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黄色いレインコート麗子  作者: ジュゲ
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第七話 変化

 あれから劇的な変化はない。

 ちょっとガッカリしたが考えてみるとその方が幸いかもしれない。

 いつだったか劇的な変化は後の崩壊の予兆であると先生は言っていた。


 ”普通であることの異常さを感じられて初めて真の変化に目が向く”

 

 印象に残った言葉を時々メモに書いている。

「印象に残った言葉をメモしているんだ。自分が一体何に触発されているか紐解ける。自分のことというのは実際のところわからないものだからね」

 そう聞いて真似をしだした。

 このメモを見て、ちょっと興奮しすぎた自分が馬鹿に思え急に冷静になって来たかもしれない。パニックになっていいことはないんだ。僕は3日ぐらい浮足立っていたかもしれない。


 彼女は挨拶してもスルー。

 こっちは心臓が爆発するかと思うほど緊張していたのに。

 驚くほど拍子抜けだった。

 気づかないのかと思ったが、恐らく気づいている。


「いつもごめんね」


 とは何だったんだろうか?

 何に対してだろう。

 僕はてっきり挨拶に応えなくてってことかと思ったのけど。

 単なる独り言?


 彼女は相変わらず長髪の黒髪はバサバサ。

 長く垂らし某ホラー映画の主人公みたい。

 俯きがちだけど目だけがランランとし前だけを向いている。

 制服はボロボロで薄ら汚れ、あの映画の彼女もビックリだろう。

 臭さこそないものの平常運転そのもの。

 ここまでパス出来るものなのだろうか。これが女性というものなのか。

 マキが慰めか

「これがシカコだよ」

 と、ドヤ顔で言いやがった。

 普段ならカチンと来たが、その時はむしろ救いに感じた。

 夏なのに驚くほど僕は寒かった。自分の身体の中だけ吹雪いているようで。

 夏休みも近いけど、このまま突入したら再び挨拶する気にはなれそうにないかもしれない。期末テストにも身が入らないでいる。

 なんだかとても情けないのは自覚するのだが、どうしようも出来ない。こんな気分にはなったことは無かった。えらく学校が遠い存在に感じられた。


「そうか。上がった分だけ下がったんだね」

 稽古でもないのに先生宅へ訪れ親にも言えないことを話ている。迷惑な話だと思いながら。でも話さずにはおられなかった。

「え?」

 僕の話に目を閉じ「うんうん」と頷いていた先生は突然そう言った。

「いやなに、話からだけしかわからないけど、僕からしたら彼女は随分変わったと思うよ」

「え?」

(僕は変わっていないって話をしたつもりなんですけど)

「これまでの話だと、彼女の顔すらまともには見えたことがなかったんだよね?でも今は顔は見えている」

「ん?それは今まで見えていたのに気づいてなかっただけかも」

「そうかな?君の目は確かだと思うんだけどね。それと君は”臭い”ってことをこれまで随分気にしているようだったけど、今日の話に匂いのことは出てこないね」

「そう・・・でしたっけ?」

「気のせいかな?」

「・・・」

 応えられなかった。

「いずれにせよ君は彼女にすっかり捕らわれているようだね」

 先生は満面の笑みで僕を正視した。

「え?!どういうことですか」

「結構なことだよ。君はある意味で大人過ぎると思っていたからね心配してたんだ。頭が良すぎるというか」

「いえいえ全然よくないです」

「彼女に思いっきり振り回された方がいいかもしれないね」

 悪ガキのような悪戯っぽい笑顔を見せた。

「せんせー人事だと思って」

 自然と笑みが漏れる。

「これから楽しみだよ。君の作品がどう変わるか・・もう見えているんだけどね」

「ええ?そうなんですか」

 この先生は本当に面白い。習字のことしか考えていない。徹底している。今の僕には何がそこまで面白いのか全くわからないけど、ただ先生の話はいつも楽しい。

(それにしても今日は「え」しか言ってないな俺・・情けない)

「畏まることはないよ。人は素直に生きれば本来が無様なもんだからね。だからそのナントカって彼女・・なんだっけ」

(うそ、こんだけ話たのにもう忘れている)

「えっと・・・麗子さんです」

 名前を言うだけなのに思わず照れくさい。

「ああ、そうだったね。レイコちゃんね。大した大物だよ」

 ひとしきり話なんだか心が軽くなった気がする。


 帰り道、今日の話で気になった言葉をメモし終わると、自然とあの日のことが思い出されてきた。ハッとする。

(そういえば・・・雨降ってないのに、この3日臭わないな)

 特に匂いに敏感な方じゃないと思う。でも彼女のはブルーシートの人とまではいかないけど似たものがあるから否が応でも気づく。まだアレでも良くなった方だ。そういえば4月にクラスから苦情が出たんだ。

「・・・あの日」

 思い出した。

 あの日の彼女はやっぱり臭っていた。でも翌日は気づかなかった。ひょっとしたら気のせいかもしれないけど。単に忘れているということもある。

(雨の日でもないのに・・・まさか、え、ええ?)


”一つの事象を受けてどう反応するかは人それぞれ”


 メモを思い出した。

(彼女が気にしていたのは体臭?・・・俺の為に?え?)

「いやいやいやいやいやいや、フラグフラグフラグ・・・」

 思わず声に出てしまう。

(ストーカーフラグだろソレ。気のせい!たまたまだよ)

 そう思いながら顔が赤くなっている自分がいた。

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