことは確かなのだろうが、少々怖い。

「大丈夫か兄ちゃん? 怖い顔してるぜ」

「ん、ああ。大丈夫だ」

「ほんとに大丈夫ですか? ぼーっとする事が増えてますよ、寝不足? 」

「しっかり寝てるよ。 それより話の続きをしようぜ」

「そうですね……どこまで話しましたっけ」

「嬢ちゃんのスリーサイズの話だな」

「違います」

「覚えてんじゃねえか」

「クロは聞いてましたか話」

「聞いてなかった」

「……グレますよ」

「すまんすまん。また頼むよ、次は聞いとくから」

「俺は難しい話をされると頭が痛くなるんだ。終わったら教えてくれ」

 ルーが酒を煽りだしてせいでこのお姫様が本格的に泣きそうになっている。

「なんか奢ってやるから泣くのはやめてくれ」

「やった! じゃあ昨日のお菓子で!」

「……流石だよお前」


 という訳で、ほっぺたを膨らまして満足そうにお菓子を頬張るソラ。

「おかふぇほぉひなんひぇすね」

「口を空にしてから言ってくれ」

 むぐむぐもぐもぐごくん。

「お金持ちなんですね」

「お姫様に言われたくはないが……まあ色々あったんだよ」

「盗んだんですか?! 悪人です!!」

 拳骨。

「痛いです」

「お菓子返せ」

「美味しいです」

 お菓子とかは意外と似たものが生まれるのだと最近思う。一種の哲学だろうけど、食い物とは進化しやすいのか地域差はあれど似たものをよく見る。

 今食べているものだって砂糖菓子だろうけど、サクサクと甘い、クッキーに近い感じがする。

「で、どうする? 俺がやったような侵入の仕方はもう無理だと思うぞ」

「どうやって入ったんですか? 警備は厳しいと思ってたんですが」

「えーと、あまり言いたくはないが盗賊みたいなもんだよ」

「とは?」

「転送装置を使った」

「あれって個人認証されませんでしたか?」

「移動する瞬間に殴り倒して俺が使った」

「……あれってそんなこと出来るんですね」

「兄ちゃんしか出来ねえよあんなこと」

 呆れるような様子だ。

「でも困りましたね、警備が厳しくなっているとすると、どうやって行きましょうか」

「嬢ちゃんを盾にすりゃいいんじゃねえか」

 ガハハと笑う。黒い肌もあって見栄えはいい。

「はあ?! 嫌ですよ?! 」

 ご立腹なようで。

 しかしすごい速度で菓子が消えていく。なくなる前に食べておこう我ながら美味しいんだよこれ。

 手の平で転がしているうちに隣が気になった。

 前に何か食べたのっていつだっけ。

 体は止まっているが、どこまで停止しているかは分からない。俺は医者ではないからどんな影響があるのか分からない。真っ白の肌も髪も、理由はわからない。心臓が動いていないからきっと血も通ってないだろう。筋肉はどうだろうか、寝た切りの患者は定期的に体を動かしてもらって筋肉を衰えさせないが、彼女はどうだろうか。自分の意思で何かをするなんてことはほぼなく、移動だって俺がしなければしないだろう。進んでしているのは読書くらいなものだ(そもそも文字が読めているのかも分からない)。もしも意識が戻ったとして、物を食べられないなんて辛いだろう。そう思ってなにか食べさせているのだが、なにせ何も分からないから、不安で仕方ない。ソラ曰く「きっと大丈夫ですよ! 美味しそうですし! 」だそうだがそんな問題ではない気がする。そもそも世話役が取られている気がする。必要ないと言っているのだが「女の子なんですよ! 」とか言って服を買ってきて着せ替えたり、体を拭いたり(ちなにみ全部俺の金、ソラも自分の分を買っているみたいだ。納得いかない)している。ずっときていた服はいずこへ。

「お菓子、シロちゃんにあげてもいいですか? 」

 きらきらとした目で彼女を見ている(そろそろシロ呼びにも慣れないと、自分で付けたのだから)。

「いや、俺がするよ」

「……」

 じっと見られている――お菓子の手を止めような?

「嫉妬ですか? 醜いですよ」

「ぶん殴るぞ」

「きゃーこわーい」

 こんなやつは放っておいてさっさとやろう。

 手を綺麗に拭いて一つ、つまんで口元に持って行く。

 文字を追っていた目が、色鮮やかな菓子に移る。数秒間、見つめた後ゆっくりと小さな口を開ける。綺麗な歯、赤い舌が見える。その中に持って行くと当たり前のように口を閉じる。その時、毎回のことなのだが指も少し食べられる――唾液で微かに光る指先にはまだ慣れない。

 指先を見ていたら、もう一度、食べられた。しかも今度は少しどころじゃない。ぱくりと咥えられた。

「!?!? 」

 動揺する。激しく動揺する。周りが完全に見えない。心臓の音が大きい。指先――綺麗な彼女の顔しか見えない。目が離せない。顔が赤くなっているのだろうか。ああ、ソラやおっさんに茶化されそうだ。ごまかさないと。あれ、こんなに綺麗だったっけ? まつげが長いな。指の感覚、どうなってるんだ。舐められてる、のかな。あれ、俺立ってる? 座ってる? なんでこうなってる。こんなにちゃんと顔見たの久しぶりだな。覚えていたら大惨事に……

 ちゅっ――そんな音、だった気がする。定かではないがきっとそんな音、そんな音ではっとした。

「あのー? クロさん? シロさん?」

 こっちの声だったかもしれない。

「あ、お、あいや、あの」

「あーあの。お邪魔でしたか私たち」

「お熱いご様子でしたよー」

 おっさんが腹立つ。凄く腹立つ。なんだあの顔。無視して無かったことにしよう。

 だが更なる追い打ち――シロがこっちを見ながら唇を舐めた。

 恐ろしく扇情的で、とてもじゃないがまともな心持ちで見られるはずがなかった。

 二人はとても楽しそうだった。もう許してくれ。


「で、どうすんだ」

「とりあえずおさらいしようぜ」

「そうですね。腹ごしらえも済みましたし」

 ルーがバッグから紙を取り出す。この紙は軽く丈夫な素材――大蜘蛛の糸を使っているらしい。

「まず、あの場所、私たちが喧嘩をふっかけようとしているのは俗に空街そらまちと呼ばれています。空中都市が正式らしいですが」

「目的は? 」

「はい、二つあります」

「一つは俺の捜し物」

「もう一つは私の呪い落とし、解呪です」

「捜し物って? 」

「形は確定していないから分かっていない、ただ俺は見れば分かる」

「嬢ちゃんの呪いが落とされる確証は? 彫られているんだろそれ、書いたんじゃなくて」

「はい、その通りです。彫られているから通常の術式では無理でしょう」

「なら? 」

「術者を叩きます、これもクロさんの仕事となります。強力な分魔力供給が重要になってきます。魔力供給が断たれている間に私本人が呪いを落とします」

「自信はあるのか? 」

「これでも王族ですから、魔法は得意です。それにこれ(新月の羽衣)を作る過程で大体は解析しました」

「術者は何人だ」

「主を占めているのは二人です。この二人さえ無力化できれば私一人でも対抗できます」

「お前と、その二人との関係はなんだ? 」

「……兄と、母です」

「殺すことになるかもしれない」

「あんな人達でも私の家族です。少ないですが、思い出もあります。でも、もう覚悟しています、前に進まなければならないのです」

「よおぉし! なら決まりだ。やろうぜ! 」

 ちなみにおっさんのこのノリは二回目。

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