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先走る設定

ここでは「夢小説=他の作品へ新たな登場人物が乱入・介入することによってできる二次創作」と定義していますが、夢小説については違う定義もございます。ご容赦ください。

ふっと目が覚めたとき、オレは空を見上げていた。

どうやら新しい世界に呼ばれたようだ。オレは突っ立ったまま木漏れ日を顔全体で浴びていた。いい加減首が痛い。

夢小説というのだろうか、オレはオレを作った作者とは他の輩が作り出した世界に乱入して、それを台無しにする夢主人公。台無しかどうかはオレ基準だが、オレの作者としては最高の作品のつもりらしい。どうも理解はできない。

しかし今回は少し変だ、いつもは目が覚めたとたんその世界の情報や元の主人公たちの設定が入ってくる。第一、オレの設定が不確かだ。

ひょっとして、今回は原作となる世界を持たないのか?では、今度こそオリジナル主人公というものになれるのか?

白と緑の空から目をそらし、右を見てみた。

女だ。女の顔がいる。気の強そうな美人だが、どこかイモくさい。オレにはよくわかる。作者の思い描ける美人はここらが限界なんだ。

左をみた。優男の顔だ。イケメンという部類だろうが、やはり何か足りない印象を受ける。まだキャラが練れていないというか、キャラクターのバリエーションを持っていないというか。いろいろと経験不足だとオレは思うぞ。

しかし、なんだか、こう、三脚で固定したカメラといったように視界が横にしか動かない。彼女らの体が見えない。

まだ、イメージできてないんだろう。

後ろに誰かいる気がするが、そこまで首は回らない。変なところだけ現実に忠実だ。

何となく小柄な老人だと思う。いや、オレがそうだと思うんだから小柄な老人なんだろう。たとえ見えなくても、そのはずだ。


お、ようやくオレの体が見えるようになった。

中性的な体つきだ。ちょっと確認する。よし、正式設定は女らしい。あの作者性別不明が本当に好きだな。キモい。

体が決まった直後、一気に情報が湧いて出た。


オレの名前は零。どの世界に行ってもあの作者はこの名前を変えることは無い。表記は変わる事もあるが基本的に読み方はいつもレイだ。

零はある国に雇われていた兵士だったが、事件を境に兵士をやめ、冒険者として世界を旅している。

とは言うものの、装備がしょぼい。

設定を見る限りでは歴戦の兵士のつもりのようだが防具はなく布の服とズボンと革のブーツ。そして武器の金属の剣が背中に引っかかっている。

防御力も攻撃力も低そうな初期装備だ。兵士を舐めてるのか。

こんな格好で動き回る身にもなってみろ。勝利が約束されていても辛いぞ。

とはいうものの、きっと戦闘は無いだろう。あれにオリジナリティのあるモンスターをかけるとは思えない。


設定の続きを話そうか。

右の女。名前は流留華。きらきら輝いた名前だが、まだ読めるぶんましか。魔法を使う頭の良い令嬢。零に助けられてから親の反対を押し切って旅についてきた。

育ちがよく、料理が下手。頭がいい割にちょっと抜けた天然系。

ステレオタイプのヒロインに分類される。

待て。オレ自身がヒロインではないのか。

あー。この、オレを男と思い慕っているの辺り、横線で取り消してくれないかな。


左の男に移ろう。

流留華の元付き人。気の優しい不器用な紳士。

流留華の事を妹のように思い、男との二人旅に事故が起こらないかと心配でついてきた。

だからオレは女だ。いつバラすんだ。今でしょ

それに流留華とは二人旅にはならねえよ。ジジイのこと無視すんな。ジジイこそが初期メンだからな。

不確定メモがある。零が女と知った後は……ここで終わっている。

もったいぶった書き方すんな。

そうだ、忘れてたこいつの名前は翔真。なんかアンバランスな表記だ。

回復要員でいいな。


後ろの老人についても少し形がはっきりしてきた。

オレのお目付け役。城の口うるさい長老だったが、オレとともに城を出てさまよっている。

イメージが未だ固まらない。苦手な分野なのだろう。途中から存在が消えかけて死亡説が出ても仕方ないな、うん。

こいつも魔法が使えるらしい。

名前はまだのようだ。しばらくジジイと呼ぶことになっている。


ちょっと待て、前衛と後衛がアンバランスすぎるだろ。

物理要員一人って、もう少し考えろ。

オレ一人とか足止めすらできないぞ。


「零様?どうなされました?」

いつの間にか樹の根本に腰掛けていたオレを流留華がのぞき込んでくる。

「流留華様、その男に不用心に近づかないでくださいと言っているでしょう」

おまえは何様だ。オレはそんなに危ない奴か。

舌打ちすると、翔真は流留華の方へとんできた。

翔真がオレに抱く嫌悪感は相当な様子だ。オレだってろくに夢主人公張ってるわけじゃない。こいつがそのうち陥落することは作者の趣味からすでに確定済みだ。

なんてったって、オレは世の男全てから愛されてもおかしくない存在だからな。

……分析結果とはいえ、自分で言うと気持ち悪いな。おとなしく読んでいてくれてうれしいよ。


―――いい加減本筋を進めたい

オレとジジイはこの世に降りかかる災厄を事前に防ごうと旅を始めた。

オレのいた国……えーっと、ティテン、いや、テルヒノクニではまず色が、えっと、色が―――世界から色が消えたかと思わされた。次の日になっても太陽が……ええい、面倒くさい、全然本筋じゃないじゃないか!!

過去設定なんて冒頭に並べたところでどうせ流し読みだろうが。

とにかく、オレ達は災厄を呼ぶという怪しい男を追っている。これだけ踏まえておけば何とか進めるだろう。


もういい、さっさと移動しよう。あの作者のことだからどうせ内容がないようなライトなノベルでしかないのだ。

実際、小説と呼べるのかも怪しい設定を語るだけの文章なのだから、勝手な行動をしようと構うものはいないだろう。

「あ、待って零様」

立ち上がると、翔真に引き留められていた流留華が慌てた様子で駆けてくる。そして彼女の方が背は高いはずなのに上目遣いで小首をかしげながら目をのぞき込んでくるというあざといアピール。無駄だ、何がしたいんだ。

「ムライムキと呼ばれたあの男、次は春を消し去るって言っていました。きっとサクラノクニです」

そう言いながらオレの後ろ側を示す。

そうだ、こいつは頭がいい設定だったな。何も考えずに進もうとしたオレをいさめたわけだ。

「そうだった、ありがとう流留華」

礼を言うと、彼女の顔がふんわりほころんだ。メインキャラにしては珍しい、ただのボケボケキャラのような微笑み。かわいいやつめ。

しかし、なんといえばいいか、流留華の言うその情報は知らんぞ。過去の設定はあるが彼女が言っていることの記憶がない。厄介な状況にあるようだ。

迷走していてもしょうがない。しばらくはおとなしく従うとしよう。


「改めて出発といこう。ジジイ、もう休憩はいいか?」

なめるな若造などと憎まれ口が返ってきた。

「儂よりもそこの男の方が顔色悪いぞ。こんな所で休むのが性に合わないんじゃろ、さっさとゆくぞ」

「そ、そんなことありません、私は平気です。ですが、はい、早く進むことには賛成です」

にやりと笑う意地悪そうなヒゲジジイと、男の方は素直ではなさそうだ。ツンデレの気があるとみた。

こんな連中がちょこまかやるだけの、薄っぺらい話だが、付き合ってくれるとうれしい。

オレもできるだけ愚痴は控えるよう頑張るからさ。


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