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第4話 「衣服争奪戦 〜宝箱編〜」

 村の中は木造の家が多く、文明が発展している様子は窺えない。いかにもRPGで最初に訪れる田舎の小さな村といった印象だ。だが、日本の農村の雰囲気とはまた異なり、どこか異国情緒が漂っているので、村の中心を流れる小川のほとりで何もせずに座っているだけでも楽しいかもしれない。



「さて、さっさと村長の話を聞いてストーリーを進めようか」



 金的キックの痛みから開放された平塚が、悠々と歩きながら俺達に言葉を投げかける。村長の家は村の奥に見える一番大きな建物だろう。どの村でも村長の家が村一番の豪邸と相場が決まっている。


「村長の家には私が行きますので、壱岐さんと平塚さんは服を探してください。その格好だとイレギュラーなイベントに発展する可能性があります」



 確かに、先程のような物騒なイベントは可能な限り避けたいし、早いうちに人としての尊厳を取り戻したい。少し全裸に慣れてしまっている自分が居る。



「わかりました。じゃあ依頼の受注は御崎さんにお任せします。俺達は衣類を受注してきますね」


 平塚はしたり顔だが、別に上手くはない。


 俺たちは暫しの間、別行動を取ることに決めた。待ち合わせ場所などは特に決めていないが、小さな村なので迷子になることはないだろう。去っていく御崎さんの背中を見送り、俺と平塚は逆方向に歩き出した。


「さて、晴明。服はどこにあるんだ?」


「洗濯物を盗むか。この世界にまともな法律があると思うか?」


「お前は思考が物騒なんだよ。まずは合法的に入手する手段を探そうぜ」


 すでに格好が違法なので合法的もクソも無い。今でさえ、村人達が遠巻きにこちらを見て何やらコソコソと噂している様子なのだ。


 居心地の悪さを感じながら歩いていると、村人の中におかしな動作の女の子を見つけた。こちらを向いて笑顔を浮かべているが、首がカクカクと左右に動いており、どこか車のワイパーを彷彿とさせる。


 端的に言えば、とても怖い。顔が可愛いのが余計に怖い。


「これはホラーゲームだったか?」


「いや、バグだろう。CPUの動作不備といったところか」



 テキストメモにバグの記載をしながら様子を窺っていると、女の子がゆっくりとこちらに向かってきた。脚は全く動いておらず、ホバー移動で徐々に距離を詰められる。



「なあ、アレに捕まったら死ぬとかないよな?」


「大丈夫だ。動作がおかしいだけで搭載されているAIは普通の村人のはずだ。会話してみよう」


 女の子は俺達と三メートルほど距離を空けて静止する。相変わらずガコンガコンと音を鳴らしながら首を揺らしている。間近で見ると恐怖指数がぐんと跳ね上がるが、平塚の前で取り乱したくはない。大丈夫だ、勇気を出せ、俺。


「あ、あの、この辺りで服を……」


「躍+撝0・・}芭灯遏! 慧Cワカ>€オヌM・GfサYス^N曚麈Cv徐・テVlCi)ヨK・惚ラテ絎・-ュ・L1隆モ゜晥L・・タ駈モEumメgァvョタ"稠ートシC2ヌヨャ・・9ソ繝+・]1ニ3オL・・! R゛eЕiヲ゜ゥb゛ィゥ被)坿゛繕ヘァ"ホ・_盡rメ猤・ヨ捌ハワ鴎涯Vン\N・B€\レサニ・ソw_池・ァI・! ギャハハハハハハハハ!!」



「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」



 女の子の奇声を皮切りに、俺達は一目散に逃げ出した。今の言語は人間の口から出る音ではない。夜だったら確実に漏らしているだろう。俺も平塚も、悲鳴を上げながら何振り構わずに逃走した。


「チクショウ、なんだよこのクソゲーは!!」


「落ち着け晴明! 開発途中なんだから仕方がない!」


 走りながら後方の様子を窺う。女の子はホバー移動で追ってくる。


「あの化物、追ってきてるぞ!」


「このままだと追いつかれるな……晴明、名案がある」


「なんだ!?」


「お前が囮になれ。その間に俺は服を探して御崎さんと合流し、冒険を進めてログアウトする」


「ふざけんな! お前の頭も開発途中か!?」


「なんだとテメェ!?」


「やんのかコラ!?」


 平塚が頬をつねってきたので、鼻フックで応戦する。


「痛っ、何をする! 貴様!」


「この場でログアウトさせてくれるわ! 死ね!」


 そのまま言い争いながら逃げていると、いつのまにやら人気の無い小さな丘のような場所に辿り着いた。頭に血が上っていたので、どんな罵声を浴びせあったのかはよく覚えていなかった。


「平塚のせいで辺鄙なところまで来てしまったじゃないか」


「まあ、そのおかげで逃げ切れただろ?」


 周りを見渡すが、ホバー娘の姿は見えない。どうやら無事に逃げ切れたようだ。安堵した俺達はそのまま丘の上に寝転んだ。全裸で芝の上に転がるというのは中々気持ちがいいものである。



「……なあ、俺の頬はたるんでないか?」


「大丈夫だ……。俺の鼻の穴のサイズは通常通りか?」


「ああ、問題ない。さて、そろそろ服を探すか」



 村に戻るとまたあの化物と対峙してしまう可能性がある。この辺りで少し時間を潰しておきたかった。御崎さんの方も、もう少し時間がかかるはずだ。どのRPGも最初の村長の話は長いものだ。


 さて、丘に服が落ちているとは思えないが、布くらいなら落ちているかもしれない。この際、股間と肛門さえ隠せる布地ならばなんでも良いという思考が芽生え始めてきた。背の高い植物を掻き分けながら捜索していると、薄汚れた木製の箱を二つ見つけた。



 この形は宝箱だ。間違いない。



「おい、平塚! 宝箱を二つ見つけた! 服が入っているかもしれないぞ!」


「おお、でかした晴明!」



 俺と平塚は手を取り合って歓喜した。



 だが、喜んでばかりもいられない。肝心なのは宝箱の中身である。どちらの宝箱にも服が入っているのが理想だが、その可能性は極めて低いだろう。入っていたとしても、どちらかに一つだ。そうなると間違いなく先程のような不毛な争いに発展する。


 

 宝箱を開けようとする平塚を静止し、俺は提案した。



「なあ、先に中身を見てしまうとまた喧嘩になるだろ? 中身を見ずに宝箱を一つずつ選ぼうぜ。何が出てきても恨みっこ無しだ」


「なるほど、そのほうが良いかもな。じゃあ俺はこちらの宝箱を貰おう。服が出ても泣くんじゃねえぞ!」



 そう叫びながら、平塚は宝箱を勢い良く開けた。中身が黄金に発光するエフェクトのせいで、何が入っているのかイマイチわかりにくいが、なんとなく布地が見えたような気がする。平塚にも布地が見えたようで、途端に口元が歪む。



「ははは! 晴明、すまんな! 布は俺が引き当てた!」


 勝利を確信した平塚は、勢い良く宝箱の中身を掴んだ。俺は悔しさのあまり思わず唇を噛む。もし、平塚が服を引き当てたとすれば俺の宝箱の中身に服が入っている確率が激減してしまう。



「お前は全裸がお似合いだ! 開放感溢れる冒険を楽しむがいい!」



 キメ顔のまま宝箱の中身を俺の前に差し出す。平塚の手にしっかりと握られていたのは、女性用の赤色の下着だった。



「ギャハハハハハ!! お前にお似合いだよ平塚ぁ!」


「ぬぉぉぉ! 女性用下着だと!? チクショウが!」



 確かに股間も肛門も隠せる布だが、全裸より変態に見える魔法のアイテムを引き当てるとは流石だ。フリルが付いたパンツとブラジャーの組み合わせは、長身の平塚にはミスマッチすぎる。



「クックック、お前は下着で冒険を満喫するがいいさ!!」



 俺は高笑いしながら宝箱を開いた。発光するエフェクトを楽しみながら、手を突っ込んで中身を掴む。この柔らかな感触は間違いなく布地だ。



「ハッハッハッハ! こっちが当たりのようだなぁ?」



 勝利を確信し、見せびらかすように差し出す。平塚が悔しそうに唇を噛んでいるので、俺はさらに高笑いを続けた。変態のレッテルを貼られるのはお前だけで十分なんだよ。



「見よ、平塚! そして泣き喚くがいい!」



 俺が手に握っていたのは、可愛らしいフリルが施された黒色の女性用の下着だった。

 





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