3.
ここの人はそんな奇をてらっていない、ごく普通のTシャツとかジーンズを自然に着ていて、あたしたちのグループは、いかにも「ファッションがんばってます」って感じでちょっと恥ずかしくなるほどだった。はっきり言って、あたしたちのグループはきたなかった。まだ、ダサイほうが、がんばっていない感じでいいような気がしてしまう感じだった。
だけど、まあ、恭介は違った。黒い革ジャンとか着てて、髪も肩まであって恰好をつけてるんだけど、恭介情報を先にインプットされていたせいだったのかもしれないけれど、がんばってないのに、がんばらないとサマにならないものをさらりと着ていた。
女子はもっとがんばりすぎていた。あたしの他に三人。男は二人だ。居心地悪そうだな…、と嫌な予感がして奥の端っこ座ったのだけど、菅生が隣に座ったので、なんかほっとした。
「ここ、けっこううまいんだ。黒澤さんが連れて来てくれるんだ」
と菅生は得意げに言った。
驚いたことに、それからずっと菅生はあたしにだけに話しかけた。この合コンを企画したのは菅生だ。ほかの女子に気があったわけではないのか? だって恭介を誘ったらけっこう女子は参加するだろう。それが狙いじゃないのか?
あたしは皆の真似をして、スパークリングのピンクのワインを頼んだ。お酒はわりと好きなのだ。ほろ酔いな感じになれるところが。
「これ、マテウスのロゼだね」
とか、菅生が言った。いろいろ、知っていることを何でも言ってくる。でもとにかくいろいろ取り分けてくれたり、取り皿が汚れてきたことも心配したりして、
「すみません、これ、新しいのくれますか」
とお店の人に言ってくれたり、他の人にも気を配れて、注文もまとめるし、マメで、嫌な感じはしなかった。
あたしたちの席はテーブルが三角形だった。椅子はちょっと高い丸い椅子で背もたれが無い。あたしと菅生二人が奥の壁に寄り掛かれる席で、あたしの右の角から女子二人、菅生の左の角から女子一人が座ってその向こうが恭介だった。
菅生と話ししようとすると、そっちに顔を向ける。あたしは菅生の顔を見ないで、なんとなくその先に目が泳ぐ。そこに恭介がいた。
恭介は、ときどきチラッとこちらを見て、シラけた顔をしていた。
ウェイトレスのきれいなボブの女性が忙しそうにいろいろ運んでくれた。すごくやわらかい少し赤みがかった茶色の髪をしている。忙しそうにしている時、髪が頬にかかるのがステキだった。もう一人後からやってきた、後ろに長い三つ編みしている女性もスタッフとして加わって、他の席もほぼ満員。ざわざわと賑わっていた。
ふと、見ると、恭介が、そのボブの女性が通るたびに、手とか軽くタッチする。そして、チラリとあたしの方を見る。
女子達は、たぶん恭介に話しかけられないのだ。だからきっと恭介が話を振ってくれるのを待っているんじゃないのかな。でも、恭介はまったくこのグループの一員じゃない、って感じで一人浮いていた。でも、浮いていても一向にかまいません、って感じだった。
あのきれいな人は、恭介の彼女なのかな、とぼんやり思った。なんとはなしに「親密」って感じがしていた。
女子は女子でちょっとあてが外れた感が漂っていた。思い切って少し恭介に話しかけても、恭介は話を続けようとしない。あたしはといえば、なんだか菅生が一生懸命に自分のファッション論みたいなことを熱く語り出したので、黙ってそれを聞いていた。
そうしたら恭介が急に、
「おい、スガオ、席変われよ」
と言って来た。
あたしは、びっくりして、まじまじと恭介を見た。恭介も挑むようにあたしの目を見ている。「え?」と言う感じだった。
「あ、黒澤さん、その席だめっすか?」
と菅生ががんばった。
「だめだよ。そこ壁あるだろ、そのコージーな席が落ち着きそうだな」
なんなんだ、この人は。あたしは、ドキドキしてきてしまって、「スガオ、がんばれ」と心の中で祈った。恭介はなんだって、あたしの隣に来ようとしているのか? 不明だった。
他の女子の目がいっせいにこっちを見た。だけど、じっとは見ない。なにげにチロチロみて、不快オーラが漂い出ている。菅生は責められているような感じになって、
「え~、皆、黒澤さんと飲みたいから来ているんですよ」
と椅子を抑えた。どきたくない、って意思表示みたいに見えた。
そんなことを言っている間に、もう恭介は菅生の方に歩いて来ていて
「おい、変われよ」
と強くではないけれど、でも菅生に拒否できないだろう強引さで、菅生をどかした。菅生はタジタジとなって、皆の「責めオーラ」に包まれながら、恭介が座っていた席に行って、
「あ、皆、大丈夫ですか? 食べ物、飲み物足りてますか?」
と愛想をふりまいた。
女子はどっとシラケている。
恭介があたしの隣に座った。気持ち、近めに。
「ひゃ~」とあたしは縮こまった。なんか、挑戦的ムードがはんぱない。
「ね、髪、もう少し軽めに切った方がいいんじゃない?」
と恭介が、あろうことか、あたしの髪を触った。あたしは、動けなかった。ほかの女子が固まっているのがわかった。




