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シグレノクニと翔真の後悔

流留華のせいで負った火傷の痛みも外傷も今では綺麗さっぱり治まった。

火傷と言えば水だろうと近くで水辺が有名なシグレノクニへ向かう最中だったのだが、その必要はなかった。

まあ、着いてしまっては、ただの文句か。


シグレノクニは暖かいというか、暑い。そして湿気が多い。

夕方頃に突然の豪雨が起きやすい事が名前の由来。水辺が多いのもそれが原因だろう。

そうだな、水辺とバカでかい森が有名だ。


こんな泥の上で巨大に育った植物というのは奇妙だった。そして、水が豊富な割に枯れ草が目立つ。

しかし、こう湿度が高いと汗ばんで非常に不快だ。

「きゃあ」

背後で滑り落ちる音がして、振り返ると泥に伏すような流留華の姿。

可哀想にな。そのお嬢様風ロングスカートじゃ歩きにくかろう。それでも、文句言わないんだな。小説なんだからビジュアル重視しなくてもいいんだよ。着替えてくればいいのに。

むしろ全裸でも何の問題もないと思……やめよう、余計なことは止めよう。

手を貸して引き起こすと、恥ずかしがりながら礼を言った。

足手まといになりそうなジジイは腰に堪えるって言って、早々に翔真の背中にいる。暑そうだな。見苦しい。あ、これこそ描写する必要なかった。


「あ、あうう」

なにやら弱々しい気配を感じる。

人間の言葉にも聞こえるし、でも、弱ってる獣には近づきたくないな。

「誰か、そこにいるのか」

おそるおそる、声をかけてみる。

「あ、あ。肩をかしてくれませんか」

酷く憔悴しきった、少女の声だ。

こちらに気づいた声の主は、物陰から日に焼けた顔を出した。滝のように汗が噴き出ている。いくら暑いからといってあの汗は尋常じゃない。冷や汗のたぐい、だろう。

「今行く」

そばに駆け寄る。

四肢を力なく投げ出している彼女の足に、小さな赤い点が二つ。そこから血が伝い出ている。

「毒持ちの虫に噛まれました。家に血清が……」

痛みに顔をしかめながら、体を起こそうとする。

しかし、上手く力が入っていない。これは急がなければまずそうだ。

「背中に捕まれ」

少女の手が弱々しく肩に引っかかる。背中に重みを感じながら薄い意識から紡がれる道順を必死に聞き取った。


「サニィ!」

少女の意識が途切れる直前、女性に出会った。驚いた顔で近寄ってくる。

「毒虫に噛まれた。手当はどこでできる?」

「サニィの家ならできるわ。こっちよ」

慌てた様子で、案内をされる。風通しの良さそうな、草で編んだ家だ。

「おじさん、大変。サニィが毒持ちの虫に」

奥から壮年の男が跳んできた。

「見つけてくれたのか、ありがとう」

背中から娘を半ばひったくるようにして取り上げると、足音を立てて奥へ消える。

「あ、あの子は大丈夫そう?」

「血清を打てば死にはしないわ。でも、毒が入ってからかなり時間が経っているみたい、もしかしたら見た目にも変化が現れるかもしれないし」

時間をおいて様子を見るわなどと言う辺り、シグレノクニではよくあることなのか。

毒持ちの虫とやらに襲われたらサニィの家だな。よし、憶えた。

「あなた達も気をつけなさい。この前変な男が現れてから森がおかしいのよ」

女性の言葉に求めている単語があった。

「なあ、その変な男のこと詳しく聞かせてくれ」

女は鼻息荒げに話し出す。誰かに話したくて話したくてしょうがなかった様子。

灰色の肌はともかく、痩けた頬と紫の唇、陰気で虚ろな目などと言われても。こっちは顔のパーツまでは記憶にない。ないんだが、女の語るそのあまりに異様なひょろりと伸びたまがまがしい存在感は間違いなくムライムキのものだろう。

そいつが最近夕方になるとシグレノクニに現れるが、奴が来るとスコールが起きないらしい。その影響か森の虫が騒いでいる。サニィと呼ばれた先ほどの娘だって、いつものように虫除けをして、もし虫に出会ったとしても、逃げ切るための対処法は心得ているはずだった。それなのに彼女は今日、瀕死で倒れていた。

「そうね、森に行くなら虫除けだけでなく、薬も常に持ちなさい」

そこまで言って、女性は急に顔をしかめる。

「あなた、あの森の泥で泥パックをするのはおすすめしないわ」

泥で足を取られて、すっころんだ流留華のことを指しているのか。

あの娘のことばかり気になって見えていなかったんだな。

「そうだ、サニィを助けてくれた恩人だし、いいところ教えてあげる」


粗末な小屋の向こうからあふれ出る湯気。

周囲には水音が満ち、側にもかすかに湯気の出る川が流れる。

温泉……なのか?

「家族のお古だけど、どうぞ」

はい、はいと一人ずつさらさらした布の服を渡された。これは、もしかして。水着着用温泉プール。


アニメでもないのに水着回とはそんなサービスいらないだろうよ。

作者は適材適所を理解していない。そうに決まっている。

ま、別にいいか。

「泥落としたいだろ?流留華から行けよ」

小屋の中で着替えて、向こう側に温泉がある。そんな仕組み。

男共の方が着替え早そうだし、こう、満を期して登場な感じがあるので本当は流留華を一番後にすべきなんだろうが、今の状況では言えない。

「ありがとう。では、お言葉に甘えて」

泥だらけでもお嬢様は優雅にぼろ小屋へ入っていった。

「あの、森の泥を肌につけるのはよくないのでしょうか」

近くを流れる川で足だけ洗っていた翔真が女性に声をかける。

「泥にすむ虫でやっかいなやつがいてね。基本的にあの森で素肌をさらすのはやめておいた方がいいよ」

流留華、綺麗に顔を洗ってくれ、今すぐだ。

こんこんと内側からノックが聞こえた。

「着替えが終わりました、どうぞ次の方使ってください」

話、聞こえていたんだろうな、声に覇気がない。

「あぁ、ありがとう、早く顔を洗ってくれ」

バタンと向こうの扉が音を立てて閉まった。


……さて、水着か。これはバレるかな。

翔真とジジイを上手く説得して、先に行ってもらった。後はオレが着替えて入るだけだ。

まぁ、まずは水着の確認だ。パンツ型ならあきらめて帰ろう。

ぺろんと折りたたまれた布生地を広げる。

あっワンピースだ。肘上の袖と膝上の丈。ウェットスーツに近いけど、横縞の、この、なんて言うのかな。ださいデザイン。ライクあプリズナー。

ネタらしいネタだ。いい意味で男女共通かも知れない。


ふと、疑問に思う。

オレの身体、設定上女性ということは確認した。しかし、どの程度女性だというのだろう。

服の上から外見で男と判定されるような体型。これは、補正があってこその少年体型なんだろうか。

ドキドキしながらシャツをとった。

薄着、という自覚はあった。ただ、布の服一枚とタンクトップだけだったとは思いも寄らない。

さらしなどという夢補完便利アイテムは使用しておりません。


そして、そのタンクトップの下はというと。

ぺったらこ。

ちっぱいとかいうレベルじゃねえ。

まじで、ない。絶壁。ナイン。何という無い胸。

これは、今まで経験したことない新しいパターン。いままではこう、着やせするタイプの設定が多かったんだが。

それともあれか、性別が女なのではなく未分化なやつなのか?

男の象徴も女の象徴もついていないってやつなのか?

確認し直すが、間違いなく性別は女……

は、発育不良すぎる……


想定外の発見にずずーんと気分が沈んでいるところに、きいと扉の開く音がする。

ちょっと待て。今非常に無防備。特に上半身が。

はいはい、来ましたラッキースケベ、される側。いや、そうでもなかった。

扉の奥から現れたのは流留華。

おぉなんだそのホルターネックのふりふりビキニ。襟元からのぞく胸はこぼれんばかりの豊満さ。胸から美しいへそへ綺麗な曲線を描く腰。世界観にあわせてなのか作者のセンスがただ悪いだけなのか若干水着が汚い色をしているがそれでも破壊力抜群。

おい、作者、色気の描写が甘いぞ!!

オレは見とれて固まっていたが、彼女も同様に固まっていた。

その視線は今まさにズボンにかけようとしていたオレの手に向けられている。

「あ、その。し、失礼しました」

ばんと優雅さのかけらもない音を立て、彼女の姿は消えた。

……誤解、解けてない。

半裸でも、間違われるって、これは、きつい。

男女の差ってバストだけじゃないだろ?こう、肩の丸みとか腰つきとか。他に手がかりあるだろう?

思い込みって怖えな。

手は無意識に胸に当て……ようとして、なかったもんだから途中で気づいた。

「爆ぜろおっぱい星人」

せめて胸筋鍛えるか。


顔を真っ赤にした流留華は小屋から出てきたオレと入れ替わるように、扉の向こうへ消えた。服を洗いに行くそうだ。

顔の泥綺麗に落とした後、どうせ先に来た翔真達からオレらは先に川で服についた泥を落としていたと聞いて慌てて洗いに行こうとしたんだろうな。オレがまだいるのに気づかないとは、おっちょこちょいなところがある。


温泉は階段状のプールになっていた。滝の湯水が飛び出した岩々に穴を開けたのだろう。

湯煙の向こうに翔真を見つけるが、ジジイがいない。

「上の方に行くと湯が熱いそうです。器用に登って行かれましたよ」

いつも以上に冷ややか眼光が感じ取れる。なんだ、更衣室での一件はオレ、全く悪くないぞ。

しかし、緩やかとはいえこのよく滑りそうな滝を登れたなジジイ。確かに、三段上のプールに人の頭が見える。

「お前は登らないのか?」

「ツクミノクニに湯浴みの習慣がないので、熱いお湯は慣れないんです」

そうかそれはおもしろいことを聞いた。熱湯風呂に一度突き落としてみよう。

なんて実現する気もない事を考えながら、どの程度なら平気なのかと湯の温度をみた。

うん、ぬるい。温水プールレベル。水よりはぬくい。

そのまま足を床につけようとしてぬらりとした底に足を滑らせた。何これ深っ……

水面を下からのぞき込む形になった。半すり鉢状の底はオレの身長より、深い。

とっさのことにパニックになったが、引き上げる力が加わり無事水面に出た。そのまま縁に体を引っかける。

咳き込む、鼻に水が入った。痛い。

「大丈夫ですか」

ニヤリとした笑みから、これは奴がオレを陥れるために練った作戦だったと確証を得る。

「だまされた」

深さを感じさせないように、きっと奴は縁に捕まり水面下で体をぷるぷる震わせながら耐えていたんだろうな。くそ、突き落とされたなら向こうが悪いが、勘違いして自ら落ちるとは。しかも引き上げてもらった以上、奴は善人で悪いのは自分のみ。

クソ、策士か。その努力他に使ってくれ。

「流留華が見ていないところで残念だったな」

「ご冗談を、貴方が沈んだところを流留華様に見られでもしたら火柱が上がってましたよ」

そこにも地雷あるのか。

「まあ、サクラノクニの一件では貴方のこと、見直しましたよ」

「珍しいな、ちょっと気持ち悪い」

珍しく素直そうな顔をしていたので、こちらも率直に感想を述べたらいつものようにムッとした顔になった。

「……確かに、そうですね」

はあと一つ長くて深いため息をついた。姿勢を変えたせいか少し体を沈める。

「私は痛んだ体を回復させることができます。だから、でしょうか。私は、大切な人ですら傷つく事などどうでもよくなってしまっていた。流留華様のトラウマが増えたのも私のその行動が理由でしょう。体が治っても痛みは記憶に残る。そんな簡単な事に今まで気付くこともできなかった」

水面を見つめる彼は、歪んで映る自分自身を攻めに向かっている。

「私は、最低です」

また、数センチ沈んだ。

「翔真」

顔を上げる頃合いを見て、足払いを仕掛けた。

盛大な音を立てた割に頭の先まで浸かる前に自力で浮上する。

「なにをするんですか」

「そこに隙があったんで、つい」

実は根に持つタイプでして。

「考えを改めました、ばかばかしい。やはり貴方のような男を流留華様に近づけるべきではない」

「それとこれとは別だろ。オレ、流留華に悪いことなんて何もしてない」

「確かに、そうなんですよね」

目の前の男にとってサクラノクニの一件は相当堪えているらしい。でもなければ、こんなに近くで話などしていることがおかしいのだ。

そう、近くで。

ぬるい湯とはいえ、長時間浸かっているからだろう、疲れからか呼吸が荒い。いや、オレがさっき沈めたせいか。胸に空気が送られる度に鎖骨が水面で上下する。

細身の体は予想よりも筋肉質で、黄色いボクサーパンツの水着がよく似合う。まあ、水着自体がださいけど。

そうだな、今まで一度も描写したことなかったんだけど魔力を高めるとかいう怪しい身の丈ほどある杖を振り回しているんだ。オレの剣も重いけど、こいつの杖も相当重くて扱いは難しそうだった。

……オレより胸囲あるんじゃね?泣きたい。

爆ぜろ雄っぱい!

おい、作者、色気の描写があ……甘い、ぞ

やめよう。もう余計なことは止めよう。これ以上意識なんぞしてたまるか。

頭の中は流留華でいっぱいな奴は、相変わらず水面を見つめる。

「流留華のこと、気に病むのもそこらにしといた方がいいと思うぞ」

何か訴えたそうな目が、こちらに向いた。

「いや、オレは何もできないから火柱に飛び込まざるを得なかっただけで、それとは別にお前は彼女を回復させる事ができた。実際お前がいなかったら治療も満足にできずオレも流留華も共倒れしてたろうよ」

要は、仕事が別だった。確かに翔真が言った痛みがトラウマに残ることもあるだろう。だけど、突っ込んで行ったオレも彼女を傷つけてしまった気がする。流留華はオレが火傷をしたことを気に病んでいた。オレのせいで余計な後悔をさせてしまった。そのことを、翔真に伝えた。

「やっぱり一番は事前に防ぐことだよな」

「難しそうですけどね」

「……ここは手を組もう。目的は流留華の暴発を二度とないものにすること。オレは、地雷踏まないように気をつけるし、捨て身で止めに行く。だから翔真はこれまでの経験を提供。そして、突っ込んだオレを助けてくれ」

「できるかどうか不安ですが、悪くないですね。それに同盟のようで、ええ」

楽しげにぶつぶつとつぶやいている。

「貴方にしてはまともな提案です。ここは男同士、同盟を組ましょう」

えーっと。男同士とは違うんだけどな。まあ、形式にこだわりたい人のようだし好きにさせよう。

「じゃ、それで」

流留華を過去のトラウマから起こる暴走から守る同盟発足。名前が長えんだよ、バカ者。


流留華が戻ってきてしばらく経ってもジジイが降りてこないもんで様子を見に行ったら案の定ゆであがっていた。そりゃこんなバカみたいに熱いお湯に浸かっていれば気も遠くなるさ。

湯あたりの対処法ってどうすりゃいいんだろうと思った矢先、頭上で嫌な陰が映る。

「お久しぶりですねえ、覚えておいでですかあ?」

ジジイを引きずり出す為入った熱湯でほてりそうだったっていうのに、背筋が冷たくなる。

慌ててジジイ担いで滑り降りる。

後ろを見るのが怖い。一人で対峙などできない。したくない。

所々ぶつけたけど、ごめん、ジジイ。後で翔真に何とかしてもらってくれ。

「流留華、翔真。ムライムキがいる!上だ!!」

大声で下にいる奴を呼ぶ。

のんきな顔をしていた二人も慌てて水中から滑り出る。

参ったな。みんな手ぶらだ。丸腰だ。

いち早く小屋に着きそうなのは翔真。だが、それより早く、ふわりと上空から長身の男が舞い降りる。

相変わらず病的な灰色をした顔は陰気で、目は虚ろ。少し身なりが綺麗になっている気がするけど、やっぱり陰気臭い。

「前回は、ええ、お会いできませんでしたねえ。少し待ってはみたんですけどねえ」

ゆっくりとした口調、そして伸びた語尾。おかしいな、どれをとってもいい印象など受けない。

「なんだ、待っててくれたんだ。そりゃ光栄だな」

「ええ、一応アナタのこと見ていたんです。おもしろそうですから」

んん、と体をくねらせ、うっとりとした表情を見せる。

「本当は今もねえ、行きたい所は一番上にあるんですよ?でもねえ、アナタを見つけちゃいましたからねえ、やっぱり、お話ししておきたいじゃないですか」

ええい、鬱陶しい。

しかし、目的地は一番上か。この滝を登れば着くのか。

ジジイを適当に横の水槽に入れる。

ジジイがおぼれないことを確認して、オレは滝を登り始めた。

「んほう!いいですねえ。やってくれますねえ。期待通りですよ。うれしいですねえ」

「黙れ!気色の悪い」

勢いで滝登り始めちゃったけど、背中に奴の視線を感じるってものすごく気持ちが悪い。視線以外の何か黒い固まりが後ろにへばりついているんじゃないかと勘違いするほど、気持ち悪い。呪いか何かがかかりそうだ。

なんとか一段上り、先ほどまでジジイがいたあつーいプールまでたどり着いた。

頂上まであと……二段。滝を流れる水は火傷こそしないが熱い。お湯をかぶった腕が赤く変色し熱を発する。

登頂は無理じゃないかな。これ以上登れるとしたら人間辞めた輩だ。

「気付きましたねえ、遅いですよお。でもそれがステキなんですねえ」

黙れムラサキクチビル。お前は体を温めた方がいいぞ絶対。きっと血色がよくなる。

クソ、オレが熱湯にひるんでいるとばれたか。参ったなあ、ジジイがいれば何とかなるかもしれんが、今はのびちゃってるし。

「流留華、この滝止められないか?」

「やってみる」

何だ、何か方法でもあったのか。

あれ、翔真がまずいまずいと手を大きく振って……あ、何かさっき同盟組んだ後川に関する流留華のトラウマ集聞いたなあ。

どーんと後ろで地響きが聞こえる。同時に、滝の流れが止まった。上流で水が止められたのか。

流留華の調子は問題なさそうなので、今がチャンスと崖登りを再開する。

水は止まったとはいえ、崖の岩は熱い。冷水で一度冷やせないかなあなんて思う横に一筋水が流れていく。ああ、ここで温水の滝と別の場所から来る冷水が混ざり合うようになっているんだな。

冷水は滝の途中で岩の隙間から噴き出していた。ってことは、この上は本気で熱い。

流留華がいつまで止めてくれるか心配しながら、進むしかないのか。うわ、怖い。それにさっきまでは滑り落ちてもプールが各段で待ち受けてくれていたけど、今は、プールのお湯が熱すぎる。本格的に命の危険を感じています。

「零!ムライムキがそちらに行きました」

止めてくれ。勘弁してくれ。

思うまもなく、頭上にぬぼっと長身が現れた。こちらを見てニタリと笑うと、そのまま崖の上へ消える。

また、崖からふっと顔だけ出した。

「くふ、おかげさまで到着できましたねえ。このお湯が厄介だったんですよ」

あ、この、クソ。流留華の魔法が利用されたっていうのか。

「では、さっそく。夏をいただくことにしましょうかねえ」

崖の向こうに姿を消したもんだから、ムライムキが何をしているのかわからない。ただ、岩肌にかけた手足が、総毛立った。

次いで、肌に触れる空気が全て冷たくなる。

「さて、もう滝をせき止める必要はありませんねえ」

ムライムキの声に、我に返る。

待て、そんなことされたら……

「ふふふ、では行きましょう。さあん、にい、いち」

「やめてええ」

あ、後ろが熱い。ああ、そうだトラウマ踏んじまった。川をせき止めて遊んで、そんで……無茶しやがって。よい子は間違っても水門で遊んじゃいけないよ。水の力は凄いんだから。

「ぜろですねえ」

身動きがとれないオレの上へ、タールみたいに黒くて、不透明で、ドロドロした、液状の何かが、固まりで……落ちて、きた。

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