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もっと深く

「主、これからどうするのじゃ?」


「んー、足が動かねぇからな。そういや、この屋敷は?」


「うむ、意外じゃがバシュムの奴、遺跡の近くの町に家に持っておっての。あやつお嬢様お嬢様しとるぞ」


 すげぇな。人は見た目によらないって言うのはこの事だな。

 部屋の扉が開かれるとそこからメイドを連れたバシェが現れた。綺麗なフリフリしたドレスを着ていた。やはり性格は変わっている。


「ティア様、アプス様。おはようございます。アプス様はお体の具合はどうでしょうか」


「あぁ、上半身は大丈夫だが、下半身が使い物にならなねぇ」


「それはそれは……ティア様のお力でどうにかならないのでしょうか」


「無理じゃな……足の神経が逝っておるでな。まぁ……一つだけ……その……なんじゃ……方法はあるんじゃが……その……」


 歯切れが悪いティアを見ながら首をかしげているとその方法を口に出す相手は頬を赤らめていた。


「我との契約を深くして……足自体を我の力で竜のモノへと変えるんじゃが……その……我と契約を深くするには……せ、性行為が必要なんじゃ……」


 なるほど。だから歯切れが悪いのか。

 だが、その方法に手を出すことは無いと思う。ティアが嫌がりそうだからな。


「そうか…………足は諦めるか……」


「……我は別に構わん……主となら契約を深くしても……な」


「それは俺がこの現状に耐えられなくなって、からの話だぜ」


「では、それまでこちらのモノで移動なさってください」


 指をパチンと鳴らすと若い執事が車いすを押して持ってきた。

 まぁ、贅沢は言ってられないな。傷が完全に治るまではこの町に居るとしよう。聞くとバシェは意外にも爵位持ちで、ドラコ公国内で遺跡近くを抜けたこの辺りの村や町はバシェの領地らしく巡礼を行わなくてもよいとの事だ。またドラコ公国の騎士の駐屯所はあるが比較的面倒くさい事が嫌いで傭兵集団みたいな存在で、バシェの息がかかったモノばかりの為俺の事は大丈夫らしい。余談だが、騎士団長の不倫現場を発見されて殺された事を伝えると爆笑の渦が巻き起こったらしい。


「なんかこうやって見てると介護されるお兄ちゃんと妹みたいな関係ですね」


「なんじゃ、我はそんなに幼く見えるかえ?」


「ロリコンが飛んで喜びそうな姿をしてるぜ」


「はぁ……可愛いと思ったんじゃがな……仕方ないの」


 そうため息を吐きながら俺が乗っている車いすを押しているティアが少し止まり目を瞑ると体が紅く光りみるみる内に急激な成長を遂げた。年の頃は20から25と言った所か。そこまで成長すると可愛らしかった幼い笑顔は消え代わりに大人の綺麗な笑顔が顔に現れた。うむ、ドストライク。


「何故顔を赤らめるのじゃ? 主よ」


「は? 赤くねぇし。バッカじゃねぇの」


「ふふふ、仲がよろしい事で」


「「仲良くねぇし!」」


 その後、少し町が見たくなった俺はティアに頼んで町を見回る事にした。

 だが俺はまともにティアとの会話が出来なかった。馬鹿馬鹿しい。緊張でもしているのだろうか。俺はこんな竜女の何処か良いと言うんだ、出るところはちゃんと出ているし髪も少女の時より綺麗だ。あれ、良い所しか見えねぇ。


「なぁ、主よ。何か悩み事でもあるのか?」


「別に何ともねぇ……ただ」


「ただ、なんじゃ?」


「……やっぱなんでもねぇや! それよりも武器屋に行こうぜ!!」


 俺は気を取り直して少し先にある武器屋を指差しティアに笑顔でそういった。呆れられたがこの感情は隠しておきたい。出来れば知られたくないものだ。


「武器って……主が見てるのはその無粋な武器かえ?」


「無粋とはなんだ無粋とは、銃、いいじゃねぇか銃」


 俺は町を出る前に新しいのを買ったが使う事無くあぁなってしまった。カバンの中に入れていたがそのカバンも無くしてしまった。


「おお、いいなこれ。短銃とは違って長いけど多分、いや間違いなく威力は段違いだろうなぁ……それに銃口の下に刃を取り付ける事が出来んのか。なぁアンタ。この短銃にこの装着具を取り付ける事は可能か?」


 俺は自分の長年使っている短銃を店主である逞しい女性に見せるとタバコを吸いながら短銃を見ると頷きながら可能である事を笑顔で答えた。


「どれくらいで出来る?」


「そうだね。まぁ、1、2時間と言った所だよ。適当にその辺をぶらぶらしてたらすぐに終わるさね」


 俺は短銃を女店主に預けてティアと外を2時間ほど回る事にした。だが自分はやはり歩けないので思うように行きたいと思った場所に行けないのが辛い。


「……やはり足が欲しいかえ?」


「そりゃぁそうだ……今まで普通に使えたモノがいきなり使えなくなっちまったんだ。イライラするぜ」


 イラつきを隠せなかった俺は自分がイラついた時のクセである親指で他の指をポキポキと鳴らす行為をしている事に気付いた。それを見てティアは少し広い公園のような場所に移動し俺をベンチの横に止めると自分はベンチに座り目線を合わせてきた。


「主よ。そんなにイライラするのであれば我と契約を……」


「……それは考えている途中だ」


「……まぁ、決まったら言ってくれ。我は主の味方じゃ」


 頭を撫でられるのはあまりない事だがティアに頭を撫でられてイラつきは収まり相手の顔を見て笑った。


「あんがとよ……小腹が空いたな」


「なんか買って来てやろうかえ?」


「あぁ、頼む」


 そう言って俺から離れてお腹を満たす為に食事を買いに向かったティアの後ろ姿を見ながら少しウトウトしていた。

 帰ってきたら起こしてくれよな──


「! んだてめぇら」


 何者かの気を感じて目を覚ますと周りには男達数人が俺を囲んで居た。


「いやぁ、俺達がおじさんのお金を貰っていこうと思ってな」


「それにさっきの女めちゃくちゃ可愛かったしよ」


「要するに持ちもんと女奪ってやるよってこった」


 なるほど。俺も舐められたモノだ。足が使えずともこんな細っこい奴ら──


「おっと、妙な気は起こすなよ」


 慣れているのか短銃を手にした男は俺の頭に銃口を突き付けてくるとニィっと笑い服を物色し始めた。生憎だか、何も持っていない。


「こいつなんももってねぇじゃん……まぁいいや。殺して女だけ貰うとするか」


「一つ忠告しておいてやるぞ……あの女には手を出すな。絶対にだ。これはお前らの身を心配して言ってやってるんだ」


 

「はぁ? 訳わかんねぇよこいつ」


「俺は忠告はしたぞ。だが手遅れだったな……あぁ恐ろしや」


 ため息を吐いて俺は少し向こうに見える女性を見て俺は少し震えた。怯えたからではない。ビリビリと感じるアイツの殺気が心地よい。だが何より思ったのはアイツと本気で戦ってみたいと言う事であった。

 ティアはズン、ズンと一歩ずつ地面を打ち鳴らすようにして歩いてこちらに近付いて来ており瞳の色が紅い色なのは変わっていないがその中に宿る殺してやる、と言う炎が燃えているのに俺は気付いた。


「……主ら……」


「おっ、さっきの可愛い女の子! なぁなぁ俺らと遊ぼうぜ!!」


「汚い口で、汚い手で我とそやつを汚すな」


 ティアは駆け寄っていった男の首を手刀でスパンと跳ね飛ばしてしまい宙に舞った男の髪を掴みそれを男達に見せた。

 だがこの男達も褒めなくてはいけない。そんな光景を見てもビビる所か、俄然やる気を出しているのだから。


「クソ、化けもんが! 取り囲んでやっちまえ!!!」


「……アプス、見ておれ。我の力の一部を、我の姿を、な」


 そういってなぜかティアは悲しそうにこちらを見て笑った。次の瞬間、その微笑んだ女性の腕はとてつもなく巨大なモノとなりそれが何なのか理解するのには少々時間が

かかった。


「我の……我の男を汚した罪!!!!!! その体で払ってもらうぞ!!!!」


 それはティアマトの腕だ。ティアの腕ではなくてティアマトとしての腕だ。

 正真正銘の竜の、災厄の竜、災禍の竜”ティアマト”の一部であった。その神木のように太い腕は周りの暴漢達を一瞬で肉片に変えてしまった。


「……あまり見るでない……醜悪じゃろう? 化け物じゃろう……我は化け物なんじゃ」


 俺は腕で車いすを動かしながらティアの体に不釣り合いすぎる竜の腕に寄り腕を撫でた。仄かに温かいその腕はとても心地が良かった。


「すんげー気持ちいい……俺は好きだぜ。この腕……」


 ニっと笑い彼女の腕を持ち上げた。不自然なほど軽かったがそんな事は気にならず手の甲だと思われる場所にキスをした。


「主……ま、まったく……主と言う奴は!!」


 頬を赤らめをそっぽを向いたティアはすぐに竜の腕から人間のそれへと戻し背中から翼を生やすと騒ぎになる前に俺を連れてバシェの屋敷へと戻った。


「すまん、また助けてもらったな」


「構わんよ」


 少しして二人で部屋のベッドに座り喋っていた。

 外を歩くのもいいがやはりこうやって喋る事も好きだ。俺は元々おしゃべりな方では無いが話を聞くのは好きだ。相手が楽しそうに喋っているのを見ると自分も自然と楽しくなれる。

 それに──


「……なぁ、ティア」


「どうし……ん!?」


「……っはぁ……」


 どんなに誤魔化してもどんなに取り繕ってもダメだ。もうダメだ。もはや手遅れだ。

 俺はティアの口を強引に塞ぎ、そのまま腕の力だけで自分とティアをベッドに倒して相手に馬乗りになった。


「やっぱダメだ……俺もただの男だからよ……」


「……全く……主と言う奴は……構わん……二人になった時からその覚悟は出来ておる……男は皆獣じゃからの」


「……うるせ」


 その後、夜の帳の中で、アプスの部屋だけがうっすらとした蝋燭の火が揺らめいた。

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