八
午後7時。暗いビルの一室で黒い影は椅子に座って携帯電話を捜査している。
「捜査一課3係か。鬼頭を逮捕した刑事たちには見どころを感じるが、奴らが関わったら厄介なことになる」
その黒い影はメールを打ち終わると、手元の懐中電灯で壁に駆けられているコルクボードを照らす。コルクボードには捜査一課3係に所属する刑事たちの写真が乱雑に貼られている。その写真はどれも隠し撮りしたような写真だった。
その写真を見ながら黒い影は不敵に笑う。その時黒い影の携帯電話が鳴った。
「もしもし。殿方。何か用ですか」
『あなたの前に捜査一課3係の刑事が現れたと風のうわさで聞きました。あの刑事たちを殺すつもりはありますか』
電話の主殿方と呼ばれる男の声はボイスチェンジャーを使ったような不気味な声だ。
「ないよ。あの刑事たちは暗部にとって脅威になるけど、ここで私があいつらを殺したら殿方との約束が守れなかったことになるから」
『それだけ分かっていれば十分です。先走って刑事たちに捕まったら処刑しますから』
「大丈夫。そんなミスはしないから」
『それでは本題に入りますか。今回は時間の都合でいつものクイズは省略します。名無しさんから鬼頭を脱獄させてほしいという依頼が来ているんだけど、あなたはやりたいですか』
「名無しさんですか。訳ありの依頼主は詮索しないというのが、この世界の常識だけど、あえて聞きますが、まさか名無しさんの正体は殿方ではありませんか」
『それは違います。やりますか。ませんか』
「やりません。私の出る幕はないでしょう。私が参加しなくても残りのメンバーがノリノリでやるはずですから」
『それは残念です。本当の作戦の準備運動になると思うのですが。あなた以外のメンバーは参加するので脱獄計画は成功するでしょう』
「残りのメンバーに皆様にお伝えくださいませ。大暴れするのは本番にしろと」
『伝えておきます。それでは次は本番の直前に連絡します』
「それでその脱獄計画の実施日はいつですか」
『1月20日午後10時頃です』
「分かりました。それでは一週間後のテレビニュースを楽しみにしています。きっと一週間後のテレビは特別番組で潰れるはずですから。失礼します」
黒い影は電話を切り、コルクボードから合田警部の写真を一枚取り外す。写真を手にした黒い影はライターで写真に火を付けた。「合田警部。最強の鬼頭を戦闘という手段を用いずに戦意喪失させた刑事。興味深い刑事だ」
黒い影は燃えた合田の写真を灰皿の上に捨てた。