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ティアマト

 目が覚めた。場所は先程俺が倒れた場所。バシュム遺跡の祭壇に向かう道だ。地面には俺のモノであろう血とメリナの髪飾りが落ちていた。血濡れになった髪飾りを拾い胸ポケットにしまった。

 どうやら何者かの襲われたらしい。中々穏やかな奴らではなさそうだが、ベルベットがいるならば大丈夫だとは思うのだが、安心は出来ないな。


「それで……お前は誰だ?」


「おや、気付いておったか」


 俺の後ろで座っている少女の方を向いて鼻で笑った。ただの少女でじゃなさそうだ。紅い目の少女は怪しく笑うと立ち上がり自己紹介をし始めた。


「我こそは原初の竜ティアマト!! 主の声を聞いた、主の願いを聞き入れた、主の──その執念を好いた」


「っは、俺はただ俺をこんな風にした奴らが……許せねぇだけだ……それにメリナだって……」


「あぁ、あの女の事か……かっかっか……主は不憫な男じゃの……」


「ああん?」


「まぁ……自分の目で確かめてみるとよいわ。何故自分が殺されたのかを……な」


 クソ、何故だか知らんがこいつの喋り方はいちいち癪に障る。が、こいつが本当にティアマト、と言うのならばこれほど心強い奴は居ないであろう。


「だが、お前は封印されてたんじゃいのか?」


「封印? あぁアルカナの事か! 我はあやつに封印なんてされておらんよ。ただ寝てただけじゃが……何やらこっちの世界が騒がしいでな……目が覚めてしまったわい」


 伝承と全く違うじゃないか。


「アルカナとは主従関係と言うか、契約しておってな。我が封印されたように書かれておるのは奴が、アルカナが死んでしまって我の依代がいなくなってしまってこの世に顕現するのが面倒だったからじゃ……はぁ、起きてみれば世界は混乱、我が目を覚まして暴れるのもよかったんじゃが、主の声が聞こえてな。手助けをしてやることにしたんじゃ。気まぐれでの」


 その気まぐれでも助けてもらった事には変わりない。それならばする事は一つだけだ。

 俺は深々と頭を下げて礼を言った。命を助けてもらったんだ。礼をするのは当たり前だ。


「ありがとう。助かった」


 ティアマトは最初はキョトンとしていたがすぐに笑顔になり、何故だかわからないがその笑顔はとてもメリナに似ていた。


「うむ! それにこれから長い付き合いになるしの」


「長い付き合い?」


「うむ。主を助ける為に勝手ながら契約をしたんじゃ。主の体は半分人間、半分はティアマト、と言う事じゃな。半竜、と言う所かの」


 だからなのか。だから妙に力が湧いて来る。それに胸が熱い。これが竜の体なのか。


「我の眷属と我と合体も出来るんじゃ! 凄かろう? やってみるかえ? ここは丁度あのバカ蛇が眠っておる所じゃしの」


 バカ蛇、バシュムの事だろうか。

 俺は一通りの説明を受けて言われた通りの手順でやってみた。まずは目を瞑り、ティアマトと一つになるのを想像した。すると少しずつ体が変化していった。体は紅い鱗に覆われて爪は鋭くなり背中には翼竜の翼が生えた。


「おぉ……っておい!!! なんで体が女になってんだよ!!」


『むっ……主よ……その顔……まぁよいわ……我とのリンクが思った以上に強いらしいの。中身は主じゃが、外見は我のモノじゃと思っていればよい……主よ。この先の祭壇で何やら不穏な空気がしよる……我は寝るが……あとは主の好きにするがよい……ふぁぁぁ……殺さずもよし、殺すもよし、じゃ』


 頭の中でティアマトの声が響く。まるでテレパシーだ。

 俺は祭壇の方へと歩みを進めながらふと指を見た。そこにはめていたはずの結婚指輪が無くなっているのだ。なけなしの金で買ったしょぼい指輪だったが、メリナが喜んでくれてお互いどんな時も欠かさず大事に着けていたのだが無くなっている。

 自分としたことが、メリナに怒られてしまうな。

 少し歩いていると祭壇に近くなったのか何者かが喋るのが聞こえた。複数の男達のようだ。


「そういえばあの大男はどうしたんだ?」


「姫様が殺しちまったよ」


「ははは!! そりゃそうか!」


「これからどうすんだ?」


「とりあえずこの祭壇をぶっ壊して次の祭壇を壊しに行くんだろ?」


「OK!」


 何やら物騒な話をしているが大男と言うのは俺の事だろう。こいつらが俺を襲った奴らの仲間か。それにしても姫様、と呼ばれる奴は一体何者で何が目的なのだろうか。

 祭壇を全て壊して何かしようとしているのか。


「よう、暴漢共」


「!!? だ、誰だてめぇ!」


「こいつ……まさかさっきの男じゃ!?」


「だが女だぞ!!」


「残念だったな。生憎死ぬのは不得手でな。死に損なっちまったよ」


『よく言うわい。死にかけておったくせに』


「うるせ」


 俺は短銃とナイフを構えた。

 そしてその二つの武器が形を変えているのに気付いた。短銃はまるで狙撃銃に、ナイフは何でも斬れそうな業物のような刀に変化していたのだ。これもティアマトと融合したせいなのだろうか。

 だが──


「嫌いじゃねぇな! ティア! 力を使わせてもらうぜ!!」


 何故だかわからないがこの力の使い方が自然と理解出来る。

 俺は狙撃銃を片手で男に向けて引き金を引いた。すると炎の弾が男を貫き一瞬で燃えカスに変えてしまった。


『灼熱の吐息ティアマトーブレスと言った所かえな』


「こいつは心強ぇ……」


 次に剣で斬りかかってきた男の刃を狙撃銃の反対に持っている刀で受け止めると刀の刀身に火が纏い始めて赤く変色しさらに大きくなった。


「な、なんだこいつは!?」


「行くぜぇ!!」


 その刀は相手の剣をいとも簡単に折ってしまいそのまま男を炎で包み灰に変えてしまった。

 すると残りに男達は戦う意思を無くしたのか武器をその場に捨て、逃げようとしていた。俺は見逃そうとしたが目の前の祭壇に祀られている者は逃がそうだなんて微塵も思っていなかった。


「私の祭壇をぶち壊そうとした挙句、ティアマト様に刃を向けた愚か者達を……私が逃がすとお思いで?」


 出入り口に現れた一人の女。半分が人間、半分は蛇の化け物であった。

 その女は逃げようとする男達を大きな手で摘まむように服の襟を持つと、どこから湧いてきたのか大量の蛇が持ち上げられた男達の真下に這いずり出てきたのだ。


「や、やめてくれ!」


「な、なんでもするから命だけは!!!」


「本当になんでもかしら?」


「本当だ!!!!」


 その言葉にニィっと三日月の様な笑顔を作るとそのまま落として蛇の餌にしてしまった。男達の断末魔の叫びが遺跡内にこだまし、数分後にはその声も無くなり静かになった。

 そして、蛇女は俺の方を見ると頬を赤く染めて尻尾を体に巻き付けてきた。


「ティアマト様!!! お会いしとうございました!!! あぁ、私に会いに来てくれるなんてまさしく運命!! いつもは冷たいティアマト様ですが私の愛を試す為にあえて!! そうあえて!!! 冷たく突き放してetc!!!」


「あぁ、もううるせぇ!! おいティアマト何とかせい!」


『う、うむ……あまりこやつとは会いたくなかったわい』


 そういうと俺は元の姿に戻り、ティアマトが俺の隣に現れたのを蛇女が見ると俺をそこら辺に捨ててティアマトに巻き付き始めた。そして先ほどのマシンガントーク、ほぼ一方的な思いをぶちまけ始めた。

 最初は黙って聞いていたティアマトだが次第に我慢出来なくなってきたのか相手の顔を手で掴み地面に叩きつけた。


「やかましいわ!!! 久しぶりに会ったと思えば全然変わらぬの! バシュム!!!」


「ふふ、そんなティアマト様は変わりましたね。小さくなられて…………それでこの男はなんでしょうか」


 笑顔で爪を俺の首に突き付けながらティアマトに問いかけるバシュムだったが俺の体の匂いを嗅ぐと絶望にも似た顔をして項垂れてしまった。


「あ、あぁぁぁ……何てこと……ティアマト様……この男と契約を……」


「うむ! なかなか骨のあるいい男じゃろ?」


「なんかすんげぇ落ち込んでるけど、この女」


「まぁそうじゃろうなぁ……我らにとって契約と言うのは結婚みたいなものじゃからな」


「なっ……」


「じゃから言ったろう? これから長い付き合いになる、とな」


 ニシシと笑うティアマトを見ていたバシュムは俺の顔とティアマトの顔を交互に見ていた。そして深いため息をついて人間の姿へと変わった。そして俺とティアマトの前に片膝を突き頭を垂れた。


「我が主君ティアマト様、そして……えっと」


「アプスだ」


「アプス様、これより蛇神バシュム、お二人様の旅に同行する事をお許しください」


「うむ。大いに働くといいぞ」


 どうやらこいつも一緒に来るらしいが俺のやる事はただ一つだ。

 メリナと再会する、ただそれだけなのだから。

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