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6.

 あたしは固まっていた。それを見て、恭介が笑い出し、

「おい、名前は?」

 と聞いた。

「やだ、キョーコ、名前も知らなくて、どうやって呼び合うのよ」

 は、「キョーコ?」何? さらに頭が混乱した。

「おい、名前だよ」

 とまた恭介が聞いた。

「あ、サガラキイコです」

 とあたしはしょんぼりと、しょぼい声で答えた。

「いいじゃん。キつながりで。じゃ、おれ、キーコって呼ぶから、おまえ、キョースケって呼んで」

 この軽いノリはいったい何なのか? それはいまだにわからないことだけれど、今は漠然とした恭介ってものがわかってきている。

「あんた、式の用意とか、そういうことできるの?」

「たぶん、こいつがやる」

 と、恭介はどんとあたしの背中をサナちゃんの方に押し出した。

「キイコさん、できる?」

 あたしは固まったまま

「できません」

 と答えた。

「そ。じゃあ。マユミちゃんに手伝ってもらおうかな?」

「やべ」

 と恭介が言った。

「やあね。男って」

 サナちゃんが言い、あたしはそのマユミちゃんと恭介の間に何かあったんだろうな、と直感した。

「キイコさん、いい、男ってものを信用しちゃあだめよ。信頼できるものは、信頼できる女の中にしかないから」

 サナちゃんは目だけあたしの方を見て言った。

 それから、サナちゃんは、社内ホーンでマユミちゃんって人を呼び出し、スレンダーでストレートパーマのかっこいい女性がやってきた。

「カキウチマユミです」

 とその女性が名刺を差し出した。「ゴールデンウィドウ 垣内真由美」と名前があった。

「あはは」とサナちゃんが急に笑った。

「ゴールデンウィドウって笑えるでしょ。本当はね、ブラックウィドウにしたかったのよ。ただのクモの品種だと思っていたんだけど、もうちょっと派手にしたくて、ゴールデンにしたのよね。だから、金色のクモのロゴ。最近、アメコミにブラックって出て来るから、ゴールデンにしておいて良かったわ。派手で」

「あの…」

 垣内さんが困っていると、サナちゃんが少しポケっとして

「あ、ああ。あのね、キョーコが結婚決めたんだって。悪いけど、結婚式の日取りとか場所とかアレンジしてもらえるかしら。もちろん、仕事として」

「あ、わかりました」

 にっこりと笑う垣内さんは、すごくやわらかい人って感じになった。

 恭介はというと、明後日の方を向いて、まるで自分の結婚の話じゃあないって感じだった。まあ、そういう意味では、あたしにも自分の結婚って実感はなかったのだけれど。

 日取りはさくさく決まった。

「どういう風にしたいの?」

 と垣内さんが、結婚式の感じを聞いてきた。

「わかりません」

 とあたしは正直に答えた。

「えっと…、派手?」と言ったあとで、あたしのことをジロリと見て、「地味の方が良さそうね」

 とバカにしたように笑った。でもあたしは構わなかった。地味はあたしのアイテムだからむしろうれしかった。

「ご家族は?」

「あの、田舎に母が…」

「親戚の方は?」

「母方に数人」

「オッケー」

 それだけだった。

 ゴールデンウィドウの事務所を出ると、恭介はもう知らんぷりでどこかに行こうとしていた。

「ねえ!」

 とあたしは腹が立ってきて、呼び止めた。

「何?」

「なんで、キョーコなの?」

 とりあえずの疑問を恭介にぶつけた。

「ああ。知らねえ。サナちゃん、女の子が欲しかったんだよ。男、信用してねえから。だから、おれの中の女を育てるとか、わけわかんねえこと言ってたけど…。ま、いいんだ何でも、じゃ」

 とあっさり、行こうとして

「そうだ! 電話とか、教えといて、えっと、サガラ? だった? どういう漢字?」

 と寄って来て、その時にあたしの名前をちゃんとわかったみたいだった。

「ちょっと!」

 とむっとして、もうわけわかんないもやもやをぶつけたかったのだけれど、あまりにももやもやすぎて、いったいそのどこから何を言ったらいいのか、さっぱりわからなかった。恭介がちょっといらついて、少しだけあたしが何か言うのを待っていたけど、

「悪いけど、おれ、約束あっから。どうせ結婚するんだし、聞きたいこととかメモしておけよ。それからでも悪くないだろ。ゆっくりやろうぜ」

 と、ポンと肩を叩いて、行ってしまった。


 それから学校に戻っても夢うつつだった。菅生のことも合コンで一緒だった女子のこともまったく気にならなくなった。なんだか、あたしは得したような気がしていた。恭介は学校を辞めてしまったらしく、それから来なくなった。

 翌日の昼休みに菅生が寄って来た。

「あ、黒澤さんどうした?」

 と聞いて来た。

「え? ああ」

 結婚が決まったことをこの人に言うべきか、言わないべきか、わからなかった。

「もう、メールにも電話にも全然出なくなっちゃって」

 と菅生が困ったような声を出した。

「黒澤さん、怒ってるのかな? なんでだろ?」

 「見せしめ」って言っていた、恭介の冷たい顔が頭に浮かんだ。こんな気弱で優しい人を傷つけていいのだろうか。じゃあ、あたしはどうなの? 恭介との結婚をやめる? どうする?

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