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通い出した学校は、授業はまあまあ楽しかった。特にデザインした洋服の型紙を考えるのが好きだった。だから、パタンナーという仕事に憧れた。本当はデザイナーになりたかったのだけれど、ぼんくら・器用・ミーハー・かなり地味・ダサイあたしは、なんか自分が「デザイナーになる」って公言するのがすごく恥ずかしかった。
パタンナーならなんだか、少し地味な感じがして、自分に合っているような気がした。もちろん実際に裁縫するのも楽しかった。
各種学校に黒澤恭介という生徒がいた。格好良かった。だけどいかにもちゃらい。あたしは、特に興味がなかったのだけれど、同じクラスの女子の間ではけっこう人気だった。黒澤早苗という有名なデザイナーがいて、その息子だと言う噂だった。
「ね、いいよね。お母さんの店って、表参道よ。店が。あこがれるよね」
「やっぱり、東京で育ってお金持ってて、遊んでいるって感じよね。女性関係もいろいろ、ごちゃごちゃらしいよ」
「だけど、遊ばれるだけだったら、どお? いやでしょ?」
「一時ならいいんじゃない? 意外に誠実だったりして」
なんて、皆、勝手なことを言い合っていた。
北村菅生という生徒がいた。服飾関係とはおよそに合わないような、ダサダサなヤツだった。男子は女子に比べれば少ないけれど、皆、それなりにおしゃれだ。すべってる人もいるけれど、ファッションをやっているという自負があるのか、恥ずかしいような洋服も堂々と着ている。
あたしは、そういうのを見ること自体が恥ずかしかった。なんでかな? 男の子がおしゃれ、っていう感覚がわからなかった。
菅生は、だから、なんか安心できる感じだった。それに、いつも親切だった。学食で席を探しているような時、ぱっと見つけてくれて、「ここ空いてるよ」と言ってくれたり、自販機の前で小銭を探していると、「ぼく、持っているよ」と百円玉を差し出した。
「あ、いい。あるから」と言っても、「いいよ、使ってよ」と言う。
そして、ある日菅生が声をかけてきた。
「ね、今度、合コンやるんだけど、一緒に行かない? 黒澤さんも一緒に来るんだ」
それは、あの、人気の黒澤恭介のことらしかった。
「黒澤さんって、ぼくより五歳も年上なんだ。あ? 君も現役でしょ? だったら同じ、五歳年上だよね」
菅生は勝手に自分の情報を伝えてきた。
「ぼくの地元の先輩なの。黒澤さんは兄ちゃんの同級生なんだ」
「え? 東京じゃないの?」
「今は東京だよ。だけど、お母さんは成功して先に東京に出て来きてたけど、中学くらいまでは地元にいたんだよ。だけど東京に行っていることも多かったから、東京の店のこととか、いろいろよく知っている。兄ちゃんと黒澤さんはずっと仲が良かったから、ぼくもよく一緒に遊んだんだ。こっちに出て来るのにも黒澤さんがいてくれたから、かなり心強かった」
なんか恥じらいのような、うっとりするような感じで気持ち悪かったけど、合コンには行ってみてもいいかな、と思った。
あたしには学校で仲良くしている女子は一人もいなかった。ぼんくら・器用・ミーハー・かなり地味・ダサイあたしに興味持つような人はいなかったし、あたしが興味持つような人もいなかったし、話も合いそうもなかった。ぜんぜん友達に溶け込むつもりもなかった。遊び歩くつもりもなくて、ただ真面目に手に職をつけたいと思っていたのだ。でも一人でいるとときどき少し寂しく感じることもあった。実家にいた時はそんなことはなかったのに。
都会は賑やかすぎるから、アパートの自分の部屋の扉を閉めると、一瞬空虚になるのだ。だから、人が誘ってくれるなら、何かおもしろいかもと思って行くことにしたのだ。
合コンをやったのは、おしゃれなカフェだった。その一角には、今まで見たこともないような不思議な植物が集められていて、インドとかブラジルとかエジプトとか、それぞれの植物が元あった国の名前が書いてあった。
ハロウィンが近いからか、オレンジとか黄色を基調とした植物、フォックスフェイスとか大きいかぼちゃがアレンジしてある。その場所で働くことに誇りをもっているような、つんとした、きれいな人が、しゃきしゃきと動いていた。
カフェの仕切りは厚手のビニールで、ぼんやり中が見える。一見粗雑に見えるむき出しの柱に小さい電球がきらめいていて、かわいい。中に並べられている椅子はおそろいのものではなくて、たぶん、中古品。だけど、その新しくない感じがいい。奥はカウンターになっていて、髪の毛をびっちり固めてまとめて後ろでくくっている、ひげのちょっと太めの兄さんが一人でいろいろ作っているみたいで、ウェイトレスの女性がまたまた、モデルみたいにきれいな人だった。
東京に出て来ていつも思っていたんだけど、なんか、皆きれいにしているな、って。あたしはきれいな女性を見るのは好きなのだ。その人のファッションとかにも興味を持つ。




