表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

羽ばたこう

 騎士団長が死んだ事により俺は多分、この国にはもういられないだろう。俺の家で俺の妻と共に撃ち殺されているんだ。犯人は俺以外思いつかないだろう。そうなる前に必要なモノを買い揃え準備を済ますことにしよう。

 流石に町でティアマトの事を名前で呼ぶのは出来ない為、ティアと呼ぶことにし、バシュムの事はバシェと呼ぶことにした。


「ティア、とりあえずだが、食料を買って来てくれないか? あとはバシェ、お前は布をいくつか買ってきてくれ」


「布? どうすると言うんじゃ?」


「お前らの服を作るんだよ。多分、ていうかドラコ公国を抜けるには雪山を超えなきゃならん。その為の防寒着とか色々をな」


 キョトンとしている二人を見て俺は首を傾げた。何かおかしな事を言っただろうか。

 しかし、二人はすぐに顔を見合わせてヒソヒソ話をし始めた。


「アプスってもしかして家事スキル高いね」


「うむ。人は姿、顔じゃないって事じゃよ」


「おい。ヒソヒソ話をするならもっと小さな声でしろ。ワザと聞こえるように喋ってんだろ」


 こいつら……

 自分の役割を理解した二人は俺の拳をヒラリと躱すと自分がするべき事をしに向かった。俺も自分のするべき事をしなくてはな。


「おっ、こいつぁファーレンハイトの新作じゃねぇか」


 短銃選びだ。

 この短銃も悪くはないのだが最近グリップの付け根が削れてきて指が痛いのだ。それで買い替えるのだ。これはお金の無駄遣いではない。必要な事なんだ。グリップと言うモノは大切だ。大事な事なので二回言おう。これは無駄遣いではない。


「この輝き……この手に馴染む感触……ほほう……なるほど……ふむ」


「よう、アプスの旦那、お目が高いねぇ。それはファーレンハイトの新作でな。この紋章に火の魔法が込められてんだ。それで、弾の種類は通常の鉛玉に加え、魔法によって炸薬、焼夷、その他諸々だ。それにこの見たことも触ったこともねぇ素材で出来てるんだがこれがまた頑丈でな。ちょっとやそっとの衝撃や熱じゃぁ壊れねぇ。それになんたって特筆すべきはこの銃口、通常の短銃より少し長くなってて、弾の飛距離が段違いに上がってやがる! アプスの旦那には贔屓にしてもらってるからな安くしとくぜ」


「よし買った!!!」


 衝動買いって恐ろしいな。いやマジで。

 一通り必要なモノを買い揃えて合流場所である町の門前に一足先に向かっていた。すると家の前を通った時、騎士団の一員が押し入ろうとしていた。意外に早く嗅ぎつけられたな。まぁ、もう出るからいいんだけどな。


「……おっ、来たな」


「待ったかえ?」


「いや、今来たところだ」


「お前らは恋人か」


 ペシッとバシェに頭を叩かれてから荷物を三つの大きなバッグに詰め込みそれを三人で持つことにした。

 バッグの中には一週間分の食料が分けられており、もしも何かあり二人と別れて行動することになっても一週間は野宿出来るぐらいには詰めている。それに加えて俺の場合は短銃の手入れ道具に各弾薬等が入っており、正直重たい。


「とりあえず、だ。俺について来るのはいいがお前らを守れる保証なんてないぞ? それに俺の旅は普通のそれとは違って日向を行く旅だぜ? お前らにも目的はあるんだろう?」


 そう聞くと二人は顔を見合わせてキョトンとして首をかしげながら疑問を問いかけてきた。


「主は何を言っておるんじゃ。我と主は契約した仲じゃないかえ」


「私はティアマト……んん、ティアがついていくと言うのなら私も行くだけだ」


「ティアはともかく、お前なんつうか、あれだな。凄いな」


「だろ?」


「褒めてないぞ。全然褒めてない」


 まぁ、こいつに何を言ってもダメな気がするからもう放っとく。

 準備が終わり、丁度町を出ようとした所、騎士が俺の事を捜索していたのか見つけると大声で止まれ、と叫んで来たがそんなモノで止まるはずもなく、急いで俺達は町の少し離れた位置にある森にへと向かった。

 未開拓のこの森は魔物が繁殖し、棲み処としているのだ。近道であるこの森を通った者は殆ど出てきたことはない。だがしかし、魔物達のボスみたいな者らがこちらには二人いる。大丈夫だろう。


「なんじゃ、獣臭い森じゃ」


 森に入った途端ティアは鼻を押さえて獣の匂いが入ってないようにした。どうやら鼻は敏感なようでちょっとした香水も苦手らしい。

 俺はこの森の説明を出来るだけこれまでしたことのないようなほど懇切丁寧に行った。


「アンダースタン?」


「OK」


「アイドンノウ」


「ファック」


 そんなやり取りをしながら森の中に入っていくと早速魔物が現れた。

 大きな熊の姿をした魔物だ。腕が鉄のように光沢のある金属になっておりあれで殴られたら一瞬であの世に行けそうだ。少し見合っているとバシェが一歩前に出ると刀を抜き構えた。どうやら一人でやるようだ。


「……なぁ、ティア、バシェの刀の腕はどんなんだ?」


 俺はよく知っているであろうティアにバシェの腕の事を聞くとこちらを一瞥しニヤっと笑った。


「あやつが仲間でよかったの。と言いたくなるほどじゃ。まぁ、今回は一刀流じゃぁ。あまり強さは測れんがの」


 どうやら相当の腕の持ち主のようだ。だが会った時からあんな感じなんだ。あまり期待出来ない、と言うか信じれないと言うかまぁ、そんな感じだ。だが俺の考えは改める必要がありそうだ。


「じゃっ、行くよ!私の剣技をとくと見なよ!アプス!! 鉄の処女アイアン・メイデン!」


 ニコっと笑ったバシェが刀を抜く仕草をするといつの間にか熊の向こう側に移動しておりスカートを指でクイっと少し持ち上げ丁寧に一礼すると熊の魔物は一刀両断どころかまるでサイコロのような小ささになりその場に文字通り崩れてしまった。

 本当に一瞬の事で開いた口が塞がらなかった。


「どうよアプス、すごいでしょ」


「あ、あぁすげぇよお前」


 何気にポテンシャルが高いバシェに関心しつつティアが単独で戦ったらどうなるのかと言う期待が頭を過った。なんか国一つ滅びそうで怖ぇよ。なんか。


「んじゃ、進むのじゃ」


 先程の森の熊さんにはとんだ化け物を相手させてしまったな。不憫だ。

 この森は案外整備されており、獣道を行かない限り迷う事はない。だが整備された道を歩けるのは何も襲ってこない時のみで魔物やらが襲ってきた時は仕方なく林の中に逃げなくてはならない。そうなってしまったらさぁ大変だ。


「うむ、迷った」


「うむ、迷った。じゃねぇよ」


 興味本位でティアが林の方に歩いて行ってしまった為付いていくとあら不思議。迷子の出来上がりだ。しかも太陽が沈み始めており空は少しずつ暗くなっていく。暗闇での戦闘は魔物に有利過ぎる。まともに視認出来ない暗さでも魔物は夜の狩りになれており向こうからは丸見えだ。だから早く抜けたいのだがこのロリドラゴンのせいで迷っちまった。いや、まぁ止めなかった俺も悪いんだけど、悪いんだけどさ、やっぱり少年心をくすぐられると言うか、男心は未知なる未踏の地に対しての情熱が凄まじいんだ。そう、何が言いたいかと言うと俺も興味津々で林の中に入っていった訳だ。


「主従揃ってバカね」


「バカとはなんだバカとは。バカはこいつだけにしろ」


「バカは主じゃろうが」


「ああん? 狩るか?」


 丁度いいところに狼型の魔物の群れが現れた。数にして五十から七十ぐらいだ。だがこの時の俺達はこの目の前の生意気な奴と勝負がしたくて仕方なかった。


「多く狩れた方が勝ちな」


「望む所じゃ」


「はぁ……じゃぁ私は数え役しますよーっと」


「行くぜ!!」


「我の吐息ブレスで一発で決めてやるわい!!」


 結果


 ティア 二十体 アプス 二十体 バシェ 三十体

 バシェの勝利。


「おいざけんな!!」


「だって私の所に来るんだもん。仕方ないじゃん。てへぺろ」


 クソ。思わぬ伏兵に敗けちまったよ!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ