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ファフニール

 近道のはずの森は意外と広く、迷った状態の俺達は中々、森の出口を見つける事が出来なかった。遊んでいた事も一つの理由でもう一つは太陽が完全に沈み切ってしまったからだ。これではほとんど前は見えない。ギリギリ近くに居る二人の顔が見えるか見えない程度で目を凝らさないとその顔を見えなくなってしまう。


「……すまんの。アプスや」


「あ? なんでティアが謝んだ?」


「我が林に入らなければもっと早くに森を抜けられていたのじゃろう?」


 珍しくシュンとしている。そんな事を言うティアに俺は思い切り目を凝らしながら相手の額を指で弾いた。ティアはどこから出しているのか変な声を上げて涙目で額を押さえていた。俺はそんな彼女の頭を撫でながらニカっと笑った。


「旅なんてそんなモノだぜ。ただ道を歩いてるんじゃ面白くねぇ。それに整備された道なんて明るすぎてまともに歩けねぇよ。俺はな」


「主……」


「だから、そんな顔すんな。笑え。それに俺もお前の事を止めなかったんだ。同じ阿呆さ」


 そんな話をしているとバシェが何かに気付いたらしく、伏せるよう促してきた。息を殺し、物音を立てず伏せていると少し離れた林の中で火の様なモノがいくつも揺らめいているのが見えた。そして話し声だ。

 どうやら男達のようだが話し方が妙に丁寧、と言うか良いとこの出だとすぐにわかる。多分、貴族だ。もう少し明るければどんな奴かわかるのにな。


「紅い縦線に……なんだろ……あれは……火を噴くドラゴン……っぽい旗だ」


「……ファフニール公爵か、ってお前見えるのか?」


 相手がファフニール公爵と言う事よりもバシェが今、この暗闇の中で少し遠い景色が見えているのが驚いた。とりあえず、今ここでファフニール公爵の相手をするのはマズイ。


「おい、二人共。逃げるぞ」


「戦わんのか?」


「あぁ、今はな。あいつはファフニール・エルブレス公爵って名前でな。かなり高度な魔法を使うモノらしいが、詳細はわからん。わからんから逃げる」


「……そうじゃな。ここでじっとしていてもいつ町の騎士達が踏み込んでくるかもわからぬからの」


 やはり悪い予想とは何げに当たってしまうものでガサガサと音を立てながら更に火の数が増えた。俺達を取り囲むようにしてだ。あぁ、これは──


「そこまでだ。逃亡劇もこれで終わりだよ」


 やっぱり見つかってんだな。

 どうしようか考えているとティアが立ち上がり手に火の球を作り出しそれをファフニールに向けて放った。だが同じ火を得意とするファフニールには逆にそれを利用されて火の球を素手で掴むとそれを巨大化させて周りの木々を燃やし始めた。そのせいでとてつもない光となり暗闇だった森が一気に明るくなってしまい俺達の姿を照らした。


「見つけた。他の者は手を出さないようにしてくれ。僕が捕まえる」


 こちらを見据えながら馬から降りたファフニールはゆっくりとこちらに向けて歩いて来ていた。どうするか。三対一で戦うか、俺が囮となって二人を逃がすか。どちらも無謀な考えだが他にどうしようもない。ファフニールは強い。

 ドラコ公国が誇る戦力、ファーレンの不死隊の隊長を務めて過去の戦をいくつか勝利に導いている。また俺が撃ち殺した騎士団長の師匠でもあり前騎士団長でもあるのだ。


「……よっしゃ。アイツが狙ってんのは俺一人だ。だから、お前らは逃げちまえ」


「な、なにを言ってるんじゃ主は……出来る訳なかろう」


「んじゃ私は逃げる」


「待たぬか」


「ほれさっさと行け。上手く行ったら森の外で会おうぜ」


 一瞬だけ悔しそうに逃げようとするティアの顔を見た。すると本当に心配そうな顔でこちらを見ていた。

 おいおい──


「そんな顔を見られたら死ぬ訳にはいかねぇな」


「……君がアプスかな」


「違うって言っても信じてくれないんだろ」


 すでにファフニールはお互いの武器が届くほどまで近くに接近しておりここから逃げるには目の前の敵を倒すしかないのだろう。

 俺は短銃とナイフを手に取り相手に向けた。


「何故君も逃げなかったんだい」


「そんな事決まってらぁ……女の涙を見ちまったからさ」


 最後に見せたティアの顔の頬には一粒の涙は流れていた。

 こんな男に涙を流してくれる良い子じゃないか。そんな奴を守れんで何が男か。何が半竜だ。


「……君のような男が何故妻を殺し、騎士団長を殺したんだ。何か理由があったのだろう?」


「別に殺したかったから殺したそれだけだ」


 俺は短銃をファフニールに向けて引き金を引いたが相手はそれを手で掴みやがった。

 おいおい、弾を素手で掴むって、化け物かよ。


「そうか……それは残念だ」


 目の前の男はため息を吐くと腰の剣を引き抜くと相手からはオーラの様なモノが溢れだした。こいつはなんだか知らんがやばい。


「おいおい、それは洒落になんねぇぞ!!」


「じゃぁ行くよ」


 そのオーラが剣に収束すると巨大な剣へと変化し、それを大きく振り上げた。すると天候が変わり雨が降り始めた。すぐにその雨は激しいモノへと変わり対峙する俺達を打ち付けた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「クソがぁぁぁぁぁ!!!」


 ナイフを刀へと変化させその巨大な剣を受け止めようとするが、そんな事出来るはずが無く俺の体は真っ二つに叩き切られた。


「……クソ……」


「神よ。今、一人の迷える子羊をお送りいたしました。その深き懐で、彼をお導きください」





────あいつ等はどこまで行っただろうか。俺は死に行く自分の事なんて気にならず、二人の事だけが心配だった。バカな男だ。こんな状態でも笑いが出やがる。


「……死ぬの?」


「メリナ……?」


 何故だろう。メリナの声がする。


「……迎えに来たのか……?」


「…………」


 もはや眼は見えないが声は聞こえる。

 どんなに苦しくてもどんなに辛くてもメリナが居たから何とかやってこれた。そう、メリナが信じてくれたから俺もやっていけた。


「……ねぇ、私はアプスの事、大好きだったよ」


「…………俺だって同じさ…………大好きだ……大好きだったんだ……!」


 だがお前は裏切った。俺の信用を裏切った。だから殺した。


「──じゃぁ、あの世でもう一度──やり直そう」





「!!!!!!」


 見知らぬ天井の下、目が覚めた。

 綺麗な部屋だ。俺は傷ついた体をゆっくりと起き上がらせて部屋を見回した。するとベッドで顔を埋めて寝ているティアマトの姿があった。


「……すぅ……すぅ」


 心配をかけてしまったか。

 俺は寝ている彼女の頭を撫でた。少し静かな部屋で寝息だけが聞こえる中、そうしていると撫でやすい頭はむくっと上がって来てこちらを向いた。


「ぬ、主よ!! 起きたか!! 全く心配させおって!!」


 顔を見たティアマトは安心したように巻かれている体の包帯にその小さな手で触れゆっくり撫でるように動かした。

 

「……痛むか?」


「少しな」


「あの後、戻ってみたが酷かったんじゃぞ? 胴体が殆ど真っ二つじゃ」



「……あの男にやられてな。強かった……ん……おいおい」


「どうした?」


 あぁ、なんていう事だろうか。相当のダメージがあったらしい。だがこれは辛いな。


「足が動かねぇ」




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