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旅立ち

 昔々、遥か昔、太古の昔、人はドラゴンと生活を共にしていた。竜は人の言語を解し人は竜からの恩恵を受けていた。それは一つの契約によるモノであった。

 原初のドラゴン、”ティアマト” それは世を喰らう災いそのものであった。だがたった一人の少女、アルカナだけがその竜と想いを分かち合う事が出来た。そしてそのアルカナは世を喰らう竜を悲しく思っていた。少女は世界が大好きだった。

 そしてアルカナはその身と引き換えに原初のドラゴンをその身に封じ込めた。この先、生まれてくる者達の明るい未来の為に──


 アルカナがその身を封じ込めてから数千年、人は竜を友としてではなく、道具として見るようになった。そして竜は人の目の前から姿を消えた。竜が消えてから人は争いを頻発に起こすようになった。原初のドラゴンが目覚めるには充分であった。


「国王様!! 東方鎮圧軍が異民族の反乱により壊滅!」


「報告します! 西方からドラコ公国のファーレンの不死隊が進行! 次々と関所が破られています!!」


 人は争いを繰り返し繰り返し繰り返し、また繰り返し何度も滅び、何度も栄え、何度も滅び、何度も栄え、また滅びる。人は愚かだ。本当に愚かだ。これ以上、もはや契約を守る必要はない──





「……ん」


 朝日の光が閉じた瞼を開けようと無理矢理入って来る。鬱陶しい。光なんて消えてなくなればいいのに。

 そう思っても光は俺の瞼をこじ開けた。


「……ふぁぁぁ」


「アプス、おはよう」


 目を開けると目の前には怠惰の塊であると認識している妻が先に起きて俺の顔を覗き込んでいた。全く、笑顔だけは一丁前に働いてやがる。顔だけじゃなくてちゃんと働いてほしいモノだ。

 俺は少しだるい体を起こして俺が立ったのに寝転んだままの妻を無理矢理起き上がらせた。


「おいメリナ。起きろ。今日は巡礼の日だろ」


「おっ、そうだったね。んじゃ行こうか!」


 こいつ──働かなくて良いと気付きやがったら速攻でやる気を出しやがった。まぁ、いいや。

 今日は巡礼だ。巡礼とは週一回に町人が必ず行わなければならない。町の外にある遺跡、聖堂、教会等、計11箇所を数人の騎士様と共に回る事を言う。

 ここドラコ公国は有数の宗教国家として名高い。国民は己の信仰を証明する為にわざわざ巡礼を行う。俺からすればバカみたい話だが俺達も巡礼は行う。それは巡礼を行わなければこの国では生きていけないからだ。

 巡礼をしないモノは非国民として、またかの災厄のドラゴンの信仰者だと謂われの無い罪で大広場で国民の目の前で公開処刑だ。


「外でベルベットを待たせている」


「ベルちゃん? あの子も忙しいのによく来てくれたねぇ」


 ベルベット、俺の古い友人で妻であるメリナとも友人だ。

 昔から何を考えているかわからないが、とてもいいやつだ。


「よっしゃ用意できた! 行くよ!」


「うむ」


 護身用の短銃とナイフを腰につけているベルトの左右にある装着具に装備し外で待つベルベットに二階の窓から飛び蹴りをかました。


「どるぁぁぁぁぁ!!!」


「馬鹿め!!!」


 俺の足を受け止めたベルベットはそのまま掴み地面に叩き落としてきた。

 俺の体は通常男性の一回り二回りは大きい体だ。ベルベットはそれに対して通常男性の少し小さめだ。と言うか女だ。女に投げられる巨体の大男ってどうよ。


「それじゃぁ行こうかね。最初は遺跡、だったか?」


「えぇ、町の外には危険な魔物とか居るから、気をつけてね。メリナは後ろに下がって、アプスは戦えるよね? 銃撃に関しては私より技術はあるしね。剣術に関しても私に及ばないけど、それなりに出来るしね」


 ベルベットの評価は正しいモノであった。銃撃は俺の得意分野だ。自分で言うのもなんだがこの世界で一、二を争う腕だと自負している。

 メリナは俺とベルベットの間を楽しそうに歩いていた。それを見て俺は穏やかな気持ちになれる。こいつは怠惰の塊だが、そういう所も含めて全部好きだ。


「いつも思うんだけどよ、この巡礼ってさ。危ないだろ? それなのに国は強制してるよな」


「巡礼しない者は非国民として裁かれる。そうなりたい?」


「いんや、やだね。まぁ知ってんだけどよ……なーんか引っかかるんだよなぁ」


「っはっはっは、そりゃそうだねぇ! 私は巡礼なんてしたくないけどアプスとベルベットが一緒で楽しくていいんだよ!」


「おーいメリナ! あんな走ったらこけちまうぜ……ってもう転んでるし」


 だぁっと走り出したメリナが少し先で転んだのを二人で笑った。全く、元気な野郎だ。町の外に出て少し木々が増えて林のような所に入るといつも相手をしているモノ達の匂いが鼻につき始めた。

 魔物だ。


「ベルベット、右の草むらに二匹だ」


「了解、左に二匹よ」


「よし、私は走るからあとよろしくね」


 短銃とナイフに手をかけて魔物が飛び出してくるのを待っていた。こちらから仕掛けなければ獣タイプの魔物は常に標的への狩りを考えている。必ず自分らの群れに被害が出ないような狩りを行う。

 だから俺らは飛びかかって来た魔物を一匹は撃退出来る位置取りで走ればいい。そうしているとベルベット側の草むらから狼のような魔物が飛び出してきた。


「それ来た死ねごるぁ!!」


 すぐさま短銃を構え魔物の横腹を何発か撃ち抜いた。致命傷にはならなかったが簡単に狩れる相手ではない事は理解させる事が出来たはずだ。


「ナイス。っとそっちも来たよ!!」


 ベルベットも俺側の草むらから飛び出てきた魔物に対して投げナイフを獣の額に向けて投げつけるとそれはそのまま魔物の額に突き刺さってしまいその場に倒れた。

 これで一匹、あと三匹だ。


「っ!? メリナぁ!!しゃがめ!」


 少し前で走っていたメリナの目の前に魔物が飛び出てメリナに襲い掛かろうとしていた。それに気付いた俺はすぐメリナにしゃがませて相手の前に出て魔物の顔を掴み思い切り地面に叩きつけてそのまま顔を踏みつぶした。


「っはぁ! あっぶねぇ! 大丈夫かメリナ?」


「危なかったねぇ……大丈夫だよ!」


「よしよし、ベルベット!! ここで終わらすぞ!」


「はいよ!」


 その場に立ち止まりメリナを挟むように位置につき武器を構えた。


「んぅ、さてっとやるか!」


 そう叫ぶと同時に残りの魔物二匹が前に出てきた。出てきたのはまだ幼い魔物であった。俺らが殺した魔物の二匹の子供だろうか。


「……アプス、どうするの?」


「殺すに決まっているだろう。魔物だぞ。殺すに決まってんだろ」


 俺がそう言って短銃を子供の魔物に向けるとメリナが目の前に立ち塞がった。邪魔だ。


「アプス、ダメだよ。ダメなんだよ」


「邪魔だ。メリナ、俺が魔物が大っ嫌いだと知ってるだろ」


「知ってるけど、ダメなんだよ」


 邪魔なんだよ。俺が魔物を殺す時に邪魔をするんだじゃない。お前まで殺しかねない。


「……退け」


「アプス、顔怖いよ」


「うっ……はぁ……わかったよ。殺さねぇよ」


 銃口を相手から外し半ば呆れた顔で自分の妻を見た。幼い魔物二匹の頭をまるで親のように愛おしそうに撫でていた。メリナは昔からどんな生き物に対しても甘い。魔物であっても罪人であっても、俺にも甘い。

 とんだ女を妻に持ったモノだ。


「ねぇアプス!! この子らうちで飼おうよ!」


「はぁぁぁ!? 魔物だぞ!?」


 本当に恐ろしい奴だ。魔物の二匹を抱き上げてその毛皮に自分の顔を埋めていた。あぁ、ダメだ。こいつには勝てん。


「さて、じゃぁ一段落したし、遺跡に向かおうか」


 俺と同じような顔をしているベルベットが前に歩き出し、少し先に見えている遺跡に向かい始めた。


「バシュム遺跡、か。蛇を祀る遺跡として有名だが、実際の所、いつの時代の遺跡かは全く分かってねぇんだよなぁ」


「あぁ、遺跡を作っている物質がこの世のモノではないらしい。それにこれは噂だが最近、バシュム遺跡によく怪しいモノが出入りしているようだ。気をつけるに超した事はない」


「でもさぁ、蛇っていっても毒蛇なんでしょ? なんでそんな厄介なモノは国はご神体として崇めさせるのかな」


 俺も不思議に思っていたことだがメリナは深々と考え込んでいる。

 メリナは基本的に神なんて信じていない無神教者、無神論者だ。その存在はこの宗教国家においてどんな存在なのかは言わなくてもわかるだろう。


「確かに蛇はたまにドラゴンとして見られるけどさ、竜ほど神秘的なモノでもないし、竜ほど恐ろしいモノでもない。ましてや毒蛇、聖なるモノではなくて邪悪なモノなのに、この国の人はそれを考えないでよくもまぁ、そんなモノを崇める事が出来るよ」


 だからこいつを嫁に貰った。こいつと居ると退屈しない。


「っはっは、全く恐ろしい友人達を私は持っているよ。神も、いや竜も恐れぬ逞しい友人だ」


 遺跡の目の前に着くとどうやら数人の信者が先に来ているようで今しがた巡礼を済ませた所なのだろう。遺跡の入口から出てきた者達と挨拶を交わした。


「さって……入るか……ん?」


 遺跡に入ってから何かに見られているような、そんな気がしてならない。だが今ここにはメリナとベルベット、そして俺しかいないはずなのだが。だがまぁ先程ベルベットが言っていた怪しい者の件のある。用心しておこう。

 目的の場所は遺跡の最深部。蛇神バシュムを奉る祭壇に祈りの言葉を捧げる為だ。


「バシュム、ムシュマッフ、ウシュムガルル、ムシュフシュ、ラフム、ウガルル、ウリディンム、ギルタブルルー、ウームダブルートゥ、クルッルー、クサリク、11の神を祀る祭壇に巡礼するのが目的かぁ」


「これからまだ十カ所も回らなくちゃぁいけねぇんだよなぁ」


「まぁ、それが巡礼だからな」


 やはり誰かに見られている。一体誰だ。だがこんな狭い所で戦って挟み撃ちにでも大変だ。なるべく急いで祭壇の場所がある広い場所に出たいモノだが──


「──あ──?」


 俺の胸に巨大な風穴が開いた。

 唐突の事で最初は何が起きたか理解出来なかったが次第に激痛が広がっていきその場に倒れてしまった。やはりもっと早くに対処しておくべきだったか──あぁクソ──ごめんな。メリナ──




『──い──おい──』


──誰だ。俺の眠りを邪魔する奴は──殺すぞ──


『このまま──命尽き果てるのを──待つか──?』


────はぁ、死んじまったか。俺は──


『──あぁ。無様にな──だが、私をその身に宿すと言うのならば──』


──────良いだろう────使ってやるよ──来いよ────ティアマト──!!!!!

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