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第1話 「業務日誌」

 皆様は、VRMMORPGをご存知であろうか。


 アルファベットがずらりと並ぶので、英語が苦手な人間は思わず逃げ出してしまいそうな字面だが、ひとつひとつバラバラにしてしまえばさして難解なものではない。


 VRはバーチャルリアリティの略で、人間の神経に働きかけ、あたかも目の前に広がる空間に自分が存在するかのように錯覚させる技術のことだ。


 そして、MMOはマッシブリー・マルチプレイヤー・オンラインの略で、RPGはロールプレイングゲームの略だ。簡単に言えば、オンラインの多人数参加型のロールプレイングゲームということになる。


 つまりVRMMORPGとは、自分がRPGの世界にいるかのように錯覚してしまうほど、精巧に作られたゲームである。意識ごと仮想空間にフルダイブするので、自由度がとても高い。


 最初から略語の説明など退屈かもしれないが、これは俺の業務内容を語るにおいて非常に重要になるので、ぐっと我慢して頂きたい。ここを耐え抜けば、皆様が大好きであろう美少女とのムフフな展開や、強大なモンスターとの手に汗握るバトルの描写が待ち構えている。後に俺は英雄と崇められ、富と名声を欲しいがままにするのだ。手始めに小高い丘に豪邸を建て、ショートヘアの可愛らしいメイドを雇う。



 ……あまり業務日誌にふざけた記述を残すと、御崎さんの鉄拳が飛んでくるので訂正しておく。残念ながら、現時点ではそんな展開は待ち構えていない。俺のようなしがない社畜を待ち構えているのは、サラリーマンまみれの満員電車と日々の業務くらいである。学生諸君、今のうちに人生を謳歌せよ。


 俺がこの春に入社したカリムス株式会社は、前述したVRMMORPGの開発中であった。


 自由度の高さがウリのVRMMORPGは、冒険はもちろん、農産物の生産や、鍛冶、商売をすることも可能だ。その気になればゲーム内で、本格的な結婚生活だって送れるし、葬儀だって可能である。


 ネット上とはいえ、第二の人生を満喫できるVRMMORPGは、数年前に米国で発売されてすぐに爆発的人気を得て、今では各ソフトウェア企業がこぞって開発に勤しんでいる次第だ。


 カリムスも例に漏れることがなく【リスティア・ライト】というVRMMORPGの開発中であった。


 我が社の命運を握ったソフトと言っても過言ではないリスティア・ライトを開発するにあたり、必要不可欠なデバッグという作業がある。


 デバッグとは、簡単に言えばバグを見つけて修正する作業なのだが、その方法は従来のゲームとは大きく異なる。従来のゲームであれば、パソコンとひたすら向き合ってカタカタと殴り合うのだが、VRMMOのデバッグはRPGに限らず、プレイヤーが実際にゲームの世界にダイブする必要性がある。


 その為、テストプレイでさえ脳と身体に大きな負担がかかってしまう。そこからさらにプログラムを治す作業を行うとなれば、デバッグ担当の体力はすぐに空になり、エナジードリンクを燃料にして動く機械と成り果てるだろう。


 そこで、まだソフトウェアに関するノウハウが培われていない新入社員が仮想空間にダイブし、バグを発見して開発担当に伝えるという分担方法でデバッグを行うことになった。


 今回めでたく【ダイブ班】として任命されたのは、御崎さん、平塚、成松さん、そして俺を含めた四人である。俺以外の各々については後述する。

 

 大手企業のソフトウェアの開発に携われるというのはかなりのステータスなのだが、もちろん良いことだけでは無かった。


 まず、安全性が確保されていない状態の仮想空間に入るので、作業自体に危険を伴う。それ故、ダイブ班に配属されてすぐに訳の分からない書類にいっぱい判子を押した。新しい地獄の一種かと思うくらい、ただひたすらに判子を押した。平塚は「判子を押す機械になる夢を見た」と、めそめそ泣いていた。



 恐らくその大量の書類の中には死亡した際の保険についての書類も含まれているので、二十代前半の俺達には荷が重すぎる気がするが、新入社員の身分なので従うしか選択肢は無かった。幾度となく面接を受けてやっと入社した大手企業だ、ボロ雑巾のようにこき使われても定年までしがみつく所存である。



 さて、前置きはこれくらいにしておこう。班長に命じられた通り、今回は先程終了した初回のテストプレイについて記す。この業務日誌はテストプレイ中に発生した内容や、会話、行動に至るまでを細かく記していく。




 株式会社カリムス

 【リスティア・ライト】開発部


 壱岐晴明

 



 




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