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黄色いレインコート麗子  作者: ジュゲ
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第三話 雨

「雨・・・」

 朝、夢うつつ。現実と脳が見せた虚像が入りじまる中、黄色いレインコートを羽織った彼女がゆらゆらと揺れている。雨脚は強くなるが僕は全く動じていない。釘付けだから。この激しい雨音すらも遠い彼方。意識下に微かに聞こえる程度。穴が空くほど見つめている。彼女は何かを察したのか辺りを見渡し出した。

(待ち人が来たのか?!)

 誰もいない。

 更に強くなる雨脚。

 次第に彼女の姿が霞んでくる。

「見えない」

 見えるのは黄色いレインコートの残像。

 遠くに聞こえていた雨音が次第に鮮明に。


「雨・・・雨だ!!」


 朝6時半。

 飛び起きて学校へ向かう。

 当番が驚いていたが、「寝苦しくてさぁ」と、きもそぞろに会話をし定位置の窓際へ。読む気もないのに単行本越しに校門を見る。暫くすると彼女が登校してきた。

(皆が驚いてる)

 全身黄色づくめの彼女を全員が凝視している。今まで気にしたこともなかった彼女を見る周囲の目線がすごい。ものともせず彼女は入っていった。何故かちょっと浮かれている自分がいる。手に持った小説は1pも進んでいない。

「おう。なんだ、はえーな」

 マキだ。まずいな。普段鈍感な癖にこういうところは変に勘がいい。

「寝苦しくてさ」

「だな。蒸すよ」

 マキとの会話も半ば上の空。

 そして来た。

 ポリエチレンの買い物袋にレインコートを無造作に丸めて突っんでいる。クラスではいつもの格好。

(目が・・・合わない)

 今日は挨拶出来ないな。

(あれ?)

 何時もバサバサかゴワゴワの髪なのにサラサラ。洗髪したのか?雨の日に。黒く艶のある長い髪。枝毛は多そうだが綺麗だ。そのうち腰に届くんじゃなかろうか。制服も心なしかアイロンでもかけているように見えた。

「おっ、麗しの女神の登場か」

(しまった・・。マキ、頼むからそっとしておいてくれ)

「ん?」

 とぼけきれていない自分が恥ずかしい。

 その時、彼女が僕を見た。

「あ、おはよ」

 会心の挨拶。

(やった!完璧な挨拶だったろう。くっそ!マキくっそ。ナイス!)

 僕は内心小躍りしそうな自分を抑えるのがやっとだった。

 相変わらず反応はない。

 でも、目があったというのは自分的に快挙。

「ようシカコ。・・・って無視かよ」

「マキ、シカコはないんじゃいの。彼女にも名前はあるんだ」

(マキ!ふざけんな黙ってろ)


 放課後がまちどうしくて今日何があったか覚えていない。


 彼女は何時ものように脱兎のごとく教室を出ていった。クラスの誰も気にする人はいなくなった。でも僕だけは違う。慌てておいかけるような真似はしない。何故か不思議なほど落ち着いていた。

(彼女はあそこにいるに違いない)

 廃園した幼稚園の門前。

 普段はあそこは通らないけど。

 この前は母さんに買い物を頼まれていたから途中で帰ってしまった。今日は最後まで見届けるつもり。自分が聞くところのストーカーみたいなことをしかかっているということはわかる。でも抑えられない。

(ストーカーっていわれる人もこういう感じなのかな・・でも僕は違う。と、ストーカーも思うのかな。でもお願い。今日だけは見させて下さい。納得いったらもうしませんから。お願いします)

 何ものとも思えない存在に懇願する自分がいる。


「いた」


 僕の胸は既に高鳴って張り裂けそうだった。

(やっぱりいた)

 デジャブってヤツみたいだ。でも間違いない。彼女だ。

 身体を揺すっている。

 あの後、下準備をして門前を見るのに最も見やすい場所を探していた。

 前回より近く、でも向こうからは見えない。

 でもバレやしないか内心は気が気じゃなかった。万が一バレたらバレたで声をかけよう。そしてもう二度と追うまいと決めていた。

 揺れている。そして聞こえる鼻歌が微かに。やっぱり何か謳っているみたいだ。傘の角度が悪くてよく顔が見えない。でも彼女の正面側に行ったらバレバレだ。

 雨が降っている。

 今日も土砂降りだ。

 蒸し暑くなってきた。

 なのにどうして彼女はあんなに楽しそうなんだ?

 学校とはまるで別人。

 

 1時間待った。


 誰も来ない。

(時間にルーズなヤツなのかな?)

 にもかかかわらず彼女はまるで来た時と変わらず楽しそうに揺れている。何かを思い出したのかクスリと笑う声も聞こえてきた。

(男か・・・男だろうな。やっぱり。でもどんな男なんだ。彼女をこんなにも胸おどらせる男なんて)

 

 約2時間。


 彼女は帰った。

(え?)

 どういうことだ。誰も来なかった。誰も来ないのに2時間何を待っていたんだ彼女は?だったらどうして彼女はあんなに楽しそうなんだ。彼女は不意に園内の時計を見上げると当然のように帰っていった。歩き出しにステップを踏むのが見える。

(すっぽかされた?)

 じゃあなんであんなに嬉しそうなんだ。

 僕は些か混乱した。彼女の後ろ姿を見送った後もしばらく周辺に何か無いか調べてみたけど何もないとしか思えない。

(どういうことだ?)

 確かに言えることは、次の雨が待ち遠しくなったこと。


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