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黄色いレインコート麗子  作者: ジュゲ
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第七十一話 対決

 嘘みたいだ。

 レイさんは今まさに先生の隣にいる。

 制服には着替えていない。

 学校へ向かう道、僕らは三人で歩いている。

 予想とは違いレイさんは先生の求めに応じた。


(今でも信じられない)


 少し早めに先生の宅へ立ち寄り、そこからレイさんのアパートに行く。

 レイさんはいた。

 何事もないように。

「いや~レイちゃん久しぶりだね。ちょっと今から付き合ってくれないかな」

 先生が言った言葉はそれだけだ。

 僕は彼女に合わす顔がなかった。

 二人だけの秘密をペラペラと喋って軽薄な男に思えたからだ。

(応じてくれる筈がない)

 僕の思いに反し彼女は言った。

「わかりました」

 彼女が踵を返すと、

「そのままでいいから」

 先生が言う。

 たったこれだけ。

 なんで彼女は応じた?

 先生もどうしてそれしか言わない?

 どこへ行くとも、どうしてかも何も言わないで。

 レイさんもなんで尋ねないんだ。

 何をするかもわからないのに。

 僕なら絶対に応じない。

 理由もなく、何処へ行くかも問わないなんて。


(どうして?)


 道中、先生はまるで平然と彼女に話しかける。

 何事も無かったように、知らないように。

「しかっし君は美人だね。モデルって言うの?そういう人みたいだよ。しかもとびっきりのね。世界で通用するレベルだな~」

「ありがとうございます」

 歩きながら頭を下げる。

「僕が見てきた中でもトップクラスかな。誰かさんが夢中になるのもわかるよ」

 大笑い。

 そして僕をチラッと見る。

 僕は思わず俯いた。

 到底 笑う気にはなれない。

(人の気も知らないで・・・)

「僕があと二十年も若かったら黙っちゃいないね。今や親と子ほど歳が違うから黙っちゃうけど」

 また笑った。

 彼女も笑う。

 先生はことの深刻さがわかっているのか?

 昨日の僕の話を聞いていたのか?

 セクハラ問題で彼女が苦しんでいるかもしれないのに、なんでそんな無神経なことが言えるんだ。

 まさかここへ来て実はよくわかっていなかったとか。

 レイさんもどうして笑える。

 もう終わったと思ってる?

 君がこれから行く所は学校なんだよ?

 嫌なことを思い出さないといけないかもしれないんだよ?

(僕はひょっとして彼女に酷いことをしようとしているのか・・・)

「先生はとても素敵ですよ」

 レイさんは穏やかな表情で言った。

 どうして笑えるんだ。どうしてそんなに冷静なんだ。

 なんなんだこの二人は。

 僕だけが仲間はずれか。

 レイさんだって先生と会ったの一回だけでしょ?

 それとも僕が知らない間に会っていたのかな・・・。

「君みたいな子に言われたら僕も自信もっちゃうな~」

 お調子者かよ!

 先生は本題に一切触れない。

 レイさんも尋ねなかった。


 学校が見える。

 遂に僕は一言も喋れず。

 心臓はバクバク。

 二人が陽気な意味がわからない。

 彼女が気になって僕は見た。

 事情を察して彼女が恐れおののく気がしたんだ。

「レイちゃんさ、彼から聞いたよ」

 先生?

「はい」

「僕に任せてくれないかな」

 ここで言うの!

 しかも・・・それだけ!

 説明しないの?!

 レイさんは少しだけ黙っている。


「わかりました」


 嘘でしょ!

 レイさんどうして。

 どうして受けられる、何がわかったの?

「君なら解ってくれと思ったよ」

 先生・・・なんで説明しないんだ。

 彼女は僕の目線に気づいた。

 笑みを浮かべ頷く。

(どういう意味なんだ。大丈夫。そう言いたいのか)

 僕は申し訳無さで一杯だというのに。

 怖くて仕方がないというのに。


「あの・・・」


「そういえばさ」

 僕の言葉を明白に遮った。

 そして凄い形相で僕を睨む。

 形相といってもこれはなんだ?

 修学旅行で見たような気がする。

(・・・阿弥陀如来だ)

 穏やかなんだけど凄い迫力があった。

 僕の心の中に残っている。

 仁王像とは違う、静かな迫力。

 なんなんだ。

(何も言うなってことか)

 わかってるって。僕の仕事は彼女の所へ連れて行き、後は黙ることだって言いたいんでしょ。先生と違って僕は覚えているよ。


 校門が見える頃には多くの登校する生徒がいる。

 皆が不思議そうに僕らを見る。

(当たり前だ)

 作務衣を来た長身の大男、スラっとした美人のレイさん、そこに制服を着た僕がいる。なんというアンバランスさ。

 レイさんは寒いのに半袖のTシャツに敗れたジーンズ姿。それがえらく格好よく様になる。腰まで届きそうな黒髪の長髪。歩く度に左右に揺れている。

(なんだこれは?)

 思うのは当然だ。

(しまった・・・ノープランだ・・・)

 校門に近づくと守衛さんが露骨に目立つ僕らを見初め、立ちはだかる様子を伺えわせている。しかも、どちらかと言うと細かいことを言う方じゃないか。

(ついてない・・・)

 横目で先生を見るも、まるで気にしていない様子。

(何か策があるんだろうか?)

 心臓が強くうち戦闘に備える。


 案の定 呼び止められた。


「ちょっとよろしいですか」

 守衛さんの目線は先生に止まっている。

「はい」

 平然としている。

「ええと・・・保護者の方ですか?」

 先生を見て問う。

(そうか!保護者のふりをして通るということか)

「違いますよ」

(違うのか!)

 そうじゃないのか。

「ほら、言ってあげてよ」

 先生は僕を見て促す。

(ええええええええええ)

 ホラじゃねーだろ!

 守衛の目線は僕へ向けられる。

「どういうことなんだい?」と、言いたげに僕を見る。

(ノープランだって言ったろうが!言ってないけど!)

 


「あの・・・スズキ先生は今日おりますか?」



「スズキ先生・・・あ~先ほど登校されましたよ」

「有難うございます。昨日 伺ったら会えなかったものですから」

「そうですか」

 通ろうとする。

「あ、ちょっと待って」

(うわああああああ)

 咄嗟に思いついた”しらばっくれて通る”作戦は無理か。

「ええと、このお二人は?」

 怪訝そうに二人を見る。

 その間にも次々と生徒が守衛さんに頭を下げ、挨拶をしながら横を通っていく。

 全員の目が僕らに注がれていた。

「彼女はここの生徒です」

 レイさんが軽く会釈をする。

「そうですか、制服は?」

「今日は事情があって・・・」

 僕が代わりに言った。

「私服での登校は校則で原則禁止されていますよ」

「はい(そうだった・・・)、今日は特別なものですから」

「許可は受けていると?」

「ええ・・・」

(うわあああああ、口が滑ったあああああ)

「ええと・・・その許可はスズキ先生が?」

「えー・・・まぁ・・・」

(うわあああああああ!)


「少しお待ち下さい。確認をとりますから」


 守衛さんが仕事してる!

 よりにもよってこの一番大事な日に!

 いつものお年寄りの呆けた守衛さんなら余裕でスルーなはずなのに。


(終わったああああああ)


 内心の僕は大パニックだったが表情は変わらなかった。

 ある意味では僕の特技なのかもしれない。

 顔色を隠すつもりはないけど、昔から結果的に顔には出ないようだ。

 それを指摘したのも先生が唯一だった。

 

「はい、はい。・・・許可はしていないと」


 守衛は僕を睨む。

(終わった・・・)

 もうこなったらアニメみたいに強行突破するしかない。

 万策尽きた。


「麗子です。そう伝えて下さい」


 レイさんが口を開く。

 どういうつもりだ?

 守衛は何故か一瞬、彼女の上から下まで一瞥する。

 そして彼女に笑顔を送ると頷いた。


「私服の女子生徒が”麗子”と言って欲しいと・・・。ええ、ええ」


 心臓が口から飛び出しそうだ。

 目の端に先生の顔が見える。

 先生は僕を見て笑みを浮かべている。

(笑っとる場合かあああああっ!)


「わかりました」


 守衛が受話器を置いた。


「どうそお通り下さい。職員室にいるそうです」

 

(うわあああああああああ、なんでだああああああ!)

 どういう理由で「お通り下さい」になるんだ。

 意味がわからない。

「お手数おかけします」

 僕は頭を下げる。

 内心とは裏腹に僕は冷静に言っていた。

「いいの?」

 先生が言う。

(先生は黙ってて。せっかくスルーされているんだから。存在感をアピールしないで。ただでさえ目立つんだから)

「はい」

 歩き出す。

「なんだい今の学校は面倒くさいね~。これじゃ気軽に恩師の顔を見にも来れないじゃないか、ね~」

(だから存在感をアピールするな!守衛に嫌味を言うな!何が「ね~」だ!)

 言われたレイさんは笑みで答えた。


 それでもまさかの校内潜入成功。


 僕の目線に気づき彼女はコソッと言った。

「マーちゃんでも嘘をつくことあるんだね」

 頬が赤い。

 寒いんだろうか。

(そーだよ!なんで気づかなかった)

 上着を貸してあげたいけど・・・ここではまずいな。

 それともやっぱり怖いんだろうか?

 もしくは緊張しているんとか。

 でも・・・どこか彼女は楽しそうにも見える。

「必要があればつくよ・・・それより寒くない?」

「大丈夫、ありがとう」

 笑顔で応える。

「お~お~格好つけちゃって~」

(先生・・・この野郎・・・ムカついてきた)

 味方なのか敵なのかハッキリしろ!

 でもお陰でスズキがいるということはわかった。

 そして職員室で待っている。

 越えられないと思っていたハードルを一つ一つ飛び越えている。

 何にしても結果論!

(完全に運任せ・・・)

 校内に入ると一層僕ら三人の存在は目立つ。

 何人かクラスメイトともすれ違った気がするけど、こっちはそれどころじゃない。前だけを見て歩いた。

 緊張のまま職員室の前へ。

 僕の心臓はヘビメタを演奏している。

 ライブは最高潮の盛り上がり。

 戸を叩く。


「失礼します」


 開けた。

 職員室を見渡すと、全員がこっちを見る。


(いた・・・・スズキ・・・)

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