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4.

 あたしの髪はと言えば、硬くて、まっすぐで、後ろに一本結んでいて、なんつうか、まあダサイの典型。

「それ、飲んじゃえよ」

 と、呪文のようにあたしの耳元で恭介がささやき、あたしは震える手で、ワイングラス持ち、ぐっと飲んでしまった。半ばヤケクソだった。

「ここ出よう」

 飲み終わったあたしに、恭介が言った。

「え?」

 呆然とするあたしの腕を取って、

「おい、スガオ、これ、二人分な」

 と一万円札をそこに置き

「おれら、出るから」

 と決めつけた。

 ぼんくらなあたしには何もできなかった。その他のアイテムは器用・ミーハー・かなり地味・ダサイだもん。こんな場所で器用でも何も太刀打ちできない。

 あたしは恭介のマジックにかかっちゃって、そのカフェを引っ張り出された。

 だって、そんなことがあったら、もうそのテーブルには戻れないよ。ほかの女子からは恨みオーラ攻撃だよ。まちがいなく。

 外の風は少し涼しくて、火照っている頬に気持ち良かった。

 恭介はあたしの少し先を、ぐいぐい歩いている。あたしは、もう訳がわからなくて、自分のトートバッグを前に抱えて、下を向いて、トボトボ着いて歩いていた。もしかして、恭介が振り返らなければ、このまま逃げられるかも? そんな気分だった。

 と、恭介が振り返り、

「おい、何やってんだよ。速く歩けよ」

 と言って来た。あたしの心はじと~っとなって、泣きそうになった。

「しょうがねえな」

 と、恭介は、あたしのところまで戻って来て、あたしの腕を取った。それから、引っ張られるように恭介に連れられて歩いた。

 代々木の駅で、恭介がタクシーを拾った。

「先に乗れよ」

 と言う。

あたしはじと目で、下を向き、口を結んで、少し抵抗している感じを出しながらも、結局タクシーに押し込められた。

「表参道」

 と恭介が言った。

何? これトレンディードラマ? と思いつつも、あたしの身体はコチコチになっていた。

 車が走り出すと、恭介が耳元で言った。

「あいつのこと、振れよ」

「え?」

「スガオだよ」

「え?」

「あいつ、お前狙いで、あんな合コンやりやがって、まじ、むかつく」

 そう言われてもなあ、とあたしは思った。

「おれのこと、ダシにしやがって」

 あたしには返事の言葉が見つからなかった。

「あいつには、見せしめが必要なんだよ」

 はあ? 見せしめ? って思った。何考えてんだ、この人はって。

 車は表参道の、皆が噂していた、有名デザイナーの店の前で止まった。

 恭介がお金を払い、先に下りた。あたしは、その時がチャンスだと思った。この人に着いて行ってはいけない、と思った。なので、運転手さんに、

「渋谷駅お願いします」

 と言った。恭介は、当然あたしが着いて来ているつもりで歩き出していて、ふと振り返り、あたしがまだタクシーに乗っているのを見て

「おい! 何やってんだよ!」

 とどなったけれど、その時、バタンと扉がしまった。

 心臓がドンドンドンと大太鼓を叩いていた。こんな時に、タクシー代払うなんてしゃくだったけど、さっきの合コンの費用は恭介が持ったんだから、ま、いいか。あたしは素早く計算した。

 車が走り出しても、あたしは後ろを振り返らなかった。

 別に付き合う相手なんかだれだっていい。ただ、恭介の感じがなんか危険に思えたのだ。

 

 あたしは一気に学校に行きたくなくなった。だって、恭介に会うのも、スガオに会うのも、あの女子三人に会うのも耐えられそうもなかった。だけど、お母さんががんばって働いてつぎ込んでくれたお金を無駄にはできない。

 それにあたしには、他にできることもときめくこともないし、地道に洋裁とかパタンナーの仕事を探すことが懸命に思えた。だって、器用なんだから。

 渋谷からアパートのある下北沢までは電車に乗った。吊革につかまりながら、あたしはああでもない、こうでもないと考え考え、頭の中がくるくるパーになった感じだった。

 でもまあ、幸い、金曜日だったから、とにかく休みの間になんとか、軌道を修正しようと思った。

 アパートに着いたらケイタイが震えた。

「北村」って文字が流れている。スガオだ。いやだな~と思いながら、ケイタイに出た。

「あ、相良さん,大丈夫ですか」

 とスガオが言った。

 あたしは、ちっとも大丈夫じゃなかったけれど

「はい」と答えた。

「あの、今、黒澤さんから電話あって、相良さんの携帯番号、教えろって言ってきてるんですけど、教えていいですか?」

 なんじゃ、そりゃ?

「だめです」

 と、答えた。

「そうですよね」

 と、少し間があって

「あの、明日どこかで会えませんか?」

 とスガオが言って来た。この間までため口だったのにな? なんだか言葉がていねいな気がした。

「だめです」

 と答えた。「あいつのこと振れよ」という言葉が呪文のように耳の中に残っていた。そんなヘンテコなやりとりに巻き込まれたくない。住所は教えてない。ここまでは誰も押しかけられないだろう。

 別に悪いことしたわけでもないし、まったく迷惑なやつらだと怒りもわいてきたけど、とにかくこの休日の間に、強く生まれ変わって、洋裁の鬼になるのだ! とあたしはあたしに言い聞かせた。

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