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黄色いレインコート麗子  作者: ジュゲ
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第三十二話 台風 直撃

 自分で言うのもおかしいけど客観的に見て僕は取り柄がない。

 これといって優れた才能があるわけじゃない。

 頭がいいわけではないから勉強がこれとってい出来るわけでもない。

 だから意識して勉強する。出来ないことがわかっているから。

 運動能力に優れいているわけでもないし、かといって駄目というほどでもない。やればやったなりの結果は出る。でも、その程度だ。

 先生は褒めてくれるけど芸術的才能があるとは思えない。

 顔面偏差値も高い方ではないことはわかっているけど、不細工と断じるほど崩れてもいない。

 スタイルがいいわけでもない。

 普通なんて無いのはわかるけど、

 僕は平凡な人間だ。

 平凡に生まれ、

 平凡に生き、

 平凡に死んでいく。

 子供の頃からそう思っていた。

 嵐は無く、

 波もそこそこで。

 そこそこの一生。


「どういうこと?」


 朝から僕はマイコちゃんに呼び出されていた。

 昨日、一昨日とミズキちゃんにチャットし忘れていた件だ。

 言われるまで忘れていたことにも気づかなかった。

 あまりにも色々なことがおきている。

「ミズキが嫌われちゃったかなって心配してたんだよ」

「ごめん、ちょっと色々あって」

 たった二日連絡がない程度で何を言っているんだ。

 女性ってのはそういう生き物なのか?

 イライラが募っている。

「色々って何?」

「それはちょっと言えない」

「女絡みじゃないでしょうね」

「・・・」

 答えられなかった。

 思えば即答すべきだったんだ。

 なんで躊躇したんだろう。

 スズノのことは身内の恥を晒すように思えたし、レイさんのことは秘密にしておきたい。そんなことからかもしれない。とにかく僕は頭が回っていなかった。

「どういうこと?」

「ごめん。今は言えないんだ」

「今言ってよ!」

 驚いた。

 マイコちゃんもスズノと大差ないじゃないか。

 女って全部こうなのか?

 場をわきまえてくれ。

(ここは学校なんだ!教室なんだぞ!)

「マイコちゃん・・・抑えて」

「貴方が悪いんでしょ」

(マーちゃんから貴方に変わった)

 彼女に対して、初めて面倒くさいと思ってしまう。

「ちょっとどうしたの?」

 助かった・・・大天使ナメカワ降臨。

 どうしてこうも彼女はタイミングがいいのか。

 天使過ぎる。

 それに対してマキのタイミングの悪いこと。

 こういう時に限っていない。

「なんでもないの」

(怖い)

 まるでジキルとハイド。

 僕をキツく睨んだ顔が一瞬で破顔する。

「ナメカワさん、おはよう」

 僕がそう言うと、マイコちゃんは僕を睨んだ。

「おはよ~」

 大天使の笑顔。

 癒やし。

 一服の清涼剤。

 水面から顔を出したような安堵感。

 そして相変わらず可愛い。

「じゃー・・・また後でね」

 ウハッ、マイコちゃんの言い方が怖い。

 マキが時々言う彼女のことが初めて理解出来た気がする。

「そんな簡単じゃねーんだよ」

 そう言っていた。

 なるほど。

「隅に置けないわね」

 何やら意味ありげな大天使の言い方。

「ここは隅だけどね」

 席に戻ろうとした僕の後ろから彼女はこう声をかけた。


「昨日、モンバーにいたでしょ」


 心臓がドキッとする。

 完全な不意打ち。

 身体が固まった。

 僕は踵を返し、教室の隅、窓際に身を寄せる。

「元カノとより戻したの?」

 どうしてこうも彼女には目撃されるんだ。

 というか、うちらの間ではまず何かっていうとモンバーだから遭遇率は低くはないか。今度は場所を考えないと・・・。でもファミレスのバーニーズなんて完全にウチラの生徒の庭みたいだからなぁ。

「え、いたんだ?・・・そうじゃないんだけど」

 珍しく僕は言葉少なげだった。

「ふ~ん、そっか。じゃーまだフリーなの?」

 彼女は耳を澄まさないと聞こえないほど小さな声だった。

「フリーって?」

 そのほうが助かる。

「彼女いないの?」

「うーん、そー・・・かな?」

「なにぃ~その含みある言い方、気になるなぁ」

 珍しく絡んでくる。

 普段なら大好物だけど今は勘弁して欲しい。

 とくにこの話題は広げたくない。

 言うべきか・・・言わざるべきか。

 ミズキちゃんは彼女という次元ではない。

 でも彼女候補であることは間違いない。

 かといってそれを第三者である大天使に言っていいものだろうか?

 個人的にはナメカワさんは信頼出来ると思う。

 でも、まずは筋からいってマイコちゃんに許可とっておかないといかんだろ。

(あー煩わしい・・・あー面倒くさい。何もかもが)

「私には言えない・・・か」

 あっはー・・・近い!彼女の熱が感じるほど近い。

 ドキドキしてきた。

 触れそうで触れない、触れそうで・・・

(たまらん!)

 お互い明後日の方を向きながらも熱量だけは感じる。

「んー・・・・御免ね。色々複雑で」

 誘惑に負けて危うく言いそうになった。

 ダメだ。

 筋は通さないと。

 彼女の返事を待たず席に戻ろうとする。

「あ、おはよ」

 レイさんが出てきた。

(よかった登校してきた・・・)

 いつもの出で立ち。

 いつもの様子。

 いつものスルー。

 ふと、彼女が忍者に思え、不意におかしくなった。

「そっか・・・ま、いいわ」

 振り返り一瞬、彼女の表情を見た時、妙な違和感をえる。

 でも、それは直ぐに打ち消された。

「じゃね」

「いつもありがとう」

 僕がそう声をかけると大天使は笑って手を振った。

(あーナメカワさんマジ大天使。癒される)

 目線の先にはマイコちゃん。

 睨んでいる。

(怖い・・・マキ、悪かった・・・お前の気持ちが今ようやくわかった)

 外野のうちはわからないもんだ。

 マイコちゃんがこんなに怖い面があったなんて。

 いい子なんだけどな~。

 僕はマイコちゃんに意識が奪われ、その時の彼女たちの表情に気付かなかった。ナメカワさん、そしてレイさんの。


 放課後。

 マイサンズでモンバーにいた。

(結局はモンバーかよ。良い位置にありすぎるんだ)

 他の候補は遠い等の理由から皆から却下され、自分もそれに従った。

 でも、直ぐに対処しなければいけない問題というのがあると痛感させられることになる。思えばヤスやミツの家でも良かったんだ。

「モテ期ですな」

「僕らには永遠にこないもの、それがモテ期」

 また僕の話題である。

 頼む、他の話をしよう。

 もうその話はしたくない。

「もててないでしょ・・・」

 何もしていないのに僕はくたくただった。

「何言ってんだよ、モテモテだろ」

 マイサンズのメンバーにはミズキさんのことは言っている。

「最近さ、ナメカワお前に対してエロくない?」

 マキが突っかかる。

「普通でしょ」

「でも、お前ばっかり相手にしてるじゃん」

 そうだっけ?

「そんなことないでしょ。今日だってサイトウやスズキとだって話してたじゃん」

「なんかニュアンスが違うんだよ」

「かわらないでしょ」

「僕は話しかけらたことすらない」

 ミツ。そりゃ~な・・無理もない。

「うちらには見えない結界があるようです」

 ヤス。うまいこと言う。

「ドウテイという性なるバリアーが彼女を退けているのです」

 両手を広げ目を閉じている。

 全く笑う。

 ありがとう。

 今はこの感じは癒やしだ。

「そのバリアーいらないでしょ」

「うん、いらない・・・シクシク」

 この二人は時々癒やしになるとわかった。

 だから一緒にいるのか。

「好きな人に振られて、元カノにストーキングされている人間のどこがモテ期なんですかと聞きたい」

 我ながら余計なことを言ったと思う。

 つい口が緩んだ。


「ところでさ、お前の好きなヤツって結局誰だよ」


 バリアーには効果期限があったのを忘れていた。

 あれから一ヶ月は過ぎた。

「・・・」

「あ、お前・・言わねーき?」

「すまん!・・・それだけは勘弁してくれ」

 レイさんのことは口が裂けても言えない。

(なんで言えないんだ)

 そうだ、彼女がそう望んだ。

「まーいいけど、彼女とはどうなってるの?」

「あ、しまった・・・今日はチャットしないと、マイコちゃんに怒られる」

「あはははは、アイツの怖さ少しはわかったろ」

「わかったわかった、もうビックリするぐらい!」

 意気揚々といった僕を見てマキの顔が少し曇る。

「何その言い草」

 軽い気持ちでいったのだがマキは少し不機嫌になったかもしれない。

 自分で振っといてそれはないだろ。


「あー、いた!もーマーちゃん逃げるな」

「マイコちゃん?っと、どうも・・・」

 彼女だ。

「ミズキさん、どうしたの?この雨の中」

 こんなのモテテいるって言えるのか?

 あー胃が痛くなってきた。

「どうしたのじゃないでしょ。チャットは嫌いだからとか言うから連れてきたのよ」

 うはー、マイコちゃんの行動力半端ない。

「あー・・・そっか御免ね。何から何までお世話になって」

「ほんと世話のかかかる。ほら、あんたらはコッチ」

 彼女が手招きをするがヤスとミツは両手を広げれいのポーズをとる。

 あれがアルカポネのマネをしている芸人の真似だと先日わかった。

 僕らの前ならともかく、人前でこれが出来る神経は凄い。

「僕達の聖なる結界は何人たりとも・・・あっ」

 ヤスがマイコちゃんに手を捕まれ引っ張られる。

「はっはっは、ヤス君、君の結界はその程度の・・はぁん」

 変な声を出すな。

 ミツも引っ張られた。

「ごゆっくり」

 マキが刺のある言い方で席を立つ。

 なんなんだ?どうしたアイツ。何が気に入らない?

「御免なさい突然お邪魔して」

 それよりミズキさんだ。

「こっちこそ御免ね~ここんところバタバタして・・・」

「疲れているみたいですね」

「ちょっとね色々あって、気持ちの整理がつかなくて」

 ”気持ちの整理”と言った途端、彼女が身を硬くするのが感じられた。

「そうですか」

 まずったか。

「せっかくだから今週末の打ち合わせしようか」

「いいですね」

 にしても他校生の制服ってだけで上がるなー。

 なんかモテている気がしてきた。

(とんだお調子者だな僕も・・・)

「その制服可愛いね。前も言ったっけ?」

 顔が赤くなった。

「いえ、初めてです」

(かーこの反応たまらん)

 軽率。

 軽薄。

 そんな言葉が脳裏を過る。


「ここにいたんだ」


 心臓が跳ね上がる。

 この声は・・・言わずと知れた。

「スズノ・・・」

 場が凍りつくとは聞いたことがある。

 まさか本当に凍りつくとは思いもよらなかった。

 周囲の気温が二、三度下がったかのよう。

 時間が一瞬止まったかのように、この場にいた全員が注視した。

 そんな中で当然のようにスズノ僕の隣に座る。

「あの・・・」

 ミズキさんが動揺して僕の顔とスズノの顔を行き来する。

「えっとね、彼女は元・・」

「彼女です」

 遮るようにスズノが言う。

 全身が脱力するのが感じられる。

「元!彼女のスズノさんでーす」

 冗談っぽく強めに言う。

(あー何を言っているんだ僕は)

 これじゃ駄目だ。

 滅茶苦茶にされる。

「ミズキ・・・です」

 完全に氣圧されている。

 当然だ。

 何が何やらといった心境だろう。


「二人は付き合っているんですか?」


 情け容赦ないスズノの一撃。

「スズノさん、やめようか」

「あの・・・」

「まだなんですよね」

「お友達・・・です」

「ほら!」

(何がホラだ!)

「あのねスズノさん・・・」

 憤りで震える身を抑えかろうじて言葉を発する。

 出来るだけ穏やかにそう思うけど、それが穏やかとは凡そ遠いとは気づかない。場を凍らせないように明るく振る舞ったのが逆に空気を悪くしていた。笑みをたたえようとする口角は固まっていた。

「付き合ってないって言ってるじゃない嘘つき」

「嘘は言ってないでしょ」

 あーダメだ彼女のペースだ。

 ミズキさんはわざわざ出てきてくれたんだ。

 マイコちゃんにも悪い。

 これも修羅場って言うのか?

 これでモテテルって言えるのか?

 違うだろ。

 だって取り合っているわけじゃない。

 あー胃が痛くなってきた。

 ガチだ。

 これはガチで胃が痛い。

 僕がいったい何をした。

 僕に幸せになる権利はないのか。

 スズノ、振ったのはお前だろ?

 お前に僕の幸せを壊す権利が何処にある?

「あなただってまだ彼のこと好きってわけじゃないんでしょ?」

 彼女を懐柔し易いと踏んだのか、俄然 攻めに回ったのが感じられる。

(お前ねー・・・ほんといい加減にしてくれ)

 僕にも我慢の限界はある。

「私は・・・」

「ほら即答出来ない。私は彼のことが好きです」

 ホラ!じゃねーだろ。

 この腐れ女が。

 胃が痛い。

 胃が。

「私も好きです」

 ミズキさん!

「便乗しただけでしょ」

 あー駄目だ・・・限界だ。

(スズノ・・・てめぇ許せねぇ)


「盛り上がってるわね」


 驚いた。

 大天使の降臨。

 助かった・・・?

 ほとんど反射的にそう思ってしまう。

「なになにどうしたの友達?」

 今日は友達づれか。

 三人、四人、もっと?

 しかも学外?あれは私学っぽいな。

 どこかで見たことがあるけど、複数の制服。

 途端、スズノが萎縮するのを感じる。

 身を小さくし黙りこむと、

「また後で」

 そう言って僕の手を握ると俯いたまま小走りに出て行った。


(助かった・・・・たすか・・・った)


 全身の気が抜ける。

 大天使に今日は二度も助けられたことになる。


 この後のことはよく覚えていない。

 ナメカワさんが全部もっていったような気がする。

 全てを丸く収めた。

 なんという人間力とでも言えばいいか。

 神様、仏様、ナメカワ様。

 帰り際、彼女の目線に気づき片手で拝むと、何やら声に出さず口を動かしていた。僕には何て言っているのかわからなかったが、彼女は辺りを見回すと笑顔で小さく手を振る。

 土砂降りの中、皆は三々五々に家路につく。


 その口は ”今日のは貸しね” と言っていたが僕に伝わらなかった。

 ましてや伝わらないことを知ってて言っているなんて思いもよらない。

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