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黄色いレインコート麗子  作者: ジュゲ
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第二話 うるわしのキミ

(そうだ麗子だ)

 名前負けという言葉を聞いたことがあるけど、その時に「ああいう人を言うのか」と真っ先に彼女のことが思い浮かんだ。

(とんだ間違いだった)

 麗子、うるわしい子、麗しき君、本当に麗しい。完全に一致。彼女以外に麗しいという言葉がピッタリくる人を思いつかない。

(うるわしい・・いい響き。麗しい。今の彼女は本当に麗しい)

 

 だが、教室で見る彼女はまるで別人だった。

(あれは彼女だったんだよな?)

 学校での彼女はおおよそ麗しいとはほど遠い雰囲気を纏っている。

 能面のような表情。

 感情をどこかへ置いていったような冷たい顔。

 肌の白さがより一層それを強調させた。

 匂い立つ体臭。

 明らかに汚れた制服。

 ゴワついた長い髪。

 雪の女王のような冷たい瞳。

 周囲を拒絶する雰囲気。

(でも間違いない彼女だ)

 そう確信する。

(うるわしのキミ、あの笑顔をもう一度みたい)

「シカコかどうかしたか?」

 不意に現実に引き戻された。

 真木だ。

「うわ!?なんだよ」

「なんだよじゃねーよ。ポーッとしてっから。シカコとなんかあったのか?」

「いや、なんもないよ」

「じゃーなんで見てんの」

「見てないから」

「嘘言うなよ、見てたろ」

「いやいや見てないから」

「お前な、つまんねー嘘言うなよ」

「ボーっとしてただけだよ、ネミーなって、最近寝不足なんだ」

 それは本当だった。

「彼女がどうかしたの?」

「どうかしたかじゃねーよ、ま、いいけど」

 こうした会話がなされていても彼女は一切興味がないようだった。まるで自分一人だけが違う世界にいるかのような佇まい。

 何を考えているんだろう。

 どうしてそうなんだろう。

 どうして皆を無視するんだろう。

 どうしてそんな身なりなんだろう。

 どうして拒絶するんだろう。

 どうして、笑わないんだろう。


(あんなに麗しいのに・・・)


 僕は彼女のことがあの雨の日あの瞬間から頭より離れなくなっていた。授業にも身が入らない。彼女が側にいるだけで緊張してしまう。何時も目で追うようになっているのに気付かなかった。真木の話だと、ここ数日の僕はずっと彼女を見ていたらしい。自覚が全くなかった。少しは見ていたと思うけど、ずっとは大袈裟だと思った。でもどうやらそうらしい。気をつけないと。

 でも思い出してみると、家に帰ると集合写真に写された小さな彼女を見ている自分がいる。唯一正視できる時。寝る前、寝ている間も彼女のことが頭から離れないのは事実だ。

(好きなのか?いや、違う。好奇心だ)

 あれほど魅力的なのに、どうしてそれを押し殺すような生き方をしているのかが不思議でならないんだ。彼女のことを知りたい。声を聞きたい。言葉を交わしたい。どうして、そうなのか知りたい。

(そうだ。挨拶ぐらいなら自然だろう)

 クラスメイトだ。ごく当たり前の当然の行為。何も疑われるいわれはない。

(ないか?今まで声をかけたことがないのに)

 僕はハッとした。

 そうだ、これまで彼女に声をかけたことがなかった。挨拶を交わしことがなかった。

(どうして?)

 いや当然だろう。そうなる。そうなるよ。だったらいきなり挨拶をしだしたら不自然だ。

(あーでも声をかけたい。彼女の声を聞きたい)

 数日そんな悶々とした日々を過ごしたが、僕は決意する。

 挨拶をすると。

 何時にもまして眠れなかった。

 朝から胸が高鳴る。

(挨拶だ。挨拶するだけだ。落ち着け)

 「おはよう」って言うだけなんだ。何を緊張しているんだ僕は。どうかしている。考えるな。考えるから駄目なんだ。「おはよう」だ。まてよ「よお」の方がいいか?むしろ不自然か。いや、馴れ馴れしい。第一「よお」なんて言ったことあったか?そうだ、無い。

(彼女だ)

 僕は息が止まった。

「よ、よほぉ、おはよう」

(うわああああああ、終わった、俺は今人生が終わった、全てが台無しだ)

 だからなんで「よお」なんだよ。声が少し裏返った。恥ずかしい。洒落にならん。

 彼女は素通りした。

(良かった。気付かなかったか。危ない。最悪の出会いになるところだった)


 それから更に数日。

 僕の挨拶は次第にこなれ3日目には自然に出来るようになったが彼女は一瞥すら返してこなかった。

 そうだ。

 はじめから彼女に声は届いているのだ。

 彼女は僕を無視している。

 ただそれだけ。

 なのに、

 僕は彼女に声が届いていると思っただけで酷く幸せだった。


 そしてまた雨の日が来る。

 彼女はまた何時もの黄色い出で立ちで学校に現れた。

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