二十一
事件解決後の午後7時。合田は稲川書店に向かい『頭狩武者殺人事件』の原作本を購入した。もしもこの推理小説がドラマ化されなかったら、暗号解読に手惑い岡本宇多が殺害されたかもしれない。暗号解読のヒントを与えた原作者二階堂晴男に感謝するために、原作本を買おうと思った。
原作本はドラマ化されるということもあってか一冊しか残されていなかった。合田はその一冊を購入し、帰路に着いた。
稲川書店の出入り口を出て、駐車場に向かう合田の姿を黒い影は見ていた。その黒い影は合田に気が付かれないように、スマホのカメラ機能を使い彼の姿を盗撮する。シャッター音が鳴らないカメラアプリを使用したため、周囲にシャッター音は聞こえない。
合田は盗撮されたことに気が付くことなく駐車場に向かう。
午後10時。暗いビルの一室で黒い影はパソコンを操作していた。パソコンのモニターには合田警部を隠し撮りした写真が表示されている。
黒い影はふと壁に架けられた時計を見る。
「そろそろか」
黒い影はテレビの電源を入れる。テレビではバラエティ番組が放送されている。それから5分後番組は突然ニュース番組に変わる。
『臨時ニュースをお伝えします。先ほど午後10時頃東都刑務所が何者かに爆破される事件が発生しました。こちらが事件当時の映像です』
テレビに映された映像はまるでハリウッド映画のようだった。固いイメージの刑務所が爆弾により壊れている。現場を黒煙が包み込んでいる。
『なお東都刑務所には鬼頭死刑囚が服役しており、警視庁は死刑囚を狙ったテロの可能性を考慮して捜査するとのことです』
「全く。やりすぎです。彼らは加減をしらない」
すると黒い影の携帯電話が鳴った。
「もしもし」
『ニュースは見ましたか』
その電話の相手はボイスチェンジャーで声を変えた殿方と呼ばれる男だ。
「殿方。やりすぎですよ。言ったでしょう。派手にやるなって」
『まさか朱雀さんが大暴れするとは思いませんでした。最も彼女が用いる爆弾の火力があれほどだとは思いませんでしたけど。今思えば東京拘置所襲撃はシノだけでよかったかもしれません。それで疑いは晴れましたか』
「はい。合田警部に会えたから、容疑者というのも悪くありませんよね」
『盗聴の心配は必要ありませんよ。メアリーが上手いことやっていますから。無理していますよね。帯刀美咲さん』
「それなら殿方もボイスチェンジャーなるもので声を変える必要がないと思いける」
『正体を秘密にしなくてはならない理由があるからあえてボイスチャンジャーを使用しているのですよ』
「実は楽しんでいたのであるまいな。私が普通に話しているのを」
『まさか。それはありません』
帯刀美咲は電話を切り、ろうそくにマッチで火を付ける。ろうそくの明かりにより帯刀美咲の顔が照らされた。
捜査一課3係のメンバーを付け狙う謎の組織『ミラージュパーティー』のメンバーたちは静かに動き出そうとしている。
原作者山本正純です。混沌とした世界の中でシリーズ第12弾『グループ』いかがだったでしょうか。
久しぶりの短編となった今作で描かれたのは、麻薬中毒事件を発端にして起きた暴行事件。誰が犯人でもおかしくない状態で後半から誘拐事件に突入するというサスペンスでした。
今作は2つのリベンジを達成しました。一つ目のリベンジは誘拐事件の描写。処女作である『赤い落書き殺人事件』でも誘拐事件を描きましたが、今作のような描写は描くことはできませんでした。それだけ執筆能力がアップしているということでしょう。
二つ目のリベンジは、『退屈な天使たちが一切登場しない話』です。皆様。お気づきでしょうか。今作は終始『退屈な天使たち』という組織名やそのメンバーが登場しない話であったことを。第9弾『思惑』で初挑戦しましたが、あの時はラストシーンで『退屈な天使たち』という組織名を使ったため達成できませんでした。
退屈な天使たちが一切ストーリーに絡まない今作が面白い作品だったのかは作者である私ですら分かりません。
さて、次回作は混沌とした世界の中でシリーズ第13弾。今作とは違う『退屈な天使たち』絡みのサスペンス。次回作は中編小説になる予定ですが、その前にSSを挟まないといけません。SSでは新ヒロインが登場。第13弾と繋がるストーリーだけど、プロローグではない。
それでは混沌SSⅡと混沌シリーズ13弾をお楽しみに。
これで新組織『ミラージュパーティー』のメンバーは出尽くした。そして彼女たちの組織のボス『殿方』も既に登場した人物たちの中にいる。




