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春が二人をもしくは痛みが二人を

作者: 安吾

「いや、だからね遠くを見る訳よ、

ケータイ見過ぎたり本集中したりしたらさ

焦点がぶれるでしょ?そーゆー時俺の中で

あっ!視力落ちてるよコレってなっちゃって

ベランダに駆け込む、で遠くの方、ほらタワーが

見えるじゃんウチからそれでプラマイゼロ、視力問題

無し!みたいなさ、無い?こーゆーの」


深夜の国道沿いを並んで歩きながら

シュウは、のべつ幕なしに口を動かしている。


この時間にもなると道路沿いの店は全て

シャッターが降りていて

妙に閑散としていて薄気味悪い。


深夜に呼び出され渋々外に出てきたウタコは、

行きつけのミスタードーナツにでも適当な当てを

つけ期待していたのだが、なるほど、2時ともなると

どんなチェーン店でも店じまいか、と

深くため息をついた。


「でさぁ、ベランダ出てたらさぁ

やっぱ春だよなぁ春が良いんだよねまた、

春の夜風があんまり気持ち良いから散歩したく

なっちゃったんだよね〜。」

隣の愚男はこちらの意図など全く汲み取ろうとは

せずにくだらない話を再三繰り返していて

止めようとはしない、ウタコは辟易とした心持ちに

なってきた。


けれども確かに、春の夜風には胸の中が空っぽに

なるような清々しさがある。


寂しいような高揚するような

不思議な力がある。


その力は自分を何処か遠くに何処か違う場所に

まだ知らない景色まで連れて行ってくれそうだな

ウタコは、そう思った。


「まぁ視力のことは気のせいだと思うけどさ、

春の夜はさ、うん、気持ち良いよね。」


少しだけ話す気にもなってきたのでウタコは

適当に口を開いてみることにした。


そして目の前に公園が見えてきた

桜公園と言う名だけあって公園中央にある

一本桜は沢山の花を蓄え、外灯に照らされた姿は

日本人であることに二人に誇りを持たさせるソレには

充分なものだった。


歩き疲れた二人は、どちらからという事もなく

公園のベンチに腰掛けた。


その時、少し強めの風が吹いたかと思えば

ひとひらの花びらが風に舞ってシュウの黒い

ウィンドブレイカーのフードに入り込んだ。


それを眺めていたウタコは少し微笑んだ。


その時二人はお互いの何かが繋がったんだと思った。





「なに?なんか楽しくなってきた?」


「いや、まぁいろいろね」


「心臓にね意識を傾けるんだよ」


「心臓⁈なによいきなり」


「心臓に集中するとさズキズキ痛むんだよな

そしたら俺の人生もぼちぼち近いなって

思ってなんか悲しくなるんよ」


「ちょっと止めてよ、なんかホントに痛くなってきた

胸のこの辺りでしょう?、、、

ああ重いねこの痛み。」


「そうだろ重いんだよ、こんな春の夜にさ」


「近いのかな、私たちもう、なんかこんな時間だしさ

眠いなこっちももう近い。」


「それはいいけどさお前、パーカーのフードに

桜入ってんぜ」


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